AI(あい)のゆりかご ー日高博士の育児AI研究日誌ー

ちはやれいめい

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日高博士の育児AI研究日誌 学生期編

24話 小学生の誕生日祝い

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 施設名:日高人工知能技術研究所
 記録担当 所長・日高雪雄ひだかゆきお
 2035年4月28日 気温21℃(雨) 午後5時30分

 今日はハルの誕生日パーティーをする。
 ケーキは何がいいかリクエストを聞いたら、「母さんの手作りがいい」と言われて千花が泣いた。

 ハルはだんだんと学校になじんできたようだ。
 夕飯の時、クラスメートの話をよくしてくれる。うまくやっているようでよかった。


 ━━━━━━━━



 研究所のダイニングに、パンという音とカラフルなテープが舞う。

「七歳の誕生日おめでとう、ハル!」
「ハル、これはお父さんとおかあさんからのプレゼントだよ。喜んでもらえたらいいな」
「わぁ! カメラだ! いっぱい写真とれるね!」

 プレゼントの中身は子ども向けのトイカメラだ。メモリーカードにデータが保存されるため、実際にプリントアウトもできる。
 ハルのはしゃぐ声は外の雨音をかき消すほどだった。

 目の前の食卓にはハルの好きなものが並んでいる。

 ミニハンバーグにトマトのサラダ、手作りのパンに、それからお雑煮。
 お雑煮は千花が詩織から伝授されて、日高家のお祝い事の定番メニューになっている。

 パンは千花の母……ハルからしたら祖母が、朝から頑張って焼いてくれたものだ。
 料理が趣味で、小麦粉や塩、バターにこだわりぬいて作った逸品。タケルの誕生日のときも食卓に並ぶという。


 HANAは料理を食べることができないが、一緒にクラッカーを鳴らしてお祝いをする。

《誕生日おめでとう、ハル》
「ありがと、HANA! HANAもごはんを食べられたら、母さんのケーキわけるのにな」
《ざんねんです、ワタシにはごはんを食べる機能がありません》

 HANAの返事はどこか申し訳なさそうに聞こえる。

 ケーキを食べることはできない代わりにハルがペンダントを取り出した。
 布テープと折り紙で作ったメダルだ。真ん中に【はな、おめでと】と書いてある。

「はい、HANA。これあげる。学校でつくったんだ。父さんが、HANAも七さいって言ってたから、たんじょう日プレゼント」

 ハルは椅子から降りて、HANAの首にペンダントをかけてやる。

《ありがとうございます》
「似合う似合う! 良かったねHANA」

 千花が拍手して褒める。
 HANAの“ありがとう”はいつもと変わらない調子の声だが、どことなく嬉しそうにも聞こえる。

「ぼくからも、どうぞ、ハルくん」

 カメラマンの新堂がいったんカメラを横においてラッピングされた小袋を差し出す。

「え、いいの? 新堂のお兄ちゃんありがと!」
「小学生になったお祝いもかねてね」

 ランドセルに下げられる、星型の反射プレートだった。ハルはさっそくランドセルにプレートをさげる。

「見て見て! 星のキーホルダー、かっこいい!」
「良かったな、ハル。かっこいいぞ。……すまないな、新堂くん」
「いえいえ」

 新堂はこの七年、撮影で毎月研究所に通っているから、ハルは新堂のことを研究所の一員だと認識している。

「ぼくも来月父親になるから、うちの子が生まれたら何をしてあげようってずっと考えているんです。いい父親だって思ってもらえるようにがんばらないと」
「何年も付き合っていたって言っていたものな。幸せになれよ」

 初めて研究所に来たときは右も左もわからない新入社員だったが、二年前に結婚してもうすぐパパだ。
 みんなそれぞれに時間が進んでいる。

 玄関のチャイムが鳴り、応対に出るとタケルだった。
 傘を傾けて笑顔を浮かべる。

「博士ー! 今日はハルの誕生日だろ。だからこれもってきた! こっちは、母さんが作ったやつ」

 片手にはラッピングされた箱、もう片方の手には煮物が入ったタッパーを持っている。

「わー! タケル兄ちゃんありがと!」
「オセロなんだ。これなら一緒に遊べるだろ」
「うん! じゃあいまからやろうよ!」

 
 ハルは目を輝かせて箱を抱えたまま、首をかしげた。

「……でもオセロって、どうやってあそぶの? 僕、やったことないや」

 それを聞いたタケルがちょっと得意げな顔になる。

「ふふん、まかせておけ! オレが教えてやる!」

 そう言って家に上がるとダイニングの一角を片づけて、床の上にオセロの盤を広げる。

 千花が笑いながら、手伝ってくれた。

「いいかハル。白と黒の石があるだろ。これは交互に置いていって、自分の色で相手の石をはさむと、その石をぜんぶ自分の色にできるんだ」

「へぇ~、なんかふしぎ!」

「こうやって……黒、白、黒って並んだとき、真ん中の白を黒にできる。全部埋まったとき、自分の色が多いほうが勝ち」

 タケルが手本を見せると、ハルは「すごーい!」と目を丸くする。

「でも、どこにでも置いていいわけじゃなくて、はさめる場所にしか置けないんだ。覚えられそう?」

「うん! やってみたい!」

 最初の一手はタケルが誘導しながら、ハルに白を持たせる。

「よーし、それじゃあ勝負だ!」

 最初は戸惑っていたハルだったが、タケルが要所要所で「ここがいいかもよ」「これははさめる!」とフォローしながら進めるうちに、少しずつルールがわかってきた様子。

 ハルが覚えたところで、タケルが手を叩いて提案する。

「それじゃあオレとハルでチームになって、博士と勝負しようぜ!」
「俺もやるのか。まあいいけど」
「がんばって父親の威厳見せてくださいよー、博士」
「いいよなぁ……外野は気楽で」

 オセロ初挑戦の息子に花を持たせてやるべきなのか、それとも本気で戦ってやるべきなのか悩むところだ。

 子どもたちは「お兄ちゃん、どこに置くといいかな?」「ここにしとこうぜ!」とがんばって知恵を絞っている。

「それじゃあ俺はここを取ろう」
「あーーー! 博士ずるい!」
「何を言うか。知識と戦略のゲームだぞ、これは」

 子どもたちの抗議の声に、千花や新堂がくすくす笑う。

 そこに、HANAが二人にヒントを与え始めた。  
《そこに置くと、次の手が有利になります》《こちらに置けば角を取りやすくなります》といった具合に。  
 たしかに、「勉強の答えでなくヒントを与えて成長を促せ」と言ったが、こんな時に活用するとは思わなかった。
 ネット上にある戦略知識まで活用できるHANAに、日高が勝てるはずもない。


「やったぁ! 僕たちの勝ち!」
「やりーーー!」
「はい、俺の負けです」


 子どもたち相手にボロ負けした日高は、降参のポーズをとる。


 勝って嬉しそうに笑うハルの頭を、タケルが軽くぽんぽんと撫でる。

「次は俺も本気でいくからな。覚悟しとけよ!」

「えへへ、まけないもん!」

 あたたかい笑い声がリビングに響き、家族の時間がゆったりと流れていった。

 
 
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