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日高博士の育児AI研究日誌 学生期編
25話 ロボットの家族って変?
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五月に入り、暖かい日が増えてきた。
研究室では、日高と玲司が盲導犬型ロボットを組み立てていた。
静かに流れる電子音と工具の金属音。その中に、ぽつんと沈んだ声が混じった。
「ただいま……」
振り返ると、玄関からハルがしょんぼりと歩いてきていた。
「おかえり、ハル」
《おかえりなさい、ハル》
HANAの声が優しく響くが、ハルは返事もせず座り込んで膝を抱えた。
いつもなら、ランドセルを背負ったまま「今日ね!」と話し始めるのに。今日はまるで重たい雨雲を背負って帰ってきたようだった。
前足のパーツを組んでいた玲司も手を止め、心配そうに眉を寄せた。
「どうしたんだよ、ハル。給食でピーマンでも出たか? それともシイタケか?」
からかうような口調にも、ハルは小さく首を振る。
「ちがうよ……。今日ね、学校で“ぼくの家族”っていう作文の宿題を発表したんだ。僕は、HANAのことも書いたよ。HANAはロボットだけど家族なんだよって」
そこまで言って、言葉が詰まる。
うつむいて、指先をいじりながら、ぽつりと続けた。
「そしたら……“ロボットの家族なんかいるわけないじゃん”って、みんなに笑われた。僕は、うそなんて言ってないのに」
しん……と研究室の空気が静まった。
日高と玲司は目を合わせ、少しだけ息を吐いた。
「……そうか。そうだよなあ」
玲司がつぶやく。
「タケルのときも、似たようなことがあったな。『お父さんはロボット工学者なんだ。生活を支える人型ロボットを作った』って書いて、ほかの子に“なんだよそれー”って笑われたらしい。ロボット研究って、まだまだ知られてないもんな」
ここは、新潟の静かな町。
大学や企業の研究施設が多い首都圏の都市部ならともかく、こんなど田舎で「ロボットと暮らしてる」なんて話しても、子どもたちにはマンガかアニメの話にしか聞こえない。
バカにするのは良くないことだが、見たことないんだから信じろというのが無理な話。
日高は静かに、ハルの肩に手を置いた。
「ハルにとっては、HANAがいるのが“ふつう”だったんだな」
顔を上げて、こくりとうなずく。
ハルは生まれたときからロボット研究所という特殊な環境にいた。
自分の家にロボットがいることは、ほかの子にとっては珍しいことなのだと知らない。
誰の家にもロボットがいるくらいに認識していたのかもしれない。
「いいか、ハル。俺がロボットの研究をしているからうちにはHANAがいるけれど、ほかの子の家にはロボットがいないんだ」
「え? そう、なの?」
「ああ。だからみんな、見たことないものの話をされても、わからなかったんだよ」
ハルはジーッと日高の目を見て、それからHANAを見て、なっとくしたようにうなずいた。
「そっか。同じ、なのかも。僕もね、クラスの田中さんが『俺んちには牛がたくさんいるんだぞ! 一〇〇匹くらい!』って言ってるの聞いてもわからなかった。僕の家に牛はいないし、牛を見たことないから。すごくおっきいおうちなのかなって」
「あー、なるほど。田中さんのおうちは酪農か畜産をしているのか。そうだな、そういうことだよ。みんな、家族が違うんだ。兄妹が多い子もいれば、おじいちゃんやおばあちゃんが一緒に暮らしている子もいる。動物の仕事をしていたら牛や鶏がたくさんの家もある」
みんな家族の形が違うから、ハルはの過ごしてきた環境は変なことじゃないと諭す。
それからハルはいつもみたいに給食のことや、昼休みにタケルが遊んでくれたことなど晴れやかな笑顔で話しはじめる。
さっきまで背負っていた暗い雨雲は、どこかに消えてしまったようだった。
━━━━━━━━
施設名:日高人工知能技術研究所
記録担当 所長・日高雪雄
2035年5月8日 気温25℃ 晴れ 午後5時00分
ハルが宿題で書くことでまわりからいろいろと言われるとはな。
ロボット研究所の育ちであることは特殊な環境なんだよな。
都心の工業、商業が発展した特区ならまだしも、新潟の片田舎ではロボットの普及率が低い。
せいぜいが本屋の片隅にいる蔵書の検索ロボか、レストランの配膳猫ロボくらいだ。
いつかどの家にもロボットがいることとが当たり前になれば、笑われたりすることもなくなるだろう。
一日も早くそんな日が来るように俺たちが頑張ろう。
研究室では、日高と玲司が盲導犬型ロボットを組み立てていた。
静かに流れる電子音と工具の金属音。その中に、ぽつんと沈んだ声が混じった。
「ただいま……」
振り返ると、玄関からハルがしょんぼりと歩いてきていた。
「おかえり、ハル」
《おかえりなさい、ハル》
HANAの声が優しく響くが、ハルは返事もせず座り込んで膝を抱えた。
いつもなら、ランドセルを背負ったまま「今日ね!」と話し始めるのに。今日はまるで重たい雨雲を背負って帰ってきたようだった。
前足のパーツを組んでいた玲司も手を止め、心配そうに眉を寄せた。
「どうしたんだよ、ハル。給食でピーマンでも出たか? それともシイタケか?」
からかうような口調にも、ハルは小さく首を振る。
「ちがうよ……。今日ね、学校で“ぼくの家族”っていう作文の宿題を発表したんだ。僕は、HANAのことも書いたよ。HANAはロボットだけど家族なんだよって」
そこまで言って、言葉が詰まる。
うつむいて、指先をいじりながら、ぽつりと続けた。
「そしたら……“ロボットの家族なんかいるわけないじゃん”って、みんなに笑われた。僕は、うそなんて言ってないのに」
しん……と研究室の空気が静まった。
日高と玲司は目を合わせ、少しだけ息を吐いた。
「……そうか。そうだよなあ」
玲司がつぶやく。
「タケルのときも、似たようなことがあったな。『お父さんはロボット工学者なんだ。生活を支える人型ロボットを作った』って書いて、ほかの子に“なんだよそれー”って笑われたらしい。ロボット研究って、まだまだ知られてないもんな」
ここは、新潟の静かな町。
大学や企業の研究施設が多い首都圏の都市部ならともかく、こんなど田舎で「ロボットと暮らしてる」なんて話しても、子どもたちにはマンガかアニメの話にしか聞こえない。
バカにするのは良くないことだが、見たことないんだから信じろというのが無理な話。
日高は静かに、ハルの肩に手を置いた。
「ハルにとっては、HANAがいるのが“ふつう”だったんだな」
顔を上げて、こくりとうなずく。
ハルは生まれたときからロボット研究所という特殊な環境にいた。
自分の家にロボットがいることは、ほかの子にとっては珍しいことなのだと知らない。
誰の家にもロボットがいるくらいに認識していたのかもしれない。
「いいか、ハル。俺がロボットの研究をしているからうちにはHANAがいるけれど、ほかの子の家にはロボットがいないんだ」
「え? そう、なの?」
「ああ。だからみんな、見たことないものの話をされても、わからなかったんだよ」
ハルはジーッと日高の目を見て、それからHANAを見て、なっとくしたようにうなずいた。
「そっか。同じ、なのかも。僕もね、クラスの田中さんが『俺んちには牛がたくさんいるんだぞ! 一〇〇匹くらい!』って言ってるの聞いてもわからなかった。僕の家に牛はいないし、牛を見たことないから。すごくおっきいおうちなのかなって」
「あー、なるほど。田中さんのおうちは酪農か畜産をしているのか。そうだな、そういうことだよ。みんな、家族が違うんだ。兄妹が多い子もいれば、おじいちゃんやおばあちゃんが一緒に暮らしている子もいる。動物の仕事をしていたら牛や鶏がたくさんの家もある」
みんな家族の形が違うから、ハルはの過ごしてきた環境は変なことじゃないと諭す。
それからハルはいつもみたいに給食のことや、昼休みにタケルが遊んでくれたことなど晴れやかな笑顔で話しはじめる。
さっきまで背負っていた暗い雨雲は、どこかに消えてしまったようだった。
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施設名:日高人工知能技術研究所
記録担当 所長・日高雪雄
2035年5月8日 気温25℃ 晴れ 午後5時00分
ハルが宿題で書くことでまわりからいろいろと言われるとはな。
ロボット研究所の育ちであることは特殊な環境なんだよな。
都心の工業、商業が発展した特区ならまだしも、新潟の片田舎ではロボットの普及率が低い。
せいぜいが本屋の片隅にいる蔵書の検索ロボか、レストランの配膳猫ロボくらいだ。
いつかどの家にもロボットがいることとが当たり前になれば、笑われたりすることもなくなるだろう。
一日も早くそんな日が来るように俺たちが頑張ろう。
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