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日高博士の育児AI研究日誌 学生期編
27話 小学校での講演会
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施設名:日高人工知能技術研究所
記録担当:助手・栗田玲司
2035年6月8日 屋外気温30℃(晴天)
午前10時05分
小学校での講演をすることになった。
撮影厳禁の条件はきちんと守ってもらえることになっている。
まだ試運転段階の盲導犬型ロボットのHIKARIを連れていく。
障害物のある道を目隠しして歩かせる実験だが、実演にはちょうどいいだろう。
タケルの前でヘマしないことを祈るのみだ。
父親としてかっこ悪いところは見せられない。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
体育館の床には、きれいに並べられた折りたたみ椅子と、前方の大きなスクリーン。
子どもたちのざわめきが、天井の高い空間にふわりと広がっていた。
「では、ただいまより――日高人工知能技術研究所の特別講演を始めます」
教頭先生の落ち着いた声に、ざわつきがぴたりと止む。
壇上に上がったのは、白衣を着た日高と、その横に立つ研究員の玲司だった。
「こんにちは。今日は、わたしたちがどんなロボットを作っているのか、ほんの少しだけお見せします。所長の日高です。そして隣にいるのが、助手の栗田。よろしくお願いします」
日高と玲司が会釈すると、小さな拍手が起こる。
「あれ、ハルさんのおとうさん?」
「助手ってタケルさんのお父さん? すげー。本当にロボット作ってたのか」
と、ヒソヒソささやく声がちらほら聞こえてくる。
教頭先生がわざとらしい咳払いをして睨むと、子どもたちが黙った。
静かになったところで日高が話し出す。
「まず最初に見てもらうのは――AI搭載の盲導犬型ロボットHIKARIです」
玲司は舞台袖に控えさせていた体高60センチほどの犬型ロボットを連れてくる。
つや消しの白いフレームに細かな関節、左右の目がそれぞれカメラと小型のセンサーになっている。
カメラで景色を認識し、センサーで階段などの段差の高さを認識する。
「開発してからまだ日が浅いので、長距離の案内はできませんが……今は短い距離を、安全に歩けるよう訓練しています。わたしたちは目が見えているので、道を歩くとき自転車や物がおいてあれば自分で避けるでしょう。けれど目が見えない場合、ぶつかってしまう。それを安全に歩けるように案内するのが盲導犬です。けれど、盲導犬は素質を持った犬が少なく、さらに訓練するのに何年もかかります。だからわたしたちはHIKARIを開発しました」
説明する間、体育館の前方に、用務員がカラーコーンやホースを無秩序に並べていく。
「ためしに、目が見える状態で歩きましょう。ほら、こうして避けて歩ける。当たり前だと思うでしょう。けれど、見えないとこうはいかない。ちょっと、その一番前の左端に座っているキミ、目隠しをしてこの道を歩いてみてくれないか」
呼ばれた男子がかけてきて、日高に渡された目隠しをする。
「田中さんガンバレー」なんて声が飛んでいる。
ほんの三十メートル程度だが、男の子……田中は何度もコーンにぶつかり、つんのめりながらゴールに到達した。
「知らなかった。………見えないのってこんなに不便なんだね」
「そうだろう。カラーコーンだからいいけれど、例えばこれが車だったら命にかかわる」
「」
HIKARIの横には、ひとりの人物が立つ。
教頭先生――子どもたちからは“こわい”と恐れられている教頭が、分厚いアイマスクをしてHIKARIのハーネスを握った。
「では、先生。お願いします」
玲司の合図で、HIKARIがゆっくりと歩き出す。
目隠しをした教頭がハーネスの感覚を確かめて、ゆっくりと進む。
前にはカラーコーンや空き缶が転々と並べられていた。
すると、HIKARIが口をひらく。
《一メートル前方に障害物があります。二歩左へ回避してください》
犬の鳴き声の代わりに、落ち着いた男性の音声が指示を出す。
教頭が慎重に左へと進路をとる。
《二歩先に段差があります。足元にご注意ください》
歩みはゆっくりだが、確かだった。
子どもたちの目が真剣そのものになっていく。
「このロボットは、目の見えない人が街を歩くときの“目”の代わりをするために作られました」
「数年以内に、実際の現場で視覚障害のある方に試験していただく予定です」
日高と玲司の説明に、子どもたちの中から小さく「すごい……」と声がもれる。
「……では、次はこちらをご覧ください」
ステージのロールスクリーンに映像が映し出される。
研究所の一角。そこにテーブルを挟んで座る日高とHANA。テーブルにはオセロが置かれている。
「HANAは、人の言葉を理解して会話するだけでなく、自分で考えることができます」
映像の中、日高が「じゃあ、一局やるか」と言うと、HANAが《了解しました》と答え、静かに白い石を置く。
戦いは白熱して、最終的に日高の勝ちで終わった。
「このとき、HANAがどこに打つかは、誰も指示していません。盤面を見て、現状でいちばんいい手を自分で考えているんです」
玲司の声が、スピーカーを通して体育館に響く。
「ええ!? ロボットが自分で考えて打ってるの?」
「人間みたい!」
日高はゆっくりと体育館を見渡した。
子どもたちの目が、どれもきらきらと輝いている。
「今日見てもらったのは、ロボット工学の世界のほんの一部です。宇宙工学の研究所なら、月や火星の探査をするロボットの開発をしている。海洋系工学なら、海底探査ロボット。工学の道はとても奥が深いんです。いまここで講演を聞いている君たちの中にも、未来のロボット工学者がいるかもしれませんね」
話を終えて日高と玲司が頭を下げると、割れんばかりの拍手が体育館を包んだ。
講演会が無事に終わり、ハルもタケルも、しばらくの間「研究所みせて!」「遊びに行っていい?」とクラスメートたちからお願いされて、逃げ回るのが大変だったようだ。
研究所に来られて機材を壊されたら大変だから丁重にお断りをした。
記録担当:助手・栗田玲司
2035年6月8日 屋外気温30℃(晴天)
午前10時05分
小学校での講演をすることになった。
撮影厳禁の条件はきちんと守ってもらえることになっている。
まだ試運転段階の盲導犬型ロボットのHIKARIを連れていく。
障害物のある道を目隠しして歩かせる実験だが、実演にはちょうどいいだろう。
タケルの前でヘマしないことを祈るのみだ。
父親としてかっこ悪いところは見せられない。
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体育館の床には、きれいに並べられた折りたたみ椅子と、前方の大きなスクリーン。
子どもたちのざわめきが、天井の高い空間にふわりと広がっていた。
「では、ただいまより――日高人工知能技術研究所の特別講演を始めます」
教頭先生の落ち着いた声に、ざわつきがぴたりと止む。
壇上に上がったのは、白衣を着た日高と、その横に立つ研究員の玲司だった。
「こんにちは。今日は、わたしたちがどんなロボットを作っているのか、ほんの少しだけお見せします。所長の日高です。そして隣にいるのが、助手の栗田。よろしくお願いします」
日高と玲司が会釈すると、小さな拍手が起こる。
「あれ、ハルさんのおとうさん?」
「助手ってタケルさんのお父さん? すげー。本当にロボット作ってたのか」
と、ヒソヒソささやく声がちらほら聞こえてくる。
教頭先生がわざとらしい咳払いをして睨むと、子どもたちが黙った。
静かになったところで日高が話し出す。
「まず最初に見てもらうのは――AI搭載の盲導犬型ロボットHIKARIです」
玲司は舞台袖に控えさせていた体高60センチほどの犬型ロボットを連れてくる。
つや消しの白いフレームに細かな関節、左右の目がそれぞれカメラと小型のセンサーになっている。
カメラで景色を認識し、センサーで階段などの段差の高さを認識する。
「開発してからまだ日が浅いので、長距離の案内はできませんが……今は短い距離を、安全に歩けるよう訓練しています。わたしたちは目が見えているので、道を歩くとき自転車や物がおいてあれば自分で避けるでしょう。けれど目が見えない場合、ぶつかってしまう。それを安全に歩けるように案内するのが盲導犬です。けれど、盲導犬は素質を持った犬が少なく、さらに訓練するのに何年もかかります。だからわたしたちはHIKARIを開発しました」
説明する間、体育館の前方に、用務員がカラーコーンやホースを無秩序に並べていく。
「ためしに、目が見える状態で歩きましょう。ほら、こうして避けて歩ける。当たり前だと思うでしょう。けれど、見えないとこうはいかない。ちょっと、その一番前の左端に座っているキミ、目隠しをしてこの道を歩いてみてくれないか」
呼ばれた男子がかけてきて、日高に渡された目隠しをする。
「田中さんガンバレー」なんて声が飛んでいる。
ほんの三十メートル程度だが、男の子……田中は何度もコーンにぶつかり、つんのめりながらゴールに到達した。
「知らなかった。………見えないのってこんなに不便なんだね」
「そうだろう。カラーコーンだからいいけれど、例えばこれが車だったら命にかかわる」
「」
HIKARIの横には、ひとりの人物が立つ。
教頭先生――子どもたちからは“こわい”と恐れられている教頭が、分厚いアイマスクをしてHIKARIのハーネスを握った。
「では、先生。お願いします」
玲司の合図で、HIKARIがゆっくりと歩き出す。
目隠しをした教頭がハーネスの感覚を確かめて、ゆっくりと進む。
前にはカラーコーンや空き缶が転々と並べられていた。
すると、HIKARIが口をひらく。
《一メートル前方に障害物があります。二歩左へ回避してください》
犬の鳴き声の代わりに、落ち着いた男性の音声が指示を出す。
教頭が慎重に左へと進路をとる。
《二歩先に段差があります。足元にご注意ください》
歩みはゆっくりだが、確かだった。
子どもたちの目が真剣そのものになっていく。
「このロボットは、目の見えない人が街を歩くときの“目”の代わりをするために作られました」
「数年以内に、実際の現場で視覚障害のある方に試験していただく予定です」
日高と玲司の説明に、子どもたちの中から小さく「すごい……」と声がもれる。
「……では、次はこちらをご覧ください」
ステージのロールスクリーンに映像が映し出される。
研究所の一角。そこにテーブルを挟んで座る日高とHANA。テーブルにはオセロが置かれている。
「HANAは、人の言葉を理解して会話するだけでなく、自分で考えることができます」
映像の中、日高が「じゃあ、一局やるか」と言うと、HANAが《了解しました》と答え、静かに白い石を置く。
戦いは白熱して、最終的に日高の勝ちで終わった。
「このとき、HANAがどこに打つかは、誰も指示していません。盤面を見て、現状でいちばんいい手を自分で考えているんです」
玲司の声が、スピーカーを通して体育館に響く。
「ええ!? ロボットが自分で考えて打ってるの?」
「人間みたい!」
日高はゆっくりと体育館を見渡した。
子どもたちの目が、どれもきらきらと輝いている。
「今日見てもらったのは、ロボット工学の世界のほんの一部です。宇宙工学の研究所なら、月や火星の探査をするロボットの開発をしている。海洋系工学なら、海底探査ロボット。工学の道はとても奥が深いんです。いまここで講演を聞いている君たちの中にも、未来のロボット工学者がいるかもしれませんね」
話を終えて日高と玲司が頭を下げると、割れんばかりの拍手が体育館を包んだ。
講演会が無事に終わり、ハルもタケルも、しばらくの間「研究所みせて!」「遊びに行っていい?」とクラスメートたちからお願いされて、逃げ回るのが大変だったようだ。
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