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巡礼路デリシア街道、神には至らぬ神の道編
20.フリをしても気付かない子は気付かない
女ウェイターさん秒でをドンビキさせてしまい、暗澹たる気持ちになってしまったが、とにかくオッサン二人とエネさんを宥めすかし、なんとかその場を収めて俺達はテーブルについた。
あのウェイターさんには“お詫びのチップ”で怯えた心を癒して欲しいが、今度料理を持って来る給仕さんは確実に別の人だろうなぁ。はぁ、まったくこれだから周囲を気にしないオッサンどもは困るんだ……。
いい加減、俺のような「オトナ感」をみにつけて貰いたいもんだよな、などと思いつつ、知らない内に出ていた鼻血を拭いて、俺は話を切り出した。
「……で、本題なんですけど」
「ツカサ君って自分を棚上げするの得意だよね」
「お黙りコロスコロスおじさん。……で、エネさん本題なんですが」
横から頬をつついてくる鬱陶しいオッサンを手で押しやりながら再度問いかけると、俺の努力を買ってくれたのかエネさんはゴホンと咳払いをして姿勢を正した。
「そうですね、思ったよりも早い到着で驚きましたが……ともかく、計画を前倒しにして目的地に向かって下さるのならばこちらは言う事も有りません」
「なに、そんなに急ぐような案件なのか?」
安い葡萄酒に顔を顰めながら口を付けるブラックに、エネさんは素直に頷く。
「シアン様は、出来るだけ……と考えておられます。それほどのことなので」
「ムゥ……水麗候がそこまで言うとは。余程の面倒事が起こっているのか」
「ええ……」
シアンさんの尊称である【水麗候】の名をクロウが言うのに、エネさんは深刻そうな顔をして視線を俯かせる。だが、それもすぐにやめると、ローブから何やら小さい箱を取り出してテーブルの上に置いた。
何だろうコレ……オルゴールみたいな綺麗な箱だけど……。
「ほう? 【吸音箱】か。今更手に入れられるとは、さすが天下の【世界協定】だ」
「きゅーおんばこ? なにそれ」
聞き慣れない名称に眉を歪めると、ブラックは丁寧に説明してくれた。
「簡単に言えば、この箱の周辺に障壁を張って、中の音を外に出さないようにする箱と言う感じかな。付加術における風系の術……例えば【ウィンド】とかを応用したら人力でも出来る技術なんだけど、手間も技術も必要だからね。金が有ればこうした物を買って発動させた方が早いってワケ」
「ほぉ~……内緒話をするのにうってつけな箱だな」
「まあ、高くて一般人は手が出せないし……しかも、今は【プレイン共和国】も壊滅状態だから、余計に値段が高騰してて滅多に手に入らなくなってるんだけどね」
その国の名を聞くと、俺達一同苦々しい顔つきになってしまうのだが、これはもう仕方がないと思う。(※詳しくは第一部参照)俺としては申し訳ない気持ちもあるんだけど、やられた事がやられた事なので、なんというか今は近付きたくない。
ヘタしたら複数の人々に恨まれてる可能性もあるし……。
…………ゴホン。閑話休題。
ともかく、そんな高価な箱を用意してまで話すと言う事は、かなりの事なんだな。
いくら国々の仲を取り持ったり国境越えの諍いを平定する巨大組織の【世界協定】とはいえ、品薄なモノを思い通りに手に入れるのは難しかろう。
だけど、そんなモノをわざわざ持って来てるってことは……ブラックが言う通り、何か物凄く大変な案件に違いない。そんなの俺達がやっていいことなの。
俺達の本当の目的は、獣人の国・ベーマスへ向かい、王座に封印されている【銹地のグリモア】の魔導書を持ち出す事だ。そのついでに、アコール卿国への“おつかい”をこなすという話だったのに、何かこれじゃ物々し過ぎるぞ。
緊張してしまう俺だったが、エネさんは気にせず小箱の蓋を開き、中に見えている複雑そうな機械のリューズを軽く回した。
「これで外部に話が漏れる事は無いでしょう。……まあ、こんな粗末な場所で交わす話を“重要だ”と思うような輩は居ないでしょうが、念のため」
「まどろっこしいんだよお前は毎回毎回。んで何なんだ、さっさと話せ」
もー、ブラックったら、またエネさんに辛く当たって……。
毎度の事だけど、ホント仲悪いなぁと思いつつエネさんを見やると、相手は先程の慌てようなど嘘のように冷静な顔をして、ブラックに構わず話しだした。
「それでは……先に本題をお話しておきます。今回シアン様が貴方がたに依頼した件ですが、実を言うと非常に厄介な案件なのです。しかも、それは【ライクネス王国】のお偉方に話せるようなことではなく……」
と、エネさんが続けようとしたところに、不穏な空気を感じ取ったのかブラックが殊更大きな声で「待て」と話を遮った。
「おいおいおい、ちょっと待て! 僕達は“おつかい”を頼まれたんだぞ。子供の使い程度の事にそんな大仰な前置きを乗っけるヤツがあるか! ガキが黙って出来るような使いじゃないだろこれは!」
「まあこれもある意味“親には内緒”のおつかいなので……」
「親がデカすぎるわ!!」
そうだね、アコール卿国に関わる「厄介な案件」なら、ライクネス王国はその親だと言っても差し支えないんだもんね……いやあの本当内緒にするにしてはデカ過ぎる相手だと俺も思うんですが、今回の案件そんなにヤバいヤツなんですか。
俺もブラックもクロウも「おつかい」としか聞いてないのに、そりゃないっすよ。
思わず不安に眉根を寄せた俺達に、エネさんは「まあ待ちねい」と言わんばかりに雄々しく掌を見せて来た。
「落ち着いて下さい。シアン様が人族のような知能の低い存在に、そのような国家間の問題を任せようとなさるわけがありません。自分の知能を高く見積もって心配することなどおこがましいにもほどがあります」
「ぶち殺されてえのか乳デカ女」
「鼻垂れヒゲ小僧にも分かり易く言えば、シアン様がそのような重大な任務を冒険者に依頼する事などありません。これは【世界協定】の範疇ですからね」
「ムゥ……国家間の争いごとに巻き込む気は無い、と?」
冷静に聞くクロウに、エネさんは軽く肯定した。
「シアン様は誰にでもお優しい、慈悲に溢れたお方です。下等な人族に能力以上の事をさせるのは酷だとお考えになり、心を痛めておられるはず。ですので、ごみを漁るネズミの如き冒険者には“それ相応”の仕事を用意しています。ご安心ください」
「ねえツカサ君斬って良いかな。この言葉で暴力振るってくるクソ神族女を斬っても良いかなぁ!」
待て待て待て落ち着け、話が進まなくなるだろう。
というか、エネさんの毒舌は今に始まったことじゃないのに、どうしてお前は毎回激昂しちゃうんだよ。じゃれたいのか。まあ喧嘩するほど仲がいいっていうしな。
「仲良くない!!」
「ツカサさん、そのような誤解は真に遺憾です」
やだ俺の心読まないでよ……。
なんでこの大人達俺の心読めちゃうの。
やめてくださいプライバシー無いじゃないですか!
「……ま、まあともかく……俺達が王様に呼ばれて話を聞かれるとか、ヘタをすりゃ警備兵に捕まるとか、そういう事は無いってことですよね」
「ツカサさんは話を聞いて下さるので助かります。どこぞの中年とは大違い」
「おいこっちチラッと見んじゃねえよ殺すぞ」
あーもーまたー。
話が進まないからやめなさいと二人に怒って場を治めると、俺は改めてその「危険は無い」という依頼の内容を聞いた。
「さっき計画を前倒しにしても構わないって話でしたけど、それほど急いで欲しい事が有るんですよね? それ、本当に俺達で大丈夫なんでしょうか」
「そこは安心して下さい。これはいわゆる【調査】のようなもので、貴方がたには、これから通る街道すべての村をチェック……視察して貰うだけで大丈夫ですので」
「視察ぅ? 本当にそれだけかぁ?」
まだ疑ってかかるブラックにエネさんは口を開きかけたが、俺がさっき怒ったのを思い出してくれたのか、ゴホンと咳を一つ零して葡萄酒を飲むだけでおさめた。
「もちろん、ただの視察ではありません。ツカサさん達に見て来て欲しいのは正体が分からない【何らかの工場】が存在しているかどうか……なのですから」
その言葉に、ブラックとクロウが急に顔を険しくする。
さもありなん。どう考えてもソレって普通の依頼じゃなさそうだもんな。
【工場】というのがまた、いかにも何かありそうというか……個人的には、異世界の工場と言ったら嫌な思い出しかないんだが……。
やっぱり何かヤバい問題が起こっているんだろうかと思っていたら、丁度さっきのウェイターさんが俺達に料理を持って来てくれた。
ありがとう、ドンビキしたのに持って来てくれたんですねお姉さん。
単純な肉焼き料理やら、ターキーレッグに似た素揚げの料理やらの山盛りに続き、ブラック達が呑むお酒をしこたまテーブルに並べられる。今日は一段と量が多いなとゲンナリしていると、早速エネさんがレッグを食べ始めた。な、なに……料理に手を出すスピードがクロウより早いだと……。
これはまさか、わいるどなえるふ……いや、肉食系女子は嫌いじゃないですよ俺。むしろ好きって言うか、俺も食べて欲し……いやいやそれはちょっと時期尚早だ。
ってか、このテーブル肉ばっかだな。食べ盛りの食卓かよ。野菜頼めばよかった。
エネさんと競うように謎生物のレッグに齧りつき、恥も外聞も無く豪快にモグモグするクロウの口の周りを拭いてやりつつ、俺は話を継いだ。
「えーと……それで話の続きなんですが、そのぉ……こうやって依頼するって事は、やっぱりヤバい物なんですよね……? その【工場】とかいう奴って……」
「ング……そうですね。……勿体ぶるのも何なので、お話しますが……今現在、この大陸には頭の痛い問題が蔓延しておりまして。それが……これなのです」
そう言いながらテーブルの上に置いたのは……俺達が普段使っているお金。
銅貨、銀貨、金貨だ。
「お金……?」
「そうです。この大陸で現在流通している、統一硬貨と呼ばれるものの一部ですね」
この上には"白金貨”という更に価値が高いお金があるのだが、基本的に庶民は金貨までしか見た事がない。普段は枚数でお勘定をするけど、この世界のお金の単位は【ケルブ】で表されるんだよな。
まあ、貨幣に関しては異世界でよくある感じだ。何も難しい事は無い。
銅貨一枚で10ケルブ。銀貨一枚で100ケルブで、金貨ともなれば1000ケルブだ。
大体、銀貨一枚で日々の食事を賄えるので、金貨を見た事がある一般人も少ないと言うのがこの世界のマネーの現状だ。……まあ、そもそも食料とかは物凄く安定して供給されているので、冒険者や学者が使うような道具以外は物価が安く、金貨なんか知らんってのもあるんだろうけど。
その他にも要因がありそうだが、まあそれは置いといて。
俺達冒険者は、どちらかというと銀貨を主に使うな。情報屋さんも銀貨○枚が基本だったりするし、冒険する時の道具も大体銅貨では足りないものばっかりだし。
金貨なんて報酬で貰うくらいで、あんまり見ないなそういや。
そんな事をのんびり考えていた俺の横で、ブラックが金貨を取って眺め始めた。
ブラックは金持ちなんだから、金貨なんて珍しくないだろうに……なんて思いつつその横顔を見ていたのだが――――徐々に深刻そうな表情に変わっていくブラックの顔を見て、俺のみならずクロウまでもがタダゴトではないと悟って手を止めた。
そういえば、ブラックは金の属性と炎の属性を持つ【月の曜術師】なんだよな。
つまり、金属の事に関しては俺達よりも詳しい。そんな相手がこんな顔をするのだから、よっぽどヤバい事を発見したと言うことだろう。しかし、金貨でヤバいって……まさか……。
……思わず唾を飲み込んだ俺の前で、ブラックは一筋の汗を垂らし――テーブルにその金貨をそっと置いた。
「どういうことだ、これは」
あまりに真剣なその声に、俺達はブラックと同じようにエネさんを見やる。
すると、彼女は鳥足を取り皿に置いて、己の杯の中の葡萄酒を飲みほした。
「どうもこうもありませんよ。こちらが聞きたいぐらいです。どうやって、これほど精巧なニセモノの金貨を作り出したのか……とね」
「えっ……に、偽物……贋金!?」
うそ、刻印も形もしっかりしてていつもの綺麗な金貨なのに。
じゃあもしかしてこの貨幣三つ、全部ニセモノなの!?
お金とエネさんを何度も見比べて答えを促すと、相手は深刻そうに息を吐いて深く頷いた。いつものエネさんでは到底考えられないくらいの、疲れた表情で。
「……現在、造幣に関してはアコール卿国が唯一権利を握っています。ツカサさんはご存じないので説明しますが、かつてこの世界の戦乱が平定した時、各国が国を再建する際に貨幣統一をするというハナシになりましてね……それを【世界協定】の場に於いて協議を繰り返したことがあるのです」
「そこで……長い話の結果、造幣局はアコール卿国に決定した、と……?」
協議の内容は俺が聞いても絶対に分からないだろうから、難しい事は省いて答えを問う。すると、エネさんは俺の話の早さが好ましかったのか、口を緩めてくれた。
「ツカサさんご名答ですね、その通りです。それからの数百年、アコール卿国は大陸の貨幣を安定させる役割を担ってきました」
「でも……アコールってライクネスが宗主国ですよね?」
「だから、ですよ。ライクネスはその歴史と立場上、大っぴらな行動は出来ません。一つ間違いを起こせば、たちまち多数の国から侵略を受け、更に国を分割させられてしまうでしょう。……そんなある意味四面楚歌な国ですから、品行方正を強いる事が出来るのです」
「子分も同じってことか」
ブラックのツッコミに、エネさんは頷いた。
うーむ、親分子分な二つの国って結構ヤバいイメージがあるが、こんな風に健全な運営になる場合も有るんだな。アコール卿国も、親分のためにメンツを守る……ってことで、清らかな造幣を続けてきたのか。
それなら、アコール卿国の隣にあるベランデルン公国も同じだと思うんだけど……アッチは宗主国の【オーデル皇国】が過去に国盗りの戦を引き起こしたせいで、信頼度が足りなかったのかなぁ……。まあ、軍事的にもデカい国だし、お金を作る権利を持ったら余計に権力が集中しそうだし、権利を譲るのも仕方がなかったのかも。
しかし、アコール卿国がそんな事をしていたなんて知らなかった。
素朴な農業国家だと思っていたけど、色々やってたんだなぁ……って、いやいや、そんな国に今から入ってすぐ出てまた入るってのに、国家を揺るがすニセガネ騒動だなんてそんなきな臭い事を教えられても困るんですが。
あっ、まさかその贋金の【工場】が、この周辺のどこかにあるってこと……!?
目を見開いた俺が何を言いたいのか分かってしまったのか、エネさんは「ご名答」と言わんばかりに手を軽く叩いて息を吐いた。
「シアン様の特務隊による調べでは、現在この贋金が確認されている地域も限定的で、アコール卿国の僻地のみとなっています。ですから、この事件は公にはなっていませんが……これが広まり、他国に知られることになると非常にいただけない」
「造幣権を剥奪される事にもなりかねないな。そうなればメンツどころか国の存続も、ライクネスの地位も危ういんじゃないのか」
冷静だが不機嫌なブラックの言葉に、クロウも珍しく眉間に皺を寄せて続ける。
「貨幣を第三者が偽造する事は、国家の権威だけでなく信頼も揺らぐ。こんな大罪、国としても許せることではないだろう。何故騒ぎになっていないんだ。本来ならば、国民に警鐘を鳴らし、憲兵をも使って罪人を探し出すのが常道のはず。……オレ達に依頼するような小事ではないのではないか?」
確かに、クロウの言う事も尤もだ。
こんなの一介の冒険者パーティーが受ける依頼じゃない。
もっとこう……公安的な所が受ける案件じゃないのか。
しかし、エネさんは首を立てには振らず二本目の酒瓶に口を付けた。
「ごもっともな言葉ですが、今騒げば国どころか大陸全体が混乱します。シアン様は、それを望んではおられません」
「なに……?」
「現在の大陸は、正直に言えばかなり不安定な状態です。【プレイン共和国】の瓦解が一番に挙げられますが、それ以外にも【オーデル皇国】内部では未だに皇帝の病による動揺が続いていますし、最近では【アランベール帝国】でも不穏な動きがある。大陸に近い島国も、多数の戦が起きています。……こんな時に贋金騒動が起これば、数百年平和を享受してきた人族はどうなります」
「…………」
そう言われて、クロウは口ごもる。
……まあ、いつも事件が起こってて気が引き締まってるなら別だけど、現在の平和な大陸で贋金騒動が起こったら、絶対みんな混乱しちゃうよな……。
「自分の財産が信用出来なくなるぞ」と聞けば、誰もがパニックになったり自分のお金を心配しちゃうだろうし……そうなったら、誰がどうなるかも予測できない。
この世界は俺の世界みたいに情報がすぐ来るような場所じゃないから、一度情報が漏れてしまえば、払拭するのにも時間が掛かるだろう。
まだ局地的な騒動だからこそ、今の内に隠れて抑え込む方がいいのかも。
それに、大々的に捜索すれば犯人は夜逃げしちゃうかもしれないしなぁ……。
「だからこそ、ツカサさん達に依頼をするのですよ。誰かが動いている……と犯人に気取られていない今だからこそ、探る余地も生まれる。相手も数度贋金を流した事で多少気のゆるみが出来ているでしょうから、付け入る隙も有るはずです」
「……だから、僕達に【工場】を探せ、と」
嫌そうに言うブラックに、エネさんは豪快に葡萄酒を瓶のまま飲み干した。
「……ぷはっ。私だって頼みたくありませんよ。ですが、今回の事は極秘裏に進めて何とか収めなければならない案件なのです。バレれば全員の首が飛ぶんです! 私は美しいシアン様を断頭台になど送りたくは無いので仕方ないのです!!」
そう言いながらダンと空になった葡萄酒をテーブルに叩き付けるエネさん。
あれっ、エネさん酔ってません?
「チッ……加担した僕らの首が飛ぶのはいいのかよ」
「そうならないように、外部の助けを借りようと人員増やしてるんでしょぉがあ! ああ私も出来ればやりたくない! やりたくないんですよツカサさんんんん」
「わあっエネさん酔ってるっ、あっ、あっちょっまた抱き……っ」
また抱き着いて来られたっ。いやでもこれご褒美では。
酔った美女、しかもエルフさんに抱き着かれるなんて、これは俺の男としての春が到来したと言っても過言ではないのでは……!?
「わーもー分かった分かった! やる、やるからツカサ君から離れろ!! とにかく僕達が今から歩く街道の街や村を片っ端から調べればいいんだな!」
席を立って俺を引き摺り離すブラックに、エネさんは恨めしそうな目を向けながら口をむうっと尖らせた。アッ、か、可愛い……っ。
「……本当にイヤですが報酬は物凄くお支払いします」
「何か口調がおざなりになって来てないか」
クロウのツッコミに更に口を尖らせて、エネさんはテーブルに頬をくっつけた。
「どーせいいんですよ。どーせどーせ私は伝令係ですから。クソ人族に言葉を伝えるだけのでんれーがかりですから。ツカサさんがいないと来る気もおきないっての」
「ツカサ君見て、コイツこういう奴なんだよ。普段は冷静そうな仮面を被ってるだけなんだよ。ね、僕が殺したくなるの分かるでしょ」
いや、ただ酒癖が悪いだけでは……。
ともかく、まあ……贋金騒動でシアンさんの身が危ないと言うのならば、この依頼を受けない選択肢なんて無いよな。だって彼女は俺の異世界のおばあちゃんであり、大事なグリモアの仲間でもあるんだから。
それに、お金を偽造するなんてそんなの小市民として許せん。
こういうのは元から断たないと繰り返すんだ。絶対に見つけてしばかないと。
「エネさん、俺達ちゃんとやりますから安心して下さい! 報告は、最初に言われた通り【アコール卿国】の首都に居る人に渡せばいいんですね」
「はぁ~~本当ツカサしゃんはえらいえらいかわゆいれすね……わらしもうでんれーがかりやめてツカサしゃんとふたりで農業したいれす」
「いやもうコイツ本当哀れだな。ナンパに失敗してヤケ酒かよ」
「コラ、ブラック! エネさんも疲れてるんだよ、そう言う事いうな!」
本当コイツは女性に対して厳しいんだから……。
ブラックの腕から強引に抜け出してエネさんに近寄ると、相手はいつものクールな顔を赤らめて俺に擦り寄って来る。
そういえばエネさんがお酒で酔う所って見た事がなかったんだけど……今日は特に疲れてたんだろうか。ていうか、さっきナンパを失敗してかなりダメージを負ってるだろうしな……。
疲れたうえに心も痛めたなんて、本当に可哀想だよ……俺に出来る事で気が晴れるというのなら、遠慮なく何でもしたい所なんだが。
「エネさん、何かして欲しい事ありますか?」
「はぁっ、じゃあ、ツカサしゃんの膝に顔を埋める感じの膝枕を……」
「おいブラック、この女ヤバいぞ。絶対シラフで言ってるぞこれ」
「だから殺そうって言ってるだろ前から」
もう煩いなぁ。
美人に膝枕して欲しいってんなら、叶えるのが男の役目でしょうが。
つーか金髪美女エルフに膝枕できるなんて、どう考えてもご褒美なのでは!?
思わずワクワクしてしまったが、残念ながらオッサン二人に阻まれて俺のワクワクは成就する事はなかったのであった。
……チッ……。
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