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𝐓𝐫𝐮𝐞 𝐋𝐨𝐯𝐞 𝟕

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肩にポンッと手を置いて問うと、振り返った彼が一瞬だけ安堵した様に頬を緩めた。しかし直ぐに頬を引き締めると、小さく横に顔を背けながら「非常に言い辛い事なのですが…」と呟く様に言う。


「今回の件は、二人の今後に大きく関係する事です」

「それって……」

「ーー…縁談です。瀬名が余計な企てを…相手は久遠財閥と関係のある所の令嬢さんばかり。断るにも、断り辛く…」

「瀬名さん、が」


溜息混じりにそう吐く彼に、「えん、だん」と片言でオウム返しする自分。後ろに後退りしながら壁に手を当てて考える。よくよく考えてみれば今迄来なかったのがおかしいんだ。麗二と久遠家と取り引きをしたい相手なんていくらでもいる。そして、勿論彼自身に興味の湧く女性だって現れるのだ。


「………麗二も、その場に居たんですか」


縺れる声で何とか聞くと、透さんは小さく頷いた。
どうやら、縁談の話を持ち掛ける際二人で聞いたらしい。縁談相手の女性の写真を見せられた瞬間、思い切り叩いて、そのまま自分の部屋に閉じ籠ってそれきりらしい。


「瀬名も…分かってて縁談の話を周りに吹き込んだんでしょう。しかし、周りからしたら、よく出来た執事としか認識されていないので、此方側の味方も少ない。麗二様が引き篭もってしまった今、事態は進む一方だし、このままでは二人方の約束もーー…」

「……っ!」


あの約束を、今迄の事が脳内に流れた瞬間、居ても立ってもいられなくなった自分はその場を飛び出し、麗二の部屋に向かって走り出した。そして、部屋の前に辿り着くと、固く閉ざされた扉に向かって「麗二!」と叫び、扉を叩いた。


「お願い、開けて。これからの事を……、…っ!」


これからの事を話して、何になるんだろう。
行き場の無くなった手を下に下ろしながら思う。縁談の話は着々と進み始めている。今僕達が今後の話をした所で何も変わらないんじゃーー……


「…また来るから」


結局それしか言えなかった僕は扉から離れ、すごすごとその場から離れていった。誰も居なくなったタイミングで、中からカタン、と乾いた音が響く。そして、小さく音を立てながら開いた扉の隙間から顔を覗かせる麗二が、僕の後ろ姿を、何か言いたげな顔で見つめていた。


_______
____


麗二が部屋から出なくなって一月程が経ってしまった。
悪化していく事態、進んでいく縁談の話ーー…麗二は再びあの頃の様に自室に閉じ籠る様になってしまった。瀬名さんに文句を言いたいものの、最近はあまり顔を合わせる事が出来ない。
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