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第十四章
splash 150
しおりを挟む「づ、づがれだ……」
ヒュー、ヒュー…と過呼吸状態でベンチに項垂れる様に座る自分。遊園地にしては珍しく人気の無い場所で、広々としたエリアにベンチが二つ、風当たりが良く、回っていた酔いが少しだけマシに感じる。とは言えど……
(まさか、ジェットコースターの向きが逆だとは想像もつかなかった……)
普通前に向いて走って行くだろ。何で、途中で線路無くなって、かと思いきや、後ろに向かって走って行く訳……あぁ、そうしないと戻れないからか。脳内で自問自答しながら、先程の悪夢を思い出していると「はい」という声と共に、頬に冷たい何かが当たった。帽子越しに顔を上げると、後光を背に見下ろす伊織さんが居た。
「今買って来た。まだ顔色悪いね…大丈夫?ほら、冷たい内に飲んで…わっ」
喋っている最中に、伊織さんの耳に、自分が掛けていた彼の眼鏡を装着させる。「どうしたの、いきなり」と、黒縁メガネを掛け直す彼に「有難う、それ返すよ」と言いながら前髪を掻き上げる。後光と早坂伊織は眩し過ぎて直視出来ないという、変な理由で返したとは言えない。
(まぁ、これでキラキラが軽減されたとは思わないけど………)
メガネを掛けても尚、ただならぬオーラを隠し切れていない彼を見上げて、クスッと微笑を浮かべる。伊織さんは困った様に笑みを浮かべると、自分の頭の後ろに手を回し、少しだけ浮かせた状態にして言う。
「シユン君、絶対何も知らずに乗ったでしょう。あれ、絶叫マシーンで、しかも最近出来たばかりの日本初の逆向きタイプだよ。俺でも不安だったけど、…やっぱりシユン君もだったか」
「いや、全然酔ってないじゃん、伊織さんは………っ、と」
話している最中、頭に軽い痺れが入って、持ち上げていた頭から力が抜けていく。「おっと」と、慌てて支えた彼は失笑しながら、自分の口元にペットボトルの口の部分を近づけた。
「初心者には厳しかったね。ほら、水飲んで」
「ん………」
口の部分を当てると、彼が自然と上の方に持ち上げてくれる為、自然と水が喉の方へと流れ込んでくる。されるがままの状態で飲み続けていると、スーッと頭の中が冷えていく感じがして気持ちが良かった。彼の服の袖を摘みながら「ねぇ」と続ける。
「もっと。もっと欲しい……」
「…………、うん」
何故か緊張した面持ちを浮かべる伊織さん。
しかし、自分の要望にはしっかり応えてくれるみたいで、律儀に空になるまで飲ませてくれた。飲み終わった後、何故かジトッとした目で「俺を煽る天才だよ、シユン君は」なんて、意味の分からない事をボやいていたが、よく分からなかったので敢えて聞こえないフリをした。
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