正体を隠せているつもりのエリートポンコツな可愛すぎる妻のため、僕は今日も暗躍する

境ヒデり

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第1話 その薄汚い口で、私の夫を悪く言わないで下さい

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 昔──と呼べる程年月は経っていないが、この大陸には広大な面積を誇る独裁国家が存在していた。

 しかし、七十年前の独立魔法戦争を経て、その国家は滅んでしまったのだ。

 大陸中を巻き込んだその戦争の結果、独裁国家から分かれて六つの大国がそれぞれ独立した。

 僕達夫婦が住んでいるのは、その中で最も大きな面積を持つ、魔法教育が非常に栄えたタイラット共和国である。

 自慢では無いが、僕は自分の店を経営しており、田舎に小さな一戸建てを建てて、慎ましくも何不自由無い生活を送っている。ありがたい事に、僕にはもったい無いような、美人で優しくて少し愛が重い、そんな素敵な奥さんとも出会えた。夫婦仲は、【超】が付く程仲が良い。あ、ちなみにこれは自慢である。

 僕が国家大罪人として指名手配されていて、妻が国家直属の暗殺ギルドリーダーで無ければ、誰もが羨むおしどり夫婦の僕達。何の因果か、絶対にあってはならない巡り合わせで出会ってしまった二人だが、好きになってしまったのだから仕方が無いというもの。

 運命の悪戯イタズラに弄ばれている中、唯一の救いは、僕だけが妻の秘密を知っている事だろう。もし妻が僕の正体に気付いたらと思うと……うん、辛過ぎるからこれは想像しないでおく。

 そんな、たった今気分が沈んだ僕──ルミナス・レオナードは、時々本業とは別に妻の裏稼業をお手伝いしていたりもする。

……え?敵対しているはずなのに、それは矛盾だって?

 そんな事は無論承知だ。別に、国家に対する忠義が宿ったとか、罪を償おうとか、そんな理由では無い。そもそも、歴史的大罪とか言われてるけど、僕は悪くないし……いやまぁ、確かに旧政府の高官は全員葬っちゃったけどさ……

 とにかく!それなら何故、妻の裏稼業の手伝いをしているのか。

 その理由は、とても単純で人が聞いたら笑われてしまうかもしれないが……彼女を、愛しているからだ。大好きだからこそ、道端の小さな石につまづいてほしくない。

 もちろん、国家直属の暗殺ギルドでリーダーを務める彼女の実力が劣っているとは思っていない。だからこそ、時々しか手伝わないし、実際にその強さは規格外だと思う。

 ほら、今だって。僕が物陰で物思いに耽っている間も、彼女──リリィ・レオナードは、任務を着々とこなしている訳だし……

「う、うわぁぁあああ!!!」

 廃墟と化している広い建物の中で、静かな夜に一人の男の絶叫だけが響き渡っている。声の主は、もうこの世に存在していないが。

(リリさん、さすがだな。敵も決して弱い訳じゃ無いんだけど……)

 彼女の前だと、屈強な男達もまるで赤子同然だ。

 流れるような真紅の髪を揺らして、敵を一人、また一人と紅蓮の炎で焦がしていくリリさん。敵を穿つ凛々しいその瞳に、僕の視線は意識と関係無く彼女の方に向いてしまう。

「あ、あんた!オレ達に何の恨みがあって、女一人でこんなとこ突っ込んできてんだ!?」
「恨みはありませんが、貴方達……大規模なテロを企てていましたよね?それと、私一人がこの任務に参加した経緯は……政府のお偉いさんに聞いて下さい。まぁ、無理だとは思いますが」 

 あー、そういえばそんな任務だったな。情報筋から手に入れた情報だと、都市部で行われるイベントに合わせてテロを企ててる反政府派の暗殺が、今回リリさんに課された任務だったはず。

 ていうか、ちょっと待て。確かに部下が誰もいないなと思ってたけど、これリリさん一人の任務なの?こんな場所に一人で行かせるとか、今の政府も全員息の根止めてやろうかな。

 ……いや、冗談だ。さすがにそれをやったら、今度こそ彼女と一緒にいられなくなる。

 リリさんの話を聞いた僕が殺意の衝動に駆られていると、真っ青に顔を染めたテロ組織の男が、わなわなと震える声音で口を開いて、

「ま、まさかアンタ……」
「……?何でしょうか?」
「政府直系の暗殺ギルド……フィオーナの人間か?い、いや、でも……有り得ねぇ。あれは名前だけの幻で……」

 ご名答、と口から出そうになった言葉を両手で塞いだ僕。

 その代わりに、リリさんがきょとんと首を傾げながら頷いて、

「幻……?いえ、普通に存在しますよ。公に公表されてないだけで。ていうか私、そこのリーダーですし……」
「リーダー!?何で幻のギルドのリーダーが一人でこんな所に……?」
「だから、それは政府のお偉いさんに聞いて下さいって……」
「て、ていうか……自分がリーダーだって公言して良いのかよ?仮にも非公表のギルドなのによ……」

 そこだけは、僕もその男に同感だよリリさん!自分から危険の種を蒔いちゃダメ!……まぁでも、関係無いか。だって……

「えぇ、問題無いですよ。だって……」

 意図せずとも重なった、僕の思考と彼女の言葉。そのまま、先に続く言の葉が綴られた。

「口外なんて不可能ですから」
(口外なんて不可能だからな)

 続けて、リリさんは口を開く。

「最期のお喋りは、これ位で良いでしょうか?私結婚記念日なので、今日は早く切り上げたいんです」
「はぁ!?結婚だぁ!?アンタみたいなのと結婚したい男なんざ、この世に一人もいねぇだろ!!」
「……む。失礼ですね!いたんですよ、世界に一人だけ。この世で最も素敵な男性が!!」
「ケッ!アンタみたいな殺人鬼と一緒になろうとか、その男も相当頭イカレて──」

 刹那、男の汚い口が言葉を言い終える寸前。

 今日で一番の業炎が、その人間だったものを焼き尽くし、その場には灰だけが舞っていた。見た所、その魔法は相当の出力で放たれている。

 わざわざ使う必要の無い膨大な魔力を使用したリリさんは、珍しく険しい表情を浮かべながらぽつりと一言だけ言い残した。

「その薄汚い口で、私の夫を悪く言わないで下さいッ!」
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