正体を隠せているつもりのエリートポンコツな可愛すぎる妻のため、僕は今日も暗躍する

境ヒデり

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第2話 結婚記念日なので、任務も暗躍も手短に

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 リ、リリさんんんんん!!!!

 いや、待って!?僕の奥さん最高過ぎない!?大陸で一番可愛いのに、世界で一番かっこいいとかもう反則でしょ!!

 普段は少し抜けていて温厚なリリさんが、珍しく怒りを露にして鋭い目つきになってるだけでも、可愛いとかっこいいの風邪を引きそうな温度差で悶え死にそうなのに……怒ってる理由が僕の為とか……ダメだ、今すぐ抱き締めたい。

(ぐっ……押さえろ僕!今残りの残党を吹き飛ばしてリリさんを抱き締めたら、任務と一緒に夫婦関係も終わるぞ!!)

 理性とはかけ離れた衝動で、柱の物陰から彼女の元へ歩みを進めようとする僕の体。

 まるで言う事を聞かない自分の足を、必死になってこの場に押し留めようと奮闘していたら、何かを感じ取ったリリさんが物凄い勢いで僕の方に振り向いた。

「誰ですかッ!!!」
(ヤバッ!!)

 恐らくは、僕が理性と本能の間で揺れ動いていた時、一瞬気が緩んだ綻びから漏れ出た、微小な魔力に気が付いたのだろう。

 実際には、魔力探知の手練れでも感じ取れない程度の極僅かな魔力の漏れだが、気が付くとはもはや天性のそれである。

「誰か……いるんですか?」

 リリさんの問い掛けに、声を押し殺しながら首だけ勢い良く横に振る。

「隠れていても無駄ですよ?今すぐ出てくれば、苦しまないよう善処しますから……早く出て来て下さい」

 淡々とした声音で紡がれる、事務的で感情の籠っていないその言葉。

 僕が今展開している隠密魔法は、この世界で僕を含めた数人しか使用できない魔法の為、存在が明るみに出る事など万に一つも無いのだが……それでも、心臓は痛い程激しく鼓動している。

「はぁ……そうですか。それなら、肉を切り裂かれる苦しみに悶えて頂くしかありませんね……」

 重々しい溜息を吐きながら、そう口にした彼女。

 その直後、僕の眼前をリリさんが放った業火が通過した。

(あっつ!!あっつい!!!)

 間一髪で避けていなかったら、間違い無く直撃していたであろうその火球。頬に掠った程度の掠り傷で済んだのが、不幸中の幸いだ。

 リリさんは、敵が潜んでいると確信していた位置に打ち込んだ自身の魔法に、一切の手応えが無かった事に首を傾げて、

「……あら?私の気のせいでしたか……?まぁ、それならそれで良いのですが」 

 そう言って、僕のいる方向から視線を外す。あー良かった。もう一度撃ち込まれなくて。

 まぁ、当然と言えば当然かもしれないな。大抵の人間なら、躱すどころか防御すら不可能な精度と速度の魔法だったし……。

 突如として訪れた危機を脱した事に安堵して、僕はそっと胸を撫で下ろす。

 一方、怪しい気配が自分の気のせいだと納得したリリさんは、人差し指を頬に当てて何か考え込むような仕草を見せながら、

「無い気配を感じるなんて、私疲れているのでしょうか?……ハッ!いけません!また不必要に時間だけ使ってしまいました!記念日のプレゼントも、まだ考え付いていませんのに……」

 後悔の念に苛まれながら、がくりと肩を落とす彼女。良いんだよリリさん!貴方が何事も無く僕らの家に帰ってきてくれる事が、最高のプレゼントだから!!

「そうだ!今考えましょう!!どうせ標的ターゲットで残っているのは、あと一人だけですし……」

 そう口にして、きらりと光る鋭い眼光を、この空間で僕を除けばたった一人生き残っている標的ターゲットに突き刺すリリさん。

 その男は、蛇に睨まれた蛙のように、腰を抜かしてカタカタと震えている。

 あの男の名前は……あぁそうだ。確か、オリヴァー・ディグだったな。反政府派を掲げてはいるが、その実、弱者を殺戮して楽しむ快楽殺人のテロリスト。今回リリさんが受けた任務の主要標的《メインターゲット》であり、僕と同じ重要指名手配犯だ。

 まぁ、尻もちをついて震えているコイツには、凶悪犯罪者の面影など一切無いが……。

「ヒッ!た、助けてくれぇ!!」
「どうしましょう……プレゼントの代表と言えばお花……でも、去年もお花……お渡ししたんですよねぇ……」
「頼む!もう悪さなんざ絶対しねぇ!!だから今回だけは見逃してくれ!!」
「う~ん……高価なアクセサリー、とか?……いえ、そういう物ではあまり喜んで貰えない気がします……」

 部下を見殺しにしておいて、情けなく自分だけ助かろうと命乞いをするオリヴァー。

 だが、その声は一切リリさんの耳には届いていない。どうやら、僕との結婚記念に渡すプレゼントを考えるのに夢中なようだ。それでいて全く隙が無いのだから、本当に恐ろしいものである。

 そう、彼女に隙は無い。ここから奴が戦況をひっくり返す余地など、微塵も残っていないはずなのだが──何故だろう。どこか違和感を感じる。絶望の淵に立たされたオリヴァーの目が死んでいないのだ。

「お、おい……聞いてるか……?」
「全くもう!任務さえ入らなかったら、手作りの何かをお渡しできたのに!……いえ、それもダメですね……裁縫なんかしたら、手が傷だらけになって心配をかけてしまいます……」

 なおも、目の前の男を脅威として認識していないリリさんは、独り言を呟いている。

 その様子を確認したオリヴァーは、ほんの少しだけニタっと口端を上げると、遅れて違和感に気が付いた彼女が魔法を放つその前に、自身の懐へ手を忍ばせて、両目を力強く閉じ切った。

……あぁ、なるほど。そういう事か。

 その瞬間、僕はこの空間に一か所しかない窓ガラスを吹き飛ばし、いち早く外に飛び出した。







「ハハッ!上手くいったぜ!!」

 僕のすぐ後を追うように、廃墟の三階窓から飛び降りて来たオリヴァー。まだ隣にいる僕の存在には気付いていないようで、勝ち誇った笑顔を浮かべている。

 僕は、流れで逃げ出そうとするオリヴァーの肩にそっと触れて、展開している隠密魔法の空間に、そのまま無理矢理引きずり込んだ。

「こんばんは」
「なッ!?」

 驚愕なのか、それとも恐怖なのか。

 僕の存在を認識して、目を見開いているオリヴァー。

 何か言おうとしているが、言葉を交わす気など端から無い。僕はただ、妻の手伝いをしに来ただけなのだから。

 まぁ……でも、リリさんの注意が散漫していた隙をついて、最近裏で他国から密輸されている虫──発光蝿《フラライ》の絶命反応を使った閃光での逃亡は、悪党なりに賢いなとは思った。魔道具でも魔法でも無い分、あれを初見で避けるのはほぼ不可能に近いだろうし。

 その奇策に免じて、一つだけ良い事を教えてあげようかな。冥途の土産には丁度良いだろう。

 オリヴァーの首に手を掛けて、その腕に魔力を流し込む。

 そして、軽く力を込めながら口を開いた。

「覚えておくと良い。目っていうのは、口よりもお喋りなんだ」

 最期の言葉は聞こえただろうか。正直どっちでも良いが。

 この死体をココに置いておけば、窓から逃走を図ってそのまま転落死した馬鹿な悪党、というシナリオとして落ち着くだろう。魔法は別に、万能じゃない。

 さて、そろそろ視界が戻ったリリさんも来てしまうし、僕は一足先に帰ろうかな。

 今日もお仕事を頑張った最愛の妻を労う為、晩御飯を作らなくては。せっかくの結婚記念日だから、良い食材をたくさん揃えた訳だし。

 浮足立つ気持ちそのまま、僕は急く足に身を任せて我が家への帰路に就いた。
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