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第3話 結婚記念日の夜、彼女は小さな箱を隠していた
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我が家の食卓に並ぶ、色鮮やかな料理達。うん、我ながら素晴らしい出来栄えだな!
後は、帰り道に買って来た少し高価なワインをテーブルの中心に置いてと……よし。これで、完璧な記念日ディナーの準備は整った!
晩御飯の支度を終えた僕は、いつも通りの席に腰を下ろす。
部屋に掛かった振り子時計が示している時間的に、そろそろ帰って来る頃合いだと思うが──
カチッと丁度動いた指針を眺めながら、ぼーっとそんな事を考えていると、タイミング良く開かれた我が家の玄関口。
たった今帰宅したリリさんは、帰って来るや否や勢い良く頭を下げて、
「ただいま帰りました!遅くなって申し訳ありません!!」
確かに、朝言っていた時間よりは少し遅れての帰宅だが、とは言え頭を下げて謝罪する程の遅刻では無い。少々大袈裟な気もするが、この誠実さも彼女の素敵な部分であり、僕がリリさんを愛して止まない理由の一つだ。
「いえ、全然大丈夫ですよ!お仕事お疲れ様です!」
「本当にごめんなさい……生徒さんが、少し問題を起こしてしまいまして……」
「あはは……魔術学校の先生も大変ですね……」
「一応、私非常勤の講師なのですが……人手が足りず駆り出されてしまいました……」
肩を落として、呟くようにそう口にしたリリさん。
僕にも雑貨屋の店長という表の肩書きがあるように、当然彼女も表の職業に就いている。
リリさんの表稼業は、都市部に位置する魔術学院の非常勤講師。政府の息が掛かっている国立の学校で、非常勤という立場も何かと都合が良いのだろう。
実際に従事していた今日の業務が別なのは、その一部始終を見ていた為知っているが、口が裂けてもそんな事は言えない。興奮して炎魔法など撃たれようものなら、借金して買ったこの家が全焼してしまうし……
彼女の吐いた嘘に、僕は「本当にお疲れ様です」とだけ返す。
それを聞いたリリさんは、にこっと柔らかな笑みを浮かべて、
「でも……ルミ君のお顔見たら、今日の疲れが全部吹き飛んじゃいましたっ!」
「……っ!!」
この笑顔でこの言葉……さすがに反則でしょ……
可愛いなんて表現じゃ形容できない、天使のようなリリさんのその仕草。率直な感情を、素直にそのまま口にしているのが分かっているからこそ、僕の心臓へのダメージは甚大である。
気を抜いたら、ダラしなく頬が緩みそうな僕の顔。情けない表情を見せないようにする為、無理矢理口端を上げて口を開く。
「僕もですよ。今日だけじゃ無くて今までも。リリさんの顔を見るだけで、明日も頑張ろうって、そう思えるんです」
「ルミ君……も、もうっ!ダメですよ!これ以上ルミ君を好きになったら、おかしくなってしまいます……」
「……きっと、おかしくなったリリさんも凄く素敵なんでしょうね。一度は、お目に掛かりたいものです」
「……う、うぅ……あぅ」
僕の言葉で、耳まで真っ赤に染め上げながら、恥ずかしそうに俯いてしまうリリさん。ていうか、照れて「あぅ」って声が漏れちゃう僕の奥さん愛おしすぎるんだけど!?
結婚三年目に突入してもなお薄れない、くすぐったくなる甘酸っぱいこの空気感。
年月が経とうと慣れる事の無い気恥ずかしさに、僕とリリさんは互いに黙り込んでしまう。
僕は、その心地が良い沈黙を破るように、おずおずと口を開いた。
「えっと……このまま、ご飯にしますか?それとも、先に入浴しますか?」
「あ……えっと……お風呂……入ってきます……」
「はい……」
*
「では、乾杯しましょうか。前に飲んで美味しかったワインを買って来たので、お口に合うと良いのですが」
「わぁ!美味しそうなワインですね!!楽しみです~!」
お風呂から戻って来た、湯上りで頬がほんのり火照っているリリさん。
彼女が椅子に座ったのを確認した僕は、二つのグラスにワインを注いで、その一つをリリさんの目の前にそっと置く。
「……それでは、僕たちの結婚記念日に。乾杯」
「乾杯ですっ!」
カランと硝子が奏でる美しい音色が、この部屋に響いた。
喉を流れるワインによって、芳醇な葡萄の香りが僕の鼻腔を通り抜ける。うん、やっぱりこの銘柄はとても美味しいな。
どうやらリリさんも、この味に満足してくれているようで、恍惚な表情を浮かべている。
「ん~っ!さすがルミ君!このワインとっても美味しいです~!」
「良かった……お口に合ったようで安心しました!では、食事を取り分けるのでお皿を──」
「あ、ちょっと待ってください!ご飯の前にお渡ししたい物が……」
それぞれの小皿に食事を取り分けようとしたその時、僕の手を一旦止めさせたリリさん。なるほど。ずっと左手を後ろに隠していたのはそういう事だったのか。
「じゃ~ん!結婚記念日のプレゼントです~!酔ってしまったら渡すのを忘れてしまうかもしれないので、お夕飯の前にお渡ししたかったんです!」
そう言って彼女が僕の目前に出したのは、黒い小さな箱だった。
「……っ!嬉しいです!空けても良いですか……?」
「はいっ!もちろん!!」
彼女から黒い箱を受け取り、僕はすぐにその封を開いた。
そして、その中に入っている物を見つめながら、ぽつりと声を漏らす。
「これは……」
後は、帰り道に買って来た少し高価なワインをテーブルの中心に置いてと……よし。これで、完璧な記念日ディナーの準備は整った!
晩御飯の支度を終えた僕は、いつも通りの席に腰を下ろす。
部屋に掛かった振り子時計が示している時間的に、そろそろ帰って来る頃合いだと思うが──
カチッと丁度動いた指針を眺めながら、ぼーっとそんな事を考えていると、タイミング良く開かれた我が家の玄関口。
たった今帰宅したリリさんは、帰って来るや否や勢い良く頭を下げて、
「ただいま帰りました!遅くなって申し訳ありません!!」
確かに、朝言っていた時間よりは少し遅れての帰宅だが、とは言え頭を下げて謝罪する程の遅刻では無い。少々大袈裟な気もするが、この誠実さも彼女の素敵な部分であり、僕がリリさんを愛して止まない理由の一つだ。
「いえ、全然大丈夫ですよ!お仕事お疲れ様です!」
「本当にごめんなさい……生徒さんが、少し問題を起こしてしまいまして……」
「あはは……魔術学校の先生も大変ですね……」
「一応、私非常勤の講師なのですが……人手が足りず駆り出されてしまいました……」
肩を落として、呟くようにそう口にしたリリさん。
僕にも雑貨屋の店長という表の肩書きがあるように、当然彼女も表の職業に就いている。
リリさんの表稼業は、都市部に位置する魔術学院の非常勤講師。政府の息が掛かっている国立の学校で、非常勤という立場も何かと都合が良いのだろう。
実際に従事していた今日の業務が別なのは、その一部始終を見ていた為知っているが、口が裂けてもそんな事は言えない。興奮して炎魔法など撃たれようものなら、借金して買ったこの家が全焼してしまうし……
彼女の吐いた嘘に、僕は「本当にお疲れ様です」とだけ返す。
それを聞いたリリさんは、にこっと柔らかな笑みを浮かべて、
「でも……ルミ君のお顔見たら、今日の疲れが全部吹き飛んじゃいましたっ!」
「……っ!!」
この笑顔でこの言葉……さすがに反則でしょ……
可愛いなんて表現じゃ形容できない、天使のようなリリさんのその仕草。率直な感情を、素直にそのまま口にしているのが分かっているからこそ、僕の心臓へのダメージは甚大である。
気を抜いたら、ダラしなく頬が緩みそうな僕の顔。情けない表情を見せないようにする為、無理矢理口端を上げて口を開く。
「僕もですよ。今日だけじゃ無くて今までも。リリさんの顔を見るだけで、明日も頑張ろうって、そう思えるんです」
「ルミ君……も、もうっ!ダメですよ!これ以上ルミ君を好きになったら、おかしくなってしまいます……」
「……きっと、おかしくなったリリさんも凄く素敵なんでしょうね。一度は、お目に掛かりたいものです」
「……う、うぅ……あぅ」
僕の言葉で、耳まで真っ赤に染め上げながら、恥ずかしそうに俯いてしまうリリさん。ていうか、照れて「あぅ」って声が漏れちゃう僕の奥さん愛おしすぎるんだけど!?
結婚三年目に突入してもなお薄れない、くすぐったくなる甘酸っぱいこの空気感。
年月が経とうと慣れる事の無い気恥ずかしさに、僕とリリさんは互いに黙り込んでしまう。
僕は、その心地が良い沈黙を破るように、おずおずと口を開いた。
「えっと……このまま、ご飯にしますか?それとも、先に入浴しますか?」
「あ……えっと……お風呂……入ってきます……」
「はい……」
*
「では、乾杯しましょうか。前に飲んで美味しかったワインを買って来たので、お口に合うと良いのですが」
「わぁ!美味しそうなワインですね!!楽しみです~!」
お風呂から戻って来た、湯上りで頬がほんのり火照っているリリさん。
彼女が椅子に座ったのを確認した僕は、二つのグラスにワインを注いで、その一つをリリさんの目の前にそっと置く。
「……それでは、僕たちの結婚記念日に。乾杯」
「乾杯ですっ!」
カランと硝子が奏でる美しい音色が、この部屋に響いた。
喉を流れるワインによって、芳醇な葡萄の香りが僕の鼻腔を通り抜ける。うん、やっぱりこの銘柄はとても美味しいな。
どうやらリリさんも、この味に満足してくれているようで、恍惚な表情を浮かべている。
「ん~っ!さすがルミ君!このワインとっても美味しいです~!」
「良かった……お口に合ったようで安心しました!では、食事を取り分けるのでお皿を──」
「あ、ちょっと待ってください!ご飯の前にお渡ししたい物が……」
それぞれの小皿に食事を取り分けようとしたその時、僕の手を一旦止めさせたリリさん。なるほど。ずっと左手を後ろに隠していたのはそういう事だったのか。
「じゃ~ん!結婚記念日のプレゼントです~!酔ってしまったら渡すのを忘れてしまうかもしれないので、お夕飯の前にお渡ししたかったんです!」
そう言って彼女が僕の目前に出したのは、黒い小さな箱だった。
「……っ!嬉しいです!空けても良いですか……?」
「はいっ!もちろん!!」
彼女から黒い箱を受け取り、僕はすぐにその封を開いた。
そして、その中に入っている物を見つめながら、ぽつりと声を漏らす。
「これは……」
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