正体を隠せているつもりのエリートポンコツな可愛すぎる妻のため、僕は今日も暗躍する

境ヒデり

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第4話 おかしくなってしまいそうなので、目を閉じてください

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 中に入っていたのは、一枚の美しい栞であった。決して派手な装飾では無いが、それはそれは美しい栞。

「ごめんなさい、その……実は、今日の今日までプレゼントが決まらなくって。用意できず帰り道に見つけた物なのですが……」

 本人こそこう言っているが、最後の最後まで僕を想い考えてくれた結果のプレゼントなのだろう。

 その証拠に、栞の色は僕が好きな青色を基調としたデザインだし、栞を贈り物に選んだのだって、僕が良く読書している姿を見ていたからだと思う。これは、僕をしっかり見ているからこそ贈れる、世界で一番愛が込められたプレゼントだ。

「す……すっごく嬉しいです!!デザインも可愛いし、何よりリリさんの愛情を感じられるプレゼントで……本当に本当に嬉しいです!」
「よ、良かったぁ……気に入って貰えなかったらどうしようかと……」

 安堵で胸を撫で下ろしたリリさん。しかし、それも束の間。 

 彼女は突然背筋を伸ばすと、凛とした真面目な面持ちに変わって、

「こ、こほんっ!えっと、改めて伝えさせて下さい。ルミ君と出会って、結婚して、今日まで。毎日が本当に楽しく、心の底から幸せです。幸せで仕方が無いです。いっつもドジして迷惑かけてばかりの私ですが、ルミ君を想う気持ちだけは世界の誰にも負けません。こんな私ですが、これからもずっと一緒にいてくれると嬉しいです。深く深く、お慕いしています」

 照れる事も恥ずかしさを誤魔化す事も無く、真摯に想いを言葉として形に残してくれたリリさん。どうしよう、もう今にも泣きそうだ。嬉しくて意識が飛んでしまいそう。

 だが、ここで都合良く気絶する訳にはいかない。そんなのは、真剣に向き合ってくれている最愛の妻に失礼だから。

「……僕からも、プレゼントがあります。それから、伝えたい事も」

 そう口にしながら、懐に忍ばせておいたリリさんのよりも小さい小箱を取り出して、彼女に差し出す。

「開けても……良いですか?」
「もちろんです」

 リリさんは、そっとその小箱を開く。そして、中にある二つの指輪を見て息を呑んだ。

「き、綺麗な指輪です……ここまで緻密に装飾された指輪、見た事がありません……」
「この指輪は、他国から取り寄せた物なんです。その国では最近、結婚している夫婦が二人の繋がりの証明として、お互いの左薬指にお揃いの指輪を付けるのが流行しているらしく……僕たちもどうかなぁ、と……」
「なるほど……だから、二つあるのですね!素敵……とっても素敵です!!」
「気に入って貰えて良かった……もし良ければ、僕がリリさんの薬指にこの指輪を付けても?」
「は、はいっ!ぜひよろしくお願いしますっ!」

 彼女の了承を得て、暗殺ギルドのリーダーとは思えない華奢な左手を、丁重に手に取った僕。

 箱から指輪の一つを取り出して、リリさんの薬指に通しながら言の葉を綴る。

「……僕も、リリさんと出会ってからずっと、まるで夢の中にいるみたいに幸せです。もしかしたら本当に夢で、ある日起きたら消えちゃうんじゃないかって思う程、心の底から幸せで、貴方を愛しています。世界を敵に回したとしても、一生を賭けて貴方を守り続けます。だから、これからも……僕の隣にいて下さい。こんな僕と結婚してくれて、本当にありがとう」

 言葉を言い終えるのと同時に、リリさんの左手から手を離す。彼女の薬指には、夫婦の結晶である鉄製の指輪が、控えめにその輝きを放っていた。

 サイズがピッタリだった事に安心しつつ、僕はもう一度リリさんの顔に視線を戻す。そして、その瞬間目に入った光景に驚き言葉を失った。

 何故なら、彼女の瞳からは大粒の涙が溢れて、頬を一滴、また一滴と伝っていたからだ。

「う、うぅ……ぐすっ。ふふっ……世界を敵に回してもなんて、大袈裟過ぎですよぉ……」
「あはは……例えばの話です。それ位僕は、リリさんの事を愛していますから」
「どうしましょう……とっても嬉しくて、幸せで心が満ちているはずなのに、涙が止まりません……」

 屈託の無い笑みを浮かべながら、温かい涙を滴らせるリリさん。

 僕は一度立ち上がり、自分の指で彼女の涙を拭った。

「可愛い顔が涙で台無しですよ……と言いたい所ですが、泣いているリリさんも可愛いですね」
「もぉ……なんですかぁそれぇ……」

 どんな表情で様相だったとしても、僕の妻は世界で一番可愛いし美しい。これは、何人なんぴとも覆せぬこの世の摂理なのだ。

 泣きながら、自身の頬に添えられた僕の指を掴むリリさん。そして、そのまま互いの手と手を絡み合わせて、

「……ルミ君さっき、おかしくなった私を見たいって、そう言いましたよね?」
「え、えぇ……はい」
「でも、やっぱり見られるのは恥ずかしいので目を瞑ってください。私今、おかしくなってしまいそうなので……」
「分かりまし、た……?」

 言われるがまま、僕は目を閉じる。何だろう、さっきのは例えの話だと思っていたが、実際に発作などが出てしまうのだろうか?

 目を瞑りながらそんなくだらない事を考えていたが、すぐにその雑多な思考は吹き飛ばされる事となる。

 僕の唇に触れた、柔らかなそれの感触。考える必要も無く、それは接吻キスだった。

 ふんわりとした葡萄の甘さと微かに香る灰の匂いで、意識は今にもとろけてしまいそう。

 リリさんは、ゆっくりと顔を遠ざけながら、恥ずかしさと照れではにかんでいる。

 一方、驚愕と衝撃で立ったまま硬直した僕。せめて何か言わなければと、沸騰した脳を回転させて、思い付いた文章をそのまま口にした。

「ご飯……食べましょうか?」
「はい……♡」
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