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第1章:Eランク
13.待ち合わせ
しおりを挟む教会を後にした俺とミーナは、弾んだ足取りで街を歩いていた。
ミーナ「いやー、まさかあんな優しい人が手伝ってくれるなんてね! これで少しは楽になるかも!」
一郎「……まあ、そうだな」
一郎(でも、シエラがあそこまで発狂してたのが気にかかる……いつも適当ばかり言ってるくせに)
シエラ『あの女は絶対に危険だって!! なんで一郎くんは警戒しないの!? 騙されてるってば!!』
一郎『お前が大騒ぎするせいで、むしろ逆に信用したくなってくるんだよ……』
シエラ『あの目、どう見てもヤバいやつの目だったでしょ!? これだから童貞は!』
一郎『そもそも、お前も十分ヤバいやつだからな? あと絶対お前の言うことだけは聞かん!!』
頭の中が騒がしくなってきた頃、俺たちはミーナのアパートへと戻ってきた。
木造の階段を上がり、ギシギシと軋む廊下を抜けて、ミーナが扉を開ける。
ミーナ「はーい、ただいま~っと」
一郎「……なんか、帰ってきた感あるな」
俺はミーナのバッグの中で、今日の出来事を振り返りながら小さくため息をついた。
室内はいつも通り、少し散らかっているけどどこか落ち着く雰囲気。
ミーナ「サラさん、ほんといい人だったよねー。明日が楽しみ!」
一郎「……まあ、俺たちにとっちゃありがたい話ではあるけど」
一郎(……でもやっぱり、シエラの言葉が気になる。なんなんだ、あの過剰な反応は)
シエラ『疑ってる間に手遅れになるパターンだってあるんだからね!?』
一郎『はいはい、もうその話は今日だけで十回目な?』
そんな他愛もないやりとりを交わしながら、俺は今日も無事に生き延びたことに小さく感謝した。
***************
ここがサラとの初クエストの集合場所だ。
ギルドの正面広場。いつもなら冒険者たちの談笑や装備の音で賑やかだが、朝の早い時間帯ということもあって、まだ人影はまばらだった。
広場には石畳が敷き詰められ、中央には任務掲示板がそびえ立っている。周囲を囲むようにいくつかのベンチが置かれ、ギルドの重厚な扉が背景にそびえるこの場所は、まさに冒険者の出発点といった雰囲気だった。
俺とミーナは、その一角で並んで待っていた。
ミーナ「なんか、楽しみだね!」
一郎「ま、俺ら二人よりは確実に頼りになるとは思うけどな……」
そんな話をしていると、石畳の上に控えめな足音が響いた。
一郎「……来たな」
柔らかく揺れる修道服の裾。その下から覗くのは、艶やかな黒のパンプスと、透けるような白いストッキング。サラが静かに歩いてくる。
パンプスはシンプルだが磨き込まれており、落ち着いた光沢を放っている。足首から伸びるストッキング越しの脚は、柔らかそうでいて、どこか規律を感じさせる端正さを帯びていた。
一方、ミーナのブーツは茶色の革製。使い込まれて擦り切れており、泥汚れも目立つ実用重視の装備だ。
そして俺は、彼女たちの脚に囲まれた。
サラとミーナ、俺の六倍はあるその身体に挟まれ、まるで巨人たちの世界に迷い込んだかのような感覚だった。視界いっぱいに広がる巨大な脚。膝下だけで俺の身長を優に超えるその質量は、もはや人間のものとは思えない威圧感を放っていた。
一郎(な、なんだこの圧……)
サラが静かに脚を一歩踏み出す。つま先が俺のすぐ目の前に迫り、その動きに反応して俺の身体が思わず仰け反る。
一郎(で、でかい……っ!!)
ミーナは無邪気にサラに握手を求めるが、俺の目線の世界では、巨大な二人の脚がゆっくりと動き、俺の周囲を囲んでいく恐怖そのものだった。
サラのつま先が、俺のすねに軽く触れた。
一郎(……っ!! あ、当たった……)
パンプスの先端がゆっくりと石畳の上を滑り、俺の真横に並ぶ。その動きはまるで、そこに俺がいないかのように自然で、それが余計に恐怖を煽った。
サラの視線はあくまでミーナに向けられていて、俺に対してはまったく無関心を装っていた。
一郎(な、なぁ……絶対わざとだよな、これ……!?)
……俺の思考はそこで途切れた。
サラは心の中で、静かに笑っていた。
サラ(ふふ……)
ミーナのブーツが地面を踏みしめるたび、周囲にわずかな揺れが伝わる。
サラは、まるで偶然を装いながら、慎重に足を動かし、俺の足元や視界を遮る位置にパンプスを配置していた。
サラ(気づいていないですね……でも、確実に感じているはず。自分の立場を……)
サラ「普段はどんな依頼をされているんですか?」
ミーナ「採取とか、小さめの魔物退治が多いかなー。まだまだ駆け出しだから」
一郎(……この状況で雑談できるお前の神経がすごいわ)
サラのつま先が俺の足元を挟み込むように静かに滑り込む。
一郎(……わかってない。わかってないけど……この圧が、嫌でも俺に現実を突きつけてくる)
サラ「それでは、出発しましょうか」
一郎「……ああ、行こう」
ただそこに立っているだけのはずなのに、俺の心臓はドクドクと高鳴っていた。
一郎(サラさん、あんた……ほんとに偶然、なのか……?)
だが、俺はまだ——その答えに辿りつけていなかった。
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