凛とした彼女

言ノ葉

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案内(2)

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 『それじゃあ、案内しますね。』
と零が俺を呼ぶ。零を独り占め出来るのが嬉しくてしょうがない。俺は
 『よろしくね。』
と笑顔で返す。普通の女子ならこれで顔を赤くするが零は特に変わらず
 『はい。』
と少し微笑ほほえみながら返す。それがちょっと悔しくもあり、嬉しくもある。零は上っ面しか見てない奴らとは違う。俺の内側を見てくれる、真正面から向き合ってくれる。そんな人は初めてで好きになるのは必然だった。
 零に案内されて雑談をしながら校内を一緒にウロウロしていた。零は見た目に反して凄く親しみやすい性格だ。それにも凄く惹かれる。
 そんなことを考え、少しボーッとしてると
 『あ、橘さん。』
と先生らしき男が零に話しかけに来た。俺と零は立ち止まり要件を聞いた。
 『悪いけど、橘さん、クラス委員長だったよね?今から職員室に来てクラスの人達のノート教室に持って行ってくれないかな。』
 『わかりました。今行きます。』
零が淡々とそう返すと先生はどこかに行った。零は俺の方を向いて
 『サキ、案内の途中で申し訳ないんですが用事が出来てしまったので、残りの場所は明日にしましょう。先に帰っていてく…。』
 『待ってる。待ってる、から、一緒に帰ろう?』
零と少しでも一緒にいたくて零の言葉を遮って言った。俺の言葉を聞くと零は少し申し訳なさそうな顔をしながら
 『そうですか、では、玄関で待っていて下さい。すぐに終わらせて向かいます。』
と言った。一緒にいたいのに別の場所で待ってるんじゃ意味が無い。
 『…一緒に…零に付いて行っていい?仕事、手伝うからさ。』
駄々こねて、子供みたいだな…と自分で思ったが零は
 『いいですよ。私も一人で仕事をするのは寂しいと思っていたところです。』
と目を細めてふわっと笑いながら言った。その顔は、直視するにはあまりに綺麗で俺はつい顔を背けてしまった。不思議そうにする零に顔を見られないようにしながら
 『は、やく、行こう!』
と零の腕を引きながら走った。顔が熱くて仕方なかった。
 職員室に着くと零はトン、トン、トンとノックして
 『失礼します。』
と綺麗なお辞儀をしながら入っていった。零が出てくるまで待ってよう、と俺は職員室のドアの横の壁にもたれかかっていた。すると少し遠くから俺の嫌いな甲高い笑い声と騒がしい話し声が聞こえてきた。気にしない、聞こえない、と思いながら下を向いているとだんだんと声が近づき、一瞬静かになった。どうしたんだ、と思い顔を上げるとすぐ近くに三人の化粧の派手な女子達がいた。そいつ等は俺の顔を見るなり
 『ヤバっ!めっちゃイケメンなんだけど!ヤバくない!?』
とキャーキャーと騒ぎ出した。騒がしい声を無視し、下を向いて携帯をいじる。すると一人が話しかけてきた。
 『ねぇねぇ!キミ何年?ウチら三年なんだけど、見たことないから二年とか?』
面倒だ、と思いながら無視すると更に面倒なことになる気がして
 『今日転校してきた、一年。』
とボソッと不機嫌に呟いた。それだけの事でも女子達は騒がしくなった。
 『うっそ!めっちゃ大人っぽい!声とか色気ヤバいし!ねぇ!名前は?』
なんなんだ、と溜息をつきながら、
 『篠原…。』
と名字だけを言った。コイツらに名前で呼ばれるとか不愉快だ。そう思っていたのに
 『それ名字でしょー!下の名前教えてよ!』
と騒ぎ出した。絶対言いたくない。零、早く帰ってきてくれ。無視して無言で携帯をいじっていると職員室のドアが開いて
 『失礼しました。』
とクラスの人数分のノートを持った零が出てきた。
(救世主!)
と思いながら
 『零!』
と呼ぶと
 『どうしました?』
とキョトンとしながら返す。そして俺の前にいる先輩の女子をみて
 『お知り合いですか?』
と俺に問う。俺は眉をひそめながら
 『全然、まるっきり初対面だよ。』
と返した。少しの間空気になっていた女子達の一人が少し不機嫌そうに
 『あ、アンタさぁ、《 高嶺の花 》って呼ばれてる女子でしょ。』
と零に向かって言った。さっきとは明らかに変わった態度に俺はイラッとしたが零は
 『私が?…そんな風に呼ばれた覚えはありませんが…。』
と首をかしげながら返した。するとそいつは
 『は?何それ、ウザイんだけど。何?その、そんなの初めて聞きました~、的な反応。』
と言い出した。その言葉に零は
 『そんなこと言われましても…初めて聞いたのは事実ですし…。申し訳ありませんが、私たちは用事があるので失礼させて頂きますね。』
と申し訳なさそうな顔をして返した。それを聞いた別の女子は
 『私たち・・ってなに?たち・・って。荷物もってんのアンタだけじゃん。そのくらい一人で持てんでしょ?』
と突っかかってきた。それを聞いた瞬間に俺は零の持っていたノートを半分奪い取り自分で持った。
 『これで俺も荷物持ってるね。行こう、零。』
少し呆けている零にそう言いながら歩きだそうとした。すると女子が
 『えー、シノハラくん行っちゃうのー?別にそんくらいの荷物女子一人でも持てるって!手伝う必要ないよ!どーせいっつも人に任せて楽してるんだろうし、荷物とか全部高嶺の花・・・・に任せてさぁ、ウチらと遊び行こうよー絶対楽しいからー!』
と甘ったるい媚びるような声で俺の腕を掴んできた。零を侮辱ぶじょくする言葉に俺を掴む手を叩き落とそうとしたが
 『申し訳ありませんが。』
という零の声で止まった。零は続けて
 『先程申し上げました通り私たち・・は仕事がありますので、引き留めるのは御遠慮頂けますか?』
と少し怒気を含む声で告げた。零の威圧感に負け女子は俺の腕を離した。だが、また別の女子が
 『別にそれくらい一人で持てんでしょ?シノハラくんと一緒じゃなくてもいいじゃん。それとも何?高嶺の花・・・・でもイケメンにかまって貰いたいの?こんなカッコイイ人も自分を手伝ってくれるの~、ってアピールしたいの?そういうのさぁ、ホント腹立つんだけど。』
と根拠もない言いがかりをつけてきた。あまりに的外れな言いがかりに言葉を失っていると
 『そう思うのでしたらそれで構いませんよ…。』
と零がこたえた。すると言いがかりをつけてきた女子は
 『言い返してこないって事は図星ってわけ?うわっ、高嶺の花って性格悪いんだー。サイテー。』
とバカにするように笑っていた。それに零は
 『いえ、反論するだけ無駄だと判断しただけですよ。』
と返した。
 『は?』
零の言葉にキレ気味の女子に更に続けて
 『当たり前じゃないですか。初対面にも関わらず人へ暴言を吐く、コチラの都合を無視する、根拠のない言いがかりをつけてくる、人を見た目で決めつけてくる、そんな人に何か言ったところで時間の無駄でしょう?』
と告げた。零の言葉で完全にキレた女子は
 『はぁ!?なんなの!?』
と顔を赤くして声を上げた。そんな女子を完全に無視して零は
 『それと貴女方にどう思われようと、どうでもいいです。貴女方に興味なんてありませんし、ましてや好意を抱いてもらう必要性を感じません。』
淡々と酷く冷たい瞳で女子たちをみつめた。零の綺麗な瞳が暗く、氷のように冷たくなるのを初めて見た。そんな零を前にしても怒りで頭が回っていない女子は
 『性格悪いのは合ってんじゃん。その言い方とかマジ悪女って感じー。』
と零に言う。零は呆れたようにため息をついていた。怒りが収まらないのか続けて
 『てゆうかさ、アンタ高嶺の花って呼ばれてるんだからイケメンなんていくらでも選び放題じゃないの?誰でもいくらでも手伝ってくれるでしょ、シノハラくんじゃなくてもいいじゃん。いいよね美人はちょーっと甘えた声出せばすーぐ人が寄ってくるんだからさ。』
と零に言った。俺はそろそろ本気でキレそうだったが零の言葉で怒りが消えた。
 『誰でもいい、なんてある訳ないでしょう。シノハラくんだから一緒に仕事をしたいんです。手伝ってくれるのが嬉しいんです。』
零は俺が名前を教えたくないのを察してか俺を名字で呼んだ。
 『はぁ?何今更いい子ぶってんの。アンタが性格悪いのなんてもう、』
 『私は見た目で人を判断しませんよ。』
 『は。』
食い気味でこたえる零。
 『シノハラくんの見た目がどうだったとしても私は彼と仲良くしたいと思いますよ。私は見た目、肩書き、歳なんて気にしたことはありません。どんな人でもその人個人をみます。周りの評価なんて当てになりません。自分で関わって初めてその人を知るんです。』
零が淡々と言葉を並べていると
 『そんなん口でだったらいくらでも言えんじゃん。くだらない。』
とまだ女子はキーキーと騒いでいた。零は深いため息をついてから
 『時間の無駄ですね。シノハラくん行きましょうか。帰るのが遅くなります。』
と俺の方を向きながら言った。
 『そうだね。早く行こっか。』
 『では、失礼します。』
零はお辞儀をしてそう言った。その言葉のあとに俺が教室に向かって歩きだそうと零に背を向けると後ろから
パァンッ!
と渇いた音がした。驚いて後ろを向くと左頬が赤くなった零、息を荒らげながら立つ女子とそれを驚いた顔で見つめる他の女子がいた。零が叩かれた、と俺は一拍遅れて気付いた。そして俺は完全にキレ、持っていたノートを投げ出し零を叩いた女子を殴ろうとした。すると
 『サキ、ダメですよ。落ち着きなさい。』
 『っ!』
零が目の前に来て止められた。止まった俺を見て
 『理由がどうであれ、手を出した方が負けなんです。よく止まってくれましたね。』
と少し微笑みながら言い、俺の頭撫でた。俺の頭を撫でる手が優しくて俺は少しむず痒いような感覚がした。そして零は女子の方を向き
 『さて、どうしましょうね?』
とさっきの穏やかな微笑みとは違う、冷たくあやしげな笑みを向けながら言った。ヒッ、と小さな悲鳴が聞こえたが
 『何がだよ!』
とまだ少し息の荒い女子が言った。すると零は
 『貴女たちへの罰はどうしようか、と思いましてね?』
と笑みを絶やさずに言う。
 『アンタにそんなこと決める権限なんかあるわけないじゃん!』
と騒ぐ女子を気にせず
 『そうですね、私には・・・そんな権限はありません。ですが…。』
そう言いながら零は外側にある胸ポケットから携帯を取り出した。そして
 『先生方・・・であればどうでしょう?』
とさっきの一部始終の流れる画面を女子たちに見せた。もちろん零が叩かれた場面もハッキリ映っている。俺は
(そんなのいつの間に…。)
と思いながら画面を見つめ立っていた。サーッと顔が青ざめていく女子たちに向かって零は
 『この動画を先生方へ見せたら貴女たちはどうなるんでしょう?その靴のラインの色、貴女たち三年生ですよね?経歴に傷がつきますね?すると受験は?受験でなくとも就職は?どうなるか、予想くらい出来ますよね?』
と冷たい表情のない顔で淡々と告げていく。声を荒らげていた女子とは別の女子が
 『私は手、出してないでしょ?!だから、見逃して!先生に言わないで!』
と零に言う。するともう一人の女子も
 『私だって!色々は言ったかもしれないけどコイツみたいに手は出してないし!コイツよりはマシでしょ!?見逃してよ!』
と騒ぎ出した。友達だと思っていた二人から急に裏切られ、零を叩いた女子は呆然としていた。その光景に零は
 『哀しいですね。自分の事しか考えていない。貴女たちの関係に友情なんて言葉は存在しないんでしょうね。』
と目を細め悲しげに呟いた。
 キーキーと騒ぐ女子たちに零は今日何度目かもわからないため息をつきながら
 『わかりました。先生にこの動画は見せません。』
と言った。
 『零!?叩かれたんだよ!?どうして!?』
俺は零の行動が理解出来ず思わず聞いた。すると零は俺にしか聞こえないような声で
 『大丈夫ですよ、サキ。先程の彼女たちの行動を許すほど私は優しくも甘くもありませんから。』
と言った。俺はよく分からなかったが零の言葉を信じることにした。零の言葉を聞いた女子は少し表情を明るくさせ
 『マジで?!許してくれるの?!助かる!!』
と言い出した。すると零は
 『おや、誰が許すと言いました?』
と言った。零の返しに困惑する女子は
 『えっ、だって、さっき動画は見せないって…。』
とまた顔を青ざめさせた。零はまた淡々と
 『えぇ、動画は・・・見せませんよ?ですが、今私たちがいる場所をよく考えてみてください。この扉の先にどなたがいらっしゃるか、ご存知ですよね?』
 『あ…。』
俺もすっかり頭から抜けていた。ココは職員室の扉の目の前。つまりあれだけ大声で騒いでいれば嫌でも先生たちの耳に入る。零が大丈夫だと言ってたのはこれの事だったのか、と思っていると
 『まぁ、私が職員室から出て来る前から貴女たちの声は中まで聞こえてきていましたから、出てくる前から先生方には《 聞いていて下さい 》と伝えていました。おや、結末は決まっていましたね。』
とクスッと笑いながら言った。その姿は恐ろしいほど妖艶で、美しく、最悪な結末しかないはずの女子たちですら見惚みとれ、言葉を失っていた。
 少しして職員室の扉が開いて先生が出てきた。
 『随分騒がしい様子でしたが、何かあったんですか?』
と俺たちに聞いた。女子たちは慌て始め冷や汗を流していた。すると零は
 『いえ、特には。』
と言った。俺はもちろん、女子たちも驚いて零をみつめた。零の返答に先生は
 『本当ですか?それにしては異常に騒がしかったですし、誰かが叩かれたような音もしましたが。』
と疑うように零をみた。それでも零は
 『本当です。叩かれたような音、は私がノートを床に落としてしまったからですよ。騒がしかったのはコチラの先輩方と彼が顔見知りで久しぶりの再会らしく盛り上がってしまったそうです。お騒がせして申し訳ありません。』
と平然と言い、頭を下げる。先生は腑に落ちないようだったが零の真剣な顔に
 『そうですか、これからは気を付けてくださいね。』
と言い職員室に戻っていった。
 『零!どうして!』
俺は耐え切れずに言った。すると零は
 『先生方に言うほどの事でもないでしょう?』
とキョトンとした顔で言った。俺が投げ出したノートを拾う零に女子たちは
 『でも、さっきもう先生には言ってあるって…!』
と言った。ノートを持ち立ち上がりながら零は
 『あぁ、嘘ですよ。』
と当然のように言った。
 『どうして…?』
と力の抜けたような声で女子はきいた。
 『貴女方に心から反省して頂くためです。もう二度と同じ過ちを繰り返さないように、手荒ではありますがこの方法を取らせて頂きました。騙してしまい申し訳ありません。』
零は眉を下げ困ったように笑い、そう言った。そして続けて
 『ですが、本当の目的はこれからです。貴女方はこれからどうするんですか?』
と言った。零の言ってる意味が理解出来ていない様子の女子。その様子を見て零は
 『貴女方のこれからの関係についてですよ。これからも今までのようにするんですか?それとも変わるんですか?』
と言い直した。言葉に詰まる女子に
 『もし、貴女方がそのままの上辺だけの関係を続ける、と言っても私は何も言いません。そんな権利はありませんから。ですが、どうせなら変わってみてはいかがですか?』
と言葉を繋げる。
 『変わる?』
零の言葉に首を傾げる女子たち。そんな女子たちに
 『そうです。貴女方は先程お互いの本性、素を知りました。今更隠すことは出来ないでしょう。つまり、裏を返せば《 素の自分でいれる相手を見つけた 》という事ではありませんか?その場だけを楽しむ軽い関係も良いかもしれませんが、何かあっても相談が出来る、そばに居てくれる、自分をみてくれる、そんな深い関係の方が素敵ではありませんか?私個人の考えですが、軽い関係よりもよっぽど気兼ねなく、より楽しく過ごせると思いますよ?』
と優しく微笑み零は告げる。黙り込む女子たちに
 『あくまで私の意見ですから、最後に決めるのは貴女方です。ですが、いつかそんな素敵な関係になってる貴女方を楽しみにしていますね。では、失礼します。』
と零は告げ、ノートを持ち直し、歩き出した。俺もすぐに零について歩き出した。

 『零、大丈夫?ちょっと赤くなってるね、痛くない?』
と零が持っていたノートを半分持ち頬に触れる。どうせなら全部持たせて欲しかったが
 (私の仕事ですから。)
と持たせてくれなかった。俺が頬に触れると零は
 『大丈夫ですよ。このくらいなら明日には治ってます。心配をかけてすみません。』
と言う。
 『ホント、心配したよ。もうあんなことしないでね。』
と言うと
 『そうですね、もうしませんよ。多分。』
と楽しげに言う。
 (ホントに大丈夫かな。)
と思いながらも零らしいと思い、それ以上は何も言わなかった。
 教室についてノートを教卓の上に二つに分けて置く。
 『任務完了、ですね。帰りましょうか。』
とふわっと笑いながら言う。もっとその顔がみたい。俺が笑顔にしたい。もっとそばにいたい。心の中で沢山の欲が出てくる。でも、
 『今はまだ、このままでいいかな…。』
 『?何か言いました?』
 『いーや?帰ろっか。零。』
 『はい、帰りましょう、サキ。』
いつかは絶対、零の一番になってみせる、けど、今は友達・・でいよう。まずは零が俺にくれたこの場所で、一番になってみせる。絶対オトすから。覚悟してて。
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