凛とした彼女

言ノ葉

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昔の彼女(3)

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 僕達は初めて零の過去を聞いた。すごく悲しくて、僕には耐えられそうにないような話で、 僕は泣きそうになってしまった。話し終わった零は
『…とまぁ、こんな感じですかね?…どうして二人とも泣きそうなんです?花に至ってはもう泣いてるじゃないですか…。ほらほら泣かないで下さいよ。』
 なんかすごくケロッとしてて花ちゃんの涙を拭いていた。そんな零を前に花ちゃんは
 『だって…零ちゃんにそんなに辛い思い出があったなんて知らなかったし気づけなかった…。嫌なこと思い出させてごめんね…。』
ボロボロと泣きながらそう言っていた。すると零は
 『…謝らなくても大丈夫ですよ、花。知らなかったのは私が言ってなかったんですから当然です。それにもう昔の話です、花が悲しく思う必要はありませんよ。』
そう言いながら花ちゃんの頭を撫でていた。すると花ちゃんは
 『零ちゃんはホントに強いね。私にはきっと耐えられないや…。』
と苦笑いをしながら言った。僕と同じことを思ってたみたいだった。零は花ちゃんを撫でていた手を止めて
 『…私は強くなんかないですよ。私がこの過去を乗り越えられたのは独りじゃなかったからです。私は弱いですから、独りだったら私はきっと両親のあとを追っていたでしょうね。…真琴さんが私を支えてくれたから今の私があるんです。真琴さんには感謝してもしきれませんよ。』
と自分の手を少し握り締めながら伏し目がちに答えた。それを聞いた花ちゃんは
 『…私はその…真琴さんのことをよく知らないからこんな風に思うのは図々しいかもしれないけど…。私は確かに真琴さんが零ちゃんを支えてくれてたっていうのは正しいし、その通りだと思う。でも、その過去を乗り越えられたのは零ちゃん自身の強さがあったからこそだと思うよ。どんなにたくさんの人が支えて、助けて、守ってくれても自分じゃ全然立ち上がれなくて、乗り越えられなくて、ダメになっちゃう人だってきっといっぱいいる。多分そんな人の方が多いんじゃないかな。でも、零ちゃんはたった一人の人の支えだけで自分で立ち上がることが出来た。乗り越えることが出来た。それは零ちゃんの強さだよ。そんな強さを持ってる零ちゃんだから私は助けられたの、今楽しく過ごせるの。零ちゃんは弱くなんかないよ。もっと自分の強さに自信を持って?』
まだ少し涙の残る目でそう言って零の手を包み込むように握っていた。零の顔を見ると驚いた顔で目に涙を貯めながら
 『…私は花を助けることが出来てますか?花は私といて楽しめてますか?…私は…弱くはないんですか…?』
静かに涙を流しながら発した零の言葉に花ちゃんは、うん、うん、と頷きながら零の手を握りしめていた。
 暫くして零の涙がやむと、零は
 『見苦しいところを見せてしまいましたね…。』
と少し恥ずかしそうにしていた。そんな零に花ちゃんは
 『見苦しくなんかなかったよ!零ちゃんの泣いてるところは初めて見たし、それに、心を許してくれてるんだなぁと思って嬉しかったよ!』
そう笑顔で答えていた。そこで僕に一つの疑問が浮かんだ。
 『花ちゃん花ちゃん、なんで涙を見せたイコール心を許してるってなるの?』
僕はただ単純に疑問に思っただけだった。中学時代のクラスの女の子とかはいろんな人の前で泣いては構ってもらうっていう子が多かったから。意味があんまりよくわからなった。花ちゃんはキョトンとしながら
 『え、だって、泣くのなんて大抵の人が自分の弱い部分を晒してるのと同じでしょ?普通心を許してない人の前で弱い部分なんて見せないと思わない?だからイコール、みたいな?』
 続いて零も
 『花の言う通りだと思いますよ?自分の泣いてる姿なんてあまり人に見せたいものではないですからね…。』
と花ちゃんに同意して答えた。そこで僕はあることを思い出した。前に僕が零を守った?というか助けた?時のことだ。その時零は僕の前で涙を流した。さっきの二人の話の通りなら、もしかしてその時既に零は僕に心を許してたってことになる…?きっとそんな事はないんだろうけど、一旦そう思ってしまうとそう思わずにはいられなくなってしまった。
 そんなことを考えてて急に黙った僕の顔を、零は
 『どうかしましたか?』
と覗き込んできて、零と目が合ってしまい僕の体温は一気に上昇した。恐らく紅くなってると思われる顔を、零に見せまいと僕は
 『な、なんでもないよ!大丈夫!大丈夫だからちょっとこっち見ないでね!?』
と慌てて答えた。零は不思議そうな顔をしていたが素直に花ちゃんの方を向き、花ちゃんと雑談を始めていた。
 顔の熱が引き、僕も二人の雑談に混ざり三人で話をして盛り上がっているとそろそろ帰らなければならない時間になっていた。僕は
 『残念だけど僕そろそろ帰んなきゃ。今日はありがとう、楽しかったよ。』
と言って帰る支度を始めた。花ちゃんも時間だったらしく帰る支度を始めた。僕らの支度が終わる頃零が何かを持ってきた。持ってきた何かを僕と花ちゃん、自分の手のひらに乗せて零は
 『あの、えっと、自分で作ったストラップなんですけど、その、三人で、付けませんか?』
と恥ずかしそうに言った。「嫌だったら全然付けなくても大丈夫ですから!もらってくれるだけで!」と慌てて言う零に向かって僕と花ちゃんは笑顔で
 『絶対つけるよ!』
と答えた。布で出来た小さな動物のストラップで僕がイヌ、花ちゃんがウサギ、零はネコだった。嬉しそうに笑う零を見て僕はどこか少しくすぐったい気持ちになった。
 

 その日の夜ベッドの中で色々なことを考えていた。
 初めて零の家に遊びに行って、零の事が色々知れたんじゃないかと思う。まぁ、前に僕の前で涙を流したイコール既に心を許してたじゃないか云々の所は僕の自惚れだと思うけど…。もし、もしあれが自惚れじゃなかったら、そう思うと僕は中々寝付くことが出来なかった。
 中々寝付けなかったせいで次の日の朝、寝坊して、学校に着くのがギリギリになってしまった。まだ寝癖がついたままの僕の頭を見て零が
 『寝坊ですか?珍しいですね。』
と少し微笑みながら僕の頭に手をやって寝癖を直してくれた。きっと顔が紅くなってたんだろうけど、そんなこと気にならないくらい僕は零のその行動が嬉しかった。零は花ちゃんにでさえ自分から触れることはあまりない。そんな零が自分から僕に触れてくれたことが嬉しくてしょうがなかった。自分の席に着きいつか僕からも触れられるくらい親しい関係になれたらな、なんてぼんやり思いながらホームルームが始まるチャイムがなるのを待っていた。
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