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第二章 放浪
第十七話 新たな港町
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ばさり、ばさりと翼が動く音が響く。
海上を飛び続けたオーケビョルンとマルクスは、再び海岸線付近に戻ってきて手近な町を目指して飛んでいた。既に日は傾いている、そろそろ着陸して休みたい。
「ここがルーベンソンの町だね」
「ほう……」
そして二人は、先ほど目にしていた港町の上で動きを止めた。そこそこ大きな、広い町だ。街並みは整っており、家々や建物の造形も近代的だ。
さすがは新しい国、新しい街。建築様式なども随分近代的なものになっているらしい。
「新しい国の町だと言うことじゃが、なかなか栄えておるのう」
「そうだね、エクルンドほどではないが、ここも大きな港町だ」
オーケビョルンが街をぐるりと見渡しながら言えば、マルクスが彼の背中の上でこくりと頷いた。
ローン郡ルーベンソンは、アールグレーン王国の北岸沿いにある街の中で、もっとも東にある町だ。バーリ公国との国境付近にあるために、バーリ公国との間で行き来する船も多い。
街の様子に目を向けるオーケビョルンに、マルクスが小さく笑いながら話しかける。
「川沿いや海沿いという場所は、必然的に人が集まるものさ。物流の拠点になるからね」
「なるほどのう……川も海も、人が行き交い、その人が立ち寄る場所になる、ということか」
友人の言葉に、確かに、と頷いたオーケビョルンだ。
川や海というものは、船が行き交う故に人が集まりやすい。船を止めたり、荷を上げ下ろししたり。そうすることで人の動きが発生し、そこに人が留まって村や町が出来る。商売が発生する。
そうして発展してきた海岸沿いの町は多いものだ。そして海岸沿いで船が止まれば、自然と町は発展していく。ルーベンソンもそうしてここまで大きくなってきたのだ。
頷いたオーケビョルンへと、マルクスが背中を叩きながら問いかける。
「そういうことさ。どうする? 寄っていくかい」
問いかけられたオーケビョルンが、小さく頭を動かして西の空を見た。太陽は既に沈みかけ、海面を赤赤と染めている。もうすぐ日が暮れるだろう。
「そうじゃの、折角だから寄っていきたい気持ちはある……じゃがのう」
「うん?」
と、途端にオーケビョルンが困った声を上げた。その視線は海岸沿い、ルーベンソンの町の港や海岸沿いの道へと向いている。
ぐるりと首を動かして、オーケビョルンがマルクスに視線を投げかけた。
「マルクスや、この町、海の方に離着陸場が見当たらんが」
「ん、ああ、そうだね」
そう、ドラゴンが着陸するための場所である離着陸場が、町の海側に見当たらないのだ。
するとマルクスが指を陸地の方に向ける。ルーベンソンの町の外れの方に、広くスペースの取られた場所がちらりと見えた。
「エクルンドみたいな大きな町なら海の方に張り出すようにして離着陸場が作られるが、一般的な町は陸地側に作られるんだ。ほら、あっちの方」
「おお、あそこか」
説明を受けてオーケビョルンも目を見開く。そちらに飛んでいけば、なるほど、離着陸場の魔法灯と管制塔が見えてきた。
「じゃあ、あっちの方に向かって降りていけばいいんじゃの?」
「そう。他の竜と事故を起こさないようにね」
オーケビョルンが視線をマルクスに向けながら言うと、こくりと頷くマルクスだ。近づいていけば確かに見えてくる、離着陸場の全容。エクルンドの離着陸場ほど大きくはないが、二面の着陸場を備えたちゃんとした離着陸場だ。
離着陸場の上空で滞空していると、地上から使い魔を経由して、魔法で増幅した声が聞こえてくる。
「ルーベンソン離着陸場へようこそ、お名前をお伺いしても?」
管制塔からの言葉の言葉を届ける使い魔に、オーケビョルンも返事を返す。このやり取りにも慣れたものだ。
「バーリ公国のオーケビョルン・ド・スヴェドボリ、それと同国、マルクス・ミヨーじゃ」
「そちらの離着陸場に降りたい。問題ないかい?」
マルクスもオーケビョルンの言葉に乗せるように、管制塔へ問いかけを投げていく。しばしの時間を置いてから、管制塔から返事が返ってきた。
「はい、どうぞお降りください。一番の着陸場が空いております」
「すまんのう」
使い魔に案内されながら、オーケビョルンはどんどんと降下していく。そして地上、ルーベンソン離着陸場の着陸場に降り立ったオーケビョルンは、さっさと人化を済ませてロビーに立ち入った。
「ふう」
「だいぶ飛んだね、疲れただろう」
ロビーに入る前に竜体の洗浄も済ませて、さっぱりしたオーケビョルンとマルクスが話し合いながらロビーでお茶を飲んでいると。
一人の獣人男性がこちらに近づいてきて頭を下げた。頭の上で丸みを帯びた、豹か虎を思わせる耳が動いている。
「ようこそいらっしゃいませ、『賢竜』様。アールグレーン王国にお越し下さり、深く感謝いたします」
「おお、出迎え感謝するのじゃ」
「あなたは?」
自分たちを目当てにして声をかけてきたことは、その言葉から明白だ。だが、当然出迎えがあるなんて聞いていない。何ならルーベンソン市に降り立とうとした事自体が気まぐれなのだ。
すると獣人の男性が、顔を上げながら二人に名刺を差し出してきた。アールグレーン王国の王室の紋章が入っている。
「アールグレーン王国、王室補佐官を務めております、ブリアック・ローランサンと申します。我が国とバーリ公国の国境を『賢竜』様が越えられたとお伺いして、出迎えのためにやってまいりました」
そう話しながら、ブリアックは再び頭を下げた。
聞くに、オーケビョルンが国境を越えたことを早速察知して、オーケビョルンと会うためにこの町で準備をしていたとのことだ。偶然というのはあるものだが、なかなかどうして、奇特なものである。
「おお……それはご苦労さまなのじゃ」
「王都クナウストからここまでは結構な距離があるでしょうに……ルーベンソンには元々出向なされていて?」
オーケビョルンが目を見開きながら言うと、マルクスもお茶のカップをテーブルに置きながら言った。
アールグレーン王国の王都クナウストは、海岸線からだいぶ南に下った川沿いにある。ルーベンソンからはかなり距離が離れていたはずだ。ドラゴンの翼でも一日はかかる。
すると、マルクスに微笑みかけながら、ブリアックが口を開いた。
「はい、お察しのとおりでございます。数日前から出向しておりましたが、まさかこのタイミングでお目にかかれるとは思っても見ませんでした」
そう話しながら、ブリアックがオーケビョルンに手を差し出してきた。
握手の姿勢だ。それの意図を汲み取れないほど、オーケビョルンも世間ずれはしていない。手を握り返しながら、ゆったりと微笑み返した。
すると隣からマルクスが、興奮した様子で声をかけてくる。
「オーケビョルン、これはチャンスだよ。王室補佐官と会えたんなら、アールグレーン王国の国王、ボー5世への謁見も不可能じゃない」
「ほう、確かにそうじゃ」
マルクスの言葉にオーケビョルンも目を見開いた。
アールグレーン王国の国王ボー5世は、芸術分野に造詣の深い人物として有名だ。アールグレーン王国が芸術分野に力を発揮し、優秀な人材を多く輩出しているのも、かの国王が積極的に支援しているから、と専らの噂である。
その国王に謁見し、直接詩を差し上げるということになれば、喜ばれないはずはない。何しろ古代竜の文筆家その人の作品だ。
オーケビョルンがブリアックの手を放したところで、マルクスが声をかける。
「ブリアック殿、僕たちは諸国をめぐり、詩歌を作る旅をしております。ボー5世に謁見が叶うのなら、謁見の際に詩を差し上げることも出来るかと思うのですが、取り計らってはいただけないでしょうか」
「そうじゃのう。王都の風景を見ながら詩を作り、国王陛下を詠んだ詩を差し上げるのも悪くない」
その言葉を聞いて、ブリアックは目を見開いた。願ってもない、という様子だ。
「ありがとうございます、すぐに日取りを調整いたしますので、それまではルーベンソンやローン郡の村々で、ゆっくりお過ごしください」
「ありがとうございます」
深く頭を下げながら話してくるブリアックへと、マルクスもオーケビョルンも再び頭を下げる。
そして二人は、ブリアックの案内のもとルーベンソン市のホテルへと向かうべく、離着陸場から外へと足を向けるのだった。
海上を飛び続けたオーケビョルンとマルクスは、再び海岸線付近に戻ってきて手近な町を目指して飛んでいた。既に日は傾いている、そろそろ着陸して休みたい。
「ここがルーベンソンの町だね」
「ほう……」
そして二人は、先ほど目にしていた港町の上で動きを止めた。そこそこ大きな、広い町だ。街並みは整っており、家々や建物の造形も近代的だ。
さすがは新しい国、新しい街。建築様式なども随分近代的なものになっているらしい。
「新しい国の町だと言うことじゃが、なかなか栄えておるのう」
「そうだね、エクルンドほどではないが、ここも大きな港町だ」
オーケビョルンが街をぐるりと見渡しながら言えば、マルクスが彼の背中の上でこくりと頷いた。
ローン郡ルーベンソンは、アールグレーン王国の北岸沿いにある街の中で、もっとも東にある町だ。バーリ公国との国境付近にあるために、バーリ公国との間で行き来する船も多い。
街の様子に目を向けるオーケビョルンに、マルクスが小さく笑いながら話しかける。
「川沿いや海沿いという場所は、必然的に人が集まるものさ。物流の拠点になるからね」
「なるほどのう……川も海も、人が行き交い、その人が立ち寄る場所になる、ということか」
友人の言葉に、確かに、と頷いたオーケビョルンだ。
川や海というものは、船が行き交う故に人が集まりやすい。船を止めたり、荷を上げ下ろししたり。そうすることで人の動きが発生し、そこに人が留まって村や町が出来る。商売が発生する。
そうして発展してきた海岸沿いの町は多いものだ。そして海岸沿いで船が止まれば、自然と町は発展していく。ルーベンソンもそうしてここまで大きくなってきたのだ。
頷いたオーケビョルンへと、マルクスが背中を叩きながら問いかける。
「そういうことさ。どうする? 寄っていくかい」
問いかけられたオーケビョルンが、小さく頭を動かして西の空を見た。太陽は既に沈みかけ、海面を赤赤と染めている。もうすぐ日が暮れるだろう。
「そうじゃの、折角だから寄っていきたい気持ちはある……じゃがのう」
「うん?」
と、途端にオーケビョルンが困った声を上げた。その視線は海岸沿い、ルーベンソンの町の港や海岸沿いの道へと向いている。
ぐるりと首を動かして、オーケビョルンがマルクスに視線を投げかけた。
「マルクスや、この町、海の方に離着陸場が見当たらんが」
「ん、ああ、そうだね」
そう、ドラゴンが着陸するための場所である離着陸場が、町の海側に見当たらないのだ。
するとマルクスが指を陸地の方に向ける。ルーベンソンの町の外れの方に、広くスペースの取られた場所がちらりと見えた。
「エクルンドみたいな大きな町なら海の方に張り出すようにして離着陸場が作られるが、一般的な町は陸地側に作られるんだ。ほら、あっちの方」
「おお、あそこか」
説明を受けてオーケビョルンも目を見開く。そちらに飛んでいけば、なるほど、離着陸場の魔法灯と管制塔が見えてきた。
「じゃあ、あっちの方に向かって降りていけばいいんじゃの?」
「そう。他の竜と事故を起こさないようにね」
オーケビョルンが視線をマルクスに向けながら言うと、こくりと頷くマルクスだ。近づいていけば確かに見えてくる、離着陸場の全容。エクルンドの離着陸場ほど大きくはないが、二面の着陸場を備えたちゃんとした離着陸場だ。
離着陸場の上空で滞空していると、地上から使い魔を経由して、魔法で増幅した声が聞こえてくる。
「ルーベンソン離着陸場へようこそ、お名前をお伺いしても?」
管制塔からの言葉の言葉を届ける使い魔に、オーケビョルンも返事を返す。このやり取りにも慣れたものだ。
「バーリ公国のオーケビョルン・ド・スヴェドボリ、それと同国、マルクス・ミヨーじゃ」
「そちらの離着陸場に降りたい。問題ないかい?」
マルクスもオーケビョルンの言葉に乗せるように、管制塔へ問いかけを投げていく。しばしの時間を置いてから、管制塔から返事が返ってきた。
「はい、どうぞお降りください。一番の着陸場が空いております」
「すまんのう」
使い魔に案内されながら、オーケビョルンはどんどんと降下していく。そして地上、ルーベンソン離着陸場の着陸場に降り立ったオーケビョルンは、さっさと人化を済ませてロビーに立ち入った。
「ふう」
「だいぶ飛んだね、疲れただろう」
ロビーに入る前に竜体の洗浄も済ませて、さっぱりしたオーケビョルンとマルクスが話し合いながらロビーでお茶を飲んでいると。
一人の獣人男性がこちらに近づいてきて頭を下げた。頭の上で丸みを帯びた、豹か虎を思わせる耳が動いている。
「ようこそいらっしゃいませ、『賢竜』様。アールグレーン王国にお越し下さり、深く感謝いたします」
「おお、出迎え感謝するのじゃ」
「あなたは?」
自分たちを目当てにして声をかけてきたことは、その言葉から明白だ。だが、当然出迎えがあるなんて聞いていない。何ならルーベンソン市に降り立とうとした事自体が気まぐれなのだ。
すると獣人の男性が、顔を上げながら二人に名刺を差し出してきた。アールグレーン王国の王室の紋章が入っている。
「アールグレーン王国、王室補佐官を務めております、ブリアック・ローランサンと申します。我が国とバーリ公国の国境を『賢竜』様が越えられたとお伺いして、出迎えのためにやってまいりました」
そう話しながら、ブリアックは再び頭を下げた。
聞くに、オーケビョルンが国境を越えたことを早速察知して、オーケビョルンと会うためにこの町で準備をしていたとのことだ。偶然というのはあるものだが、なかなかどうして、奇特なものである。
「おお……それはご苦労さまなのじゃ」
「王都クナウストからここまでは結構な距離があるでしょうに……ルーベンソンには元々出向なされていて?」
オーケビョルンが目を見開きながら言うと、マルクスもお茶のカップをテーブルに置きながら言った。
アールグレーン王国の王都クナウストは、海岸線からだいぶ南に下った川沿いにある。ルーベンソンからはかなり距離が離れていたはずだ。ドラゴンの翼でも一日はかかる。
すると、マルクスに微笑みかけながら、ブリアックが口を開いた。
「はい、お察しのとおりでございます。数日前から出向しておりましたが、まさかこのタイミングでお目にかかれるとは思っても見ませんでした」
そう話しながら、ブリアックがオーケビョルンに手を差し出してきた。
握手の姿勢だ。それの意図を汲み取れないほど、オーケビョルンも世間ずれはしていない。手を握り返しながら、ゆったりと微笑み返した。
すると隣からマルクスが、興奮した様子で声をかけてくる。
「オーケビョルン、これはチャンスだよ。王室補佐官と会えたんなら、アールグレーン王国の国王、ボー5世への謁見も不可能じゃない」
「ほう、確かにそうじゃ」
マルクスの言葉にオーケビョルンも目を見開いた。
アールグレーン王国の国王ボー5世は、芸術分野に造詣の深い人物として有名だ。アールグレーン王国が芸術分野に力を発揮し、優秀な人材を多く輩出しているのも、かの国王が積極的に支援しているから、と専らの噂である。
その国王に謁見し、直接詩を差し上げるということになれば、喜ばれないはずはない。何しろ古代竜の文筆家その人の作品だ。
オーケビョルンがブリアックの手を放したところで、マルクスが声をかける。
「ブリアック殿、僕たちは諸国をめぐり、詩歌を作る旅をしております。ボー5世に謁見が叶うのなら、謁見の際に詩を差し上げることも出来るかと思うのですが、取り計らってはいただけないでしょうか」
「そうじゃのう。王都の風景を見ながら詩を作り、国王陛下を詠んだ詩を差し上げるのも悪くない」
その言葉を聞いて、ブリアックは目を見開いた。願ってもない、という様子だ。
「ありがとうございます、すぐに日取りを調整いたしますので、それまではルーベンソンやローン郡の村々で、ゆっくりお過ごしください」
「ありがとうございます」
深く頭を下げながら話してくるブリアックへと、マルクスもオーケビョルンも再び頭を下げる。
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