大関誠は温泉大臣~俺、異世界に温泉旅館作ります!~

八百十三

文字の大きさ
16 / 32
第3章 温泉を引こう

第13話 湯船設置なう

しおりを挟む
 建物の外観が完成した翌日から、俺は旅館の内部レイアウトの設計に取り掛かった。
 こちらについてはさして時間もかかることなく、パパっと出来上がった。なにぶん、温泉旅館の外側よりも内側の方が見慣れているもので。

 L字型になった建物の1階真ん中らへん、Lの縦棒の左側から中に入る形でエントランスとロビーを取り、ロビーの右手奥側、Lの横棒の区画が男女の大浴場と、個人貸し切り型の蒸し風呂を2部屋。
 ロビー左手側にはラウンジを設けて、お土産スペースも用意。ラウンジの端にはバーカウンターも用意したいな。この世界のお酒を俺はエールくらいしか知らないけれど、ワインや日本酒、ウイスキーみたいな酒もあるんだったら提供したい。
 ラウンジの奥には食事スペースを二ヶ所。片方は宴会場として使用する算段だが、両方ともテーブル席になるだろうなぁ、この世界の感じを見ると畳、というかイグサは無いだろうし。個室もスペースを作って用意する予定だ。
 2階と3階は客室フロア。あんまり狭くして個室ばかりにしてもよくないし、それぞれ大部屋3の小部屋4かね。ここは壁の厚さも考慮して決めないと。

 と、まぁ、すらすらーっと出来上がった内部レイアウトの図面をイーナに見せると、受け取った彼女は早さと精緻さに目を丸くしていた。

「まぁ、なかなか盛りだくさんな内装ですね。どれだけ広さを確保できるかは現場次第ですが、ご期待に沿えるよう善処しましょう。
 ただ……」

 概ね好評を得たものの、イーナの表情は暗い。俺が不思議そうに首を傾げていると、イーナは図面の一か所を指さした。

「大浴場の、ここが浴槽になるのですよね?……大き過ぎはしませんでしょうか」
「そうですか?大体こんなものかと思いますけれど」

 俺が描いた図面では、大浴場の湯船の大きさは男女とも大体4.5畳程度。浴場の規模にしては少し小さすぎるかな、と思わなくもない程度だった。自分の中では。
 しかしイーナは小さく首を振って、おずおずと口を開いた。

「その……浴槽の調達は、いかがいたしましょうか」
「……あぁ」

 イーナの、至極真っ当な、それでいて見落としがちな提言に、俺はガクッと肩の力を落としつつ気の抜けた返事を返した。
 そう、浴槽。4.5畳の広さを誇る浴槽を、何かしらの形で調達しなくてはならない。
 あっちの世界ソレーアでは、ステンレスという非常に便利で丈夫で軽い素材が使えた。旅館の大浴場の浴槽も、岩風呂だったり檜風呂だったりするその内側は、ステンレス製の巨大な浴槽があり、その表面に素材を貼り付けている形だったりするわけで。
 ぶっちゃけ、数百リットルという大容量の水を溜めておける浴槽というのは、ほんの僅かな隙間からでも水が漏れ、ともすれば崩壊する危険性があるわけなのだ。
 日本も昔は木製の木桶風呂が主流だったわけだが、あれも手入れを怠るとすぐにカビるし、水が漏れるので、ホーローやステンレス、強化プラスチックの浴槽に取って代わられた経緯がある。

 ……ん?ホーロー?

「イーナさん、この国……いやこの世界、鉄や鋼鉄の大型鋳造って可能ですか?」
「え……ええ、今回の構想にある浴槽サイズの鋳造は出来ると思います。時間は相応にかかってしまいますし、重量もありますが」
「あと、ヴェノの街を見ていて思ったんですが、ガラスって結構普通に使われていますよね?」
「ガラス……?あぁなるほど、珪薄板のことですか。はい、珪石は世界各地で産出しておりますので、広く加工されて用いられております」

 この世界にも珪石……石英が存在するのか。それを聞いて俺の脳内にピコンと電球が浮かんだ。
 ヴェノの街中で見かけたガラスはなかなか透明度が高く綺麗に出来ていた。つまり、それだけ純度の高いガラスを作る技術があることになる。

「その珪石の加工方法は……?」
「炉で溶かし、不純物を取り除いてから、溶融した白珪を枠などに流し込む形……ですね」

 俺はイーナから得られた回答に、にんまりと笑みを浮かべた。巨大な鉄製品の鋳造と、ガラスの加工技術。ガラス質を溶かすことのできる高温の存在。
 つまり、ホーローが作れるということだ。
 早速思いついた構想を、イーナへと噛み砕いて説明する。最初はいまいち理解しきれていない様子だったイーナも、内容を理解するにつれて表情に希望が満ちてきた。

「珪石にそんな加工方法があったとは……!重量の問題こそ解決しきれないですが、今回は設置予定場所が1階ですし、土台となる基礎を念入りに補強すれば大丈夫そうですね」
「早速試作にかかりましょう!」

 俺とイーナは、展望が開けたことに何を言うでもなく互いに手をぐっと握り合ったのだった。



 浴槽の手配と加工を済ませつつ、間取りの確定を進めていき、内装工事が着々と進んでいった三週間後のこと。
 1階の大浴場、浴槽を据えるために開けられたスペースに巨大な魔法陣が描かれていた。
 浴場の洗い場になる場所で、俺とイーナとアリシアが、その時を今か今かと待ち構えている。

「浴槽の運搬と搬入をどうしたものかと思いましたけれど、転移の魔法で一発というのは楽でいいですね」
「重量もありますから人力での搬入は難しいだろうと、手配いたしました。ホーローは衝撃に弱いとのお話でしたので、万一の対策に緩衝の陣も敷いております」
「いよいよ大きなお風呂が設置されるんですね!楽しみですっ」

 アリシアが着々と進む搬入準備と、忙しなく動き回る魔法使いの皆さんの姿を眺めながら尻尾を揺らした。
 落ち着かないなぁと思いながらも、俺も正直楽しみで仕方がなかった。こんな大規模な、人員も手間も必要とする魔法は、どうしたってわくわくする。
 やがて魔法使いが5人、敷かれた陣の周囲に等間隔にびしっと背を伸ばして立つ。

「よし、準備はいいな?回路を開くぞ!」
「転移経路、チャンネルオープン!いつでも開けられます!」

「「トランフェルト、バージア、ルファス、オン、リューナール!彼方より此方へ呼ばれたまえ!」」

 魔法使い5人の詠唱が、寸分の狂いもなく一斉に唱えられる。五節の詠唱が終わった瞬間に、光り輝く魔法陣。
 そしてズンッ、という重量感のある音を伴って、魔法陣の中央に真新しい乳白の色をした巨大な湯船が浴場の中に現れたのである。

「「おぉぉぉ~~~!」」

 俺とアリシアが見事にハモりながら、感嘆の声を漏らした。イーナはその傍らで、無事に搬入が出来たことに安堵の息を吐いている。
 魔法使いたちはすぐさま、隣にあるもう一つの浴場へと向かって移動を始めた。そう、同じことをもう一度しないといけないのだ。
 そしてもう一つの浴槽の搬入も滞りなく行われ、かくして存分に足を伸ばせる広々とした湯船が、温泉旅館に誕生したのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
 2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。  死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。  命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。  自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...