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本編~4ヶ月目~
第66話~ディエチ風南蛮漬け~
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~新宿・歌舞伎町~
~居酒屋「陽羽南」歌舞伎町店~
「ん……?」
「んん~……?」
2018年10月初旬のある日、開店してしばらくした十八時ちょっと過ぎ。
カウンターに並んで座ったレミとマルチェッロが、二人揃って珍妙な声を上げていた。
二人の前には、いずれにも南蛮漬けが軽く盛られた小皿が三枚ずつ。二人とも水をちょっと飲んではまた南蛮漬けを食べて、難しい顔をしては首を傾げている。
悩んでいる様子の二人に、僕に背を向け、カウンターの客と向かい合うようにして立つシフェールが、苦笑しながら声をかけた。
「どうしたんですか、ヴァルモンさんもクズマーノさんも、変な声出して」
シフェールの声に二人はちら、と視線を上に持ち上げると、眉尻を下げながら手元の小皿に箸を向けた。
「いや、なんだろう、こう……」
「なんか、こっちの二皿、風味が前と違いますよねぇ……辛さに奥行きがあるというか……フレッシュなスパイシーさが……」
何やら煮え切らない様子のレミに対し、マルチェッロはしっかり言語にして『違和感』を提示してきた。彼が示したのは三つ並んだ皿の右側二つ、青と淡い緑をした小皿だ。
果たして言わんとすることを理解したシフェールが、こくりと頷きながら微笑む。
「あ、やっぱり分かりましたか、お二人とも」
「やっぱり……って」
「ユルツィガーさん、やはり何か、いつもと違うんですね?」
その「分かっていた」と言いたげな言葉に、首を傾げる両名。マルチェッロの発した言葉に笑みを向けて、シフェールが小さな丸皿をカウンターの上に置いた。
「先日から、新しいスパイスを入れてみたんです。色々と使って試してみたいから、と、マウロが削る量を変えながら、いろいろ試していて」
その皿の上に乗っているのは、先月シュマル王国に『一時帰還』した時にランドルフから土産として渡された、乾燥したペペルの実だ。
ペペルの実を入手してからというもの、僕は「陽羽南」で提供するいろんな料理に、それを挽いたものを加えてアレンジをしていた。
フライドポテトにかけてみたり、唐揚げの衣に混ぜてみたり、グスターシュを焼く時に振ってみたり。
その変化を生み出している小さなスパイスを、マルチェッロが興味深そうにのぞき込む。
「ふーむ……? 色合いは、グリーンペッパーのようですが……」
小皿に顔を近づけ、指先で摘まみ上げ。緑色をした実をしげしげと眺めるマルチェッロとレミに、シフェールが微笑みながら言葉をかけた。
「ペペルの実という、ラトゥール大陸東部地域で育つ植物の実を、乾燥させたものなんです。シュマル王国やディエチ首長国では、日常的に使われるスパイスなんですよ。
白の皿は前のレシピ、青の皿と緑の皿はペペルの実を挽いたものを、南蛮酢に量を変えて加えております」
「ほー、初めて聞くな」
シフェールの説明に、レミが感心した声を漏らす。
この前のレシピと、ペペルの実を加えたレシピの食べ比べは、いわばお通しの延長線上だ。
僕達で食べてみて、加えた方が美味しかった何品かを選定し、馴染みのお客さんにこうして出して「食べ比べてみてください」としている。
この南蛮漬けは昨日から出していて、昨日は松尾さんと津嶋さんに出してみた。二人にも好評だ。
と。
「……ん? ユルツィガーさん、その、今なんと。ラトゥール大陸?」
驚きに目を見開いた状態で、マルチェッロがシフェールに視線を投げた。
ラトゥール大陸、という単語に引っ掛かりを覚えたらしい彼に、シフェールも怪訝な表情で返事を返す。
「はい、そうですが」
「……はぁぁ~、やっぱり……」
すると、彼は唐突に頭を抱えてカウンターに突っ伏した。
突然嘆き声を上げ始めたマルチェッロの顔を、レミが慌てて覗き込む。
「おい、マルチェッロさん、どうした」
「カマンサックさんがコトナリ先生と直接やり取りをされているというお話は、彼から伺っていましたが……チェルパに『一時帰還』された話も、まさか本当だったとは……」
がっくりと項垂れたまま、マルチェッロは嘆いていた。
グウェンダルの導師たるゴフィムから直接世界転移術の指導を受け、さらには秘術で内なる穴を開けることになった、とマルチェッロに報告に行ったのがつい昨日のことで。その時にゴフィムに穴を開けてもらい、チェルパに一時的に帰還したことも、僕はちゃんと話している。
マルチェッロにはチェルパがどういう世界で、どういう国がどの大陸にあって、僕達がどの国の出身で、というところも、全部説明している。ラトゥール大陸がチェルパの大陸であることも、すぐに気が付いたようだった。
しかし、何故かマルチェッロは今になってそれが事実だと把握したようで。シフェールも不思議そうな表情を見せた。
「あれ、クズマーノさんにもそのこと、報告していたと思ったんですが」
「いえ、カマンサックさんもその件はあまり詳細に語られませんでしたし、コトナリ先生直々に世界転移術を教わる件が衝撃的すぎて、多分私が聞き漏らしただけだと思うので……お気遣いなく……」
カウンターの板面にマズルの短い顔を押し付けながら、マルチェッロの短い手がゆらゆら動いた。
当人がそう言っているなら大丈夫なんだろう、と判断したシフェールも通常業務に戻り、レミも再び南蛮漬けを食べ始めた。片方の手にはビールのジョッキ。やはり彼はビール党らしい。
「それにしても美味いな、この皿の南蛮漬け」
「気に入っていただけましたか?」
青い皿から南蛮漬けを取って口に運びながら、レミがそっと目を細める。それにシフェールが声をかければ、彼は口の中のものを飲み込んで、こくりと頷いた。
「うん、ただ辛いだけじゃなくて、鼻にスッと程よく抜ける香りが、好きだ。こっちの皿のはちょっとそれが強すぎる」
そう言って箸で指し示したのは、一番右側の緑の皿だ。こちらの皿に入れている南蛮漬けは、ちょっと多めかな、と自分でも思う程度にはペペルの実を挽いたので、レミの言わんとすることも分かる。大概、「風味が強すぎる」という評価を貰っていた。
ジョッキに口をつけてぐい、と呷れば、レミが安堵したような息を吐く。
「それに、前よりもビールに合う……気がする」
「そうですか、よかったです」
レミの漏らした言葉に、にっこりと微笑むと。
シフェールがぐいと首を後方に……すなわち、僕のいる方へと向けた。
「マウロ、ペペルの実の配分、青の皿の具合がちょうどいいそうだ。昨日も同じ意見だったし、今後はこの配分で行こう」
「そうか、分かった。注文は何品来てる?」
お客様からのレスポンスを吸い上げたシフェールの言葉に頷いて、僕は青い皿に盛った南蛮漬けのタッパーを、冷蔵庫から取り出す。昨日もこれが一番人気だったから、これから出すものはこの味付けになるだろう。
僕の言葉に、ちらとシフェールが壁にかけた伝票を見た。通常の注文としても南蛮漬けは出ている。そちらの注文にも対応しなくてはならない。
「1席、A卓、C卓にそれぞれ一つずつ」
「了解」
簡潔に告げられた注文の数に頷いて、僕は小鉢を三つ取り出した。
タッパーの蓋を開けて、小鉢にこんもりと色鮮やかな南蛮漬けを盛りつけ、形を整えたらカウンターの上にスタンバイだ。
「1席A卓C卓、南蛮漬け出まーす!」
「「了解!」」
アンバスと寅司が一緒になって声を張り上げ、それぞれの席に南蛮漬けの小鉢を運んでいく。
タッパーをしまおうと視線を手元に落としたところで、僕はその容器が、既に南蛮酢とちょっとの野菜だけを残して、ほぼ空っぽになっていることに気が付いた。
「おっと……お試しで作ったから、もうないや」
タッパーの中身をゴミ箱にあけながら、僕は呟く。味見と食べ比べのつもりで作ったから、あまりたくさんは仕込まなかったのだ。
従来のレシピにペペルの実を削り入れてもいいが、南蛮酢に入れて和えた方が、味のまとまりがいいので、悩ましい。
「追加するか? きっとまだ出るだろう」
「ああ、そうする。今のうちに作っちゃおう」
シフェールの言葉に頷きながら、僕は南蛮漬けの追加分の調理に取り掛かった。
パウチに入って冷蔵保存されているスケトウダラの切り身を取り出し、酒と塩を軽く振ってぶつ切りに。
醤油、日本酒、穀物酢、白だしを大さじ4ずつ加えて混ぜ、そこにオリーブオイルを大さじ5、砂糖を大さじ5。個人的には甘味が強い方が、ディエチ風という感じがする。
ニンジン、タマネギ、ピーマンを千切りにして電子レンジで3分加熱。その間にスケトウダラに片栗粉をまぶしていく。
揚げる準備が出来たら魚を油を熱したフライヤーに投入だ。長時間加熱せず、さっと火を通す程度の要領で。
引き上げて魚の油を切ったら、南蛮酢にペペルの実を挽き入れる。
ペッパーミルを一回、二回、三回、四回。四回挽くぐらいが、どうやらちょうどいい様子だ。
魚と野菜を加えてさっとかき混ぜたら、これでディエチ風南蛮漬けは出来上がり。あとは冷蔵庫でしばらく漬け込んでおけば、自然と味が染みていくという寸法だ。
「よし、オッケー。他、止まっているところある?」
「料理は問題ない。酒の方だな、ちょうど今しがたにたくさん入った」
料理を終えてシフェールの方を向けば、ちょうどビールサーバーの前で生ビールを注いでいるところだった。ジョッキがずらりと並んでいるところを見るに、本当にどっと注文が入ったらしい。
すぐに調理台の前を離れて手を洗う僕だ。
「了解、僕の方で注いどくよ。内訳は?」
「1席ハナアビ冷や一合、4席コクリュウ冷や一合、5席生1、B卓生1ハイボール1、C卓生3」
ビールから目を離さずに発したシフェールの言葉に、僕は一瞬面食らった。
これは確かに、たくさんだ。ビールとハイボールはシフェールに任せるにしても、一人では到底間に合わない。
僕は冷蔵庫に向かいながらホールに目を向ける。ちょうどアンバスが手が空いて厨房の傍にいた。
「了解……アンバスすまない、スタンバイ頼む」
「おう」
呼びつけたアンバスがカウンターに近寄るや、シフェールが注ぎ終わった生ビールのジョッキをその上に置く。C卓の中ジョッキ三つ分だ。
それをさっと取り上げてアンバスが運んでいく中、僕は花陽浴と黒龍の一升瓶を両手に持って、厨房の中に舞い戻るのだった。
~第67話へ~
~居酒屋「陽羽南」歌舞伎町店~
「ん……?」
「んん~……?」
2018年10月初旬のある日、開店してしばらくした十八時ちょっと過ぎ。
カウンターに並んで座ったレミとマルチェッロが、二人揃って珍妙な声を上げていた。
二人の前には、いずれにも南蛮漬けが軽く盛られた小皿が三枚ずつ。二人とも水をちょっと飲んではまた南蛮漬けを食べて、難しい顔をしては首を傾げている。
悩んでいる様子の二人に、僕に背を向け、カウンターの客と向かい合うようにして立つシフェールが、苦笑しながら声をかけた。
「どうしたんですか、ヴァルモンさんもクズマーノさんも、変な声出して」
シフェールの声に二人はちら、と視線を上に持ち上げると、眉尻を下げながら手元の小皿に箸を向けた。
「いや、なんだろう、こう……」
「なんか、こっちの二皿、風味が前と違いますよねぇ……辛さに奥行きがあるというか……フレッシュなスパイシーさが……」
何やら煮え切らない様子のレミに対し、マルチェッロはしっかり言語にして『違和感』を提示してきた。彼が示したのは三つ並んだ皿の右側二つ、青と淡い緑をした小皿だ。
果たして言わんとすることを理解したシフェールが、こくりと頷きながら微笑む。
「あ、やっぱり分かりましたか、お二人とも」
「やっぱり……って」
「ユルツィガーさん、やはり何か、いつもと違うんですね?」
その「分かっていた」と言いたげな言葉に、首を傾げる両名。マルチェッロの発した言葉に笑みを向けて、シフェールが小さな丸皿をカウンターの上に置いた。
「先日から、新しいスパイスを入れてみたんです。色々と使って試してみたいから、と、マウロが削る量を変えながら、いろいろ試していて」
その皿の上に乗っているのは、先月シュマル王国に『一時帰還』した時にランドルフから土産として渡された、乾燥したペペルの実だ。
ペペルの実を入手してからというもの、僕は「陽羽南」で提供するいろんな料理に、それを挽いたものを加えてアレンジをしていた。
フライドポテトにかけてみたり、唐揚げの衣に混ぜてみたり、グスターシュを焼く時に振ってみたり。
その変化を生み出している小さなスパイスを、マルチェッロが興味深そうにのぞき込む。
「ふーむ……? 色合いは、グリーンペッパーのようですが……」
小皿に顔を近づけ、指先で摘まみ上げ。緑色をした実をしげしげと眺めるマルチェッロとレミに、シフェールが微笑みながら言葉をかけた。
「ペペルの実という、ラトゥール大陸東部地域で育つ植物の実を、乾燥させたものなんです。シュマル王国やディエチ首長国では、日常的に使われるスパイスなんですよ。
白の皿は前のレシピ、青の皿と緑の皿はペペルの実を挽いたものを、南蛮酢に量を変えて加えております」
「ほー、初めて聞くな」
シフェールの説明に、レミが感心した声を漏らす。
この前のレシピと、ペペルの実を加えたレシピの食べ比べは、いわばお通しの延長線上だ。
僕達で食べてみて、加えた方が美味しかった何品かを選定し、馴染みのお客さんにこうして出して「食べ比べてみてください」としている。
この南蛮漬けは昨日から出していて、昨日は松尾さんと津嶋さんに出してみた。二人にも好評だ。
と。
「……ん? ユルツィガーさん、その、今なんと。ラトゥール大陸?」
驚きに目を見開いた状態で、マルチェッロがシフェールに視線を投げた。
ラトゥール大陸、という単語に引っ掛かりを覚えたらしい彼に、シフェールも怪訝な表情で返事を返す。
「はい、そうですが」
「……はぁぁ~、やっぱり……」
すると、彼は唐突に頭を抱えてカウンターに突っ伏した。
突然嘆き声を上げ始めたマルチェッロの顔を、レミが慌てて覗き込む。
「おい、マルチェッロさん、どうした」
「カマンサックさんがコトナリ先生と直接やり取りをされているというお話は、彼から伺っていましたが……チェルパに『一時帰還』された話も、まさか本当だったとは……」
がっくりと項垂れたまま、マルチェッロは嘆いていた。
グウェンダルの導師たるゴフィムから直接世界転移術の指導を受け、さらには秘術で内なる穴を開けることになった、とマルチェッロに報告に行ったのがつい昨日のことで。その時にゴフィムに穴を開けてもらい、チェルパに一時的に帰還したことも、僕はちゃんと話している。
マルチェッロにはチェルパがどういう世界で、どういう国がどの大陸にあって、僕達がどの国の出身で、というところも、全部説明している。ラトゥール大陸がチェルパの大陸であることも、すぐに気が付いたようだった。
しかし、何故かマルチェッロは今になってそれが事実だと把握したようで。シフェールも不思議そうな表情を見せた。
「あれ、クズマーノさんにもそのこと、報告していたと思ったんですが」
「いえ、カマンサックさんもその件はあまり詳細に語られませんでしたし、コトナリ先生直々に世界転移術を教わる件が衝撃的すぎて、多分私が聞き漏らしただけだと思うので……お気遣いなく……」
カウンターの板面にマズルの短い顔を押し付けながら、マルチェッロの短い手がゆらゆら動いた。
当人がそう言っているなら大丈夫なんだろう、と判断したシフェールも通常業務に戻り、レミも再び南蛮漬けを食べ始めた。片方の手にはビールのジョッキ。やはり彼はビール党らしい。
「それにしても美味いな、この皿の南蛮漬け」
「気に入っていただけましたか?」
青い皿から南蛮漬けを取って口に運びながら、レミがそっと目を細める。それにシフェールが声をかければ、彼は口の中のものを飲み込んで、こくりと頷いた。
「うん、ただ辛いだけじゃなくて、鼻にスッと程よく抜ける香りが、好きだ。こっちの皿のはちょっとそれが強すぎる」
そう言って箸で指し示したのは、一番右側の緑の皿だ。こちらの皿に入れている南蛮漬けは、ちょっと多めかな、と自分でも思う程度にはペペルの実を挽いたので、レミの言わんとすることも分かる。大概、「風味が強すぎる」という評価を貰っていた。
ジョッキに口をつけてぐい、と呷れば、レミが安堵したような息を吐く。
「それに、前よりもビールに合う……気がする」
「そうですか、よかったです」
レミの漏らした言葉に、にっこりと微笑むと。
シフェールがぐいと首を後方に……すなわち、僕のいる方へと向けた。
「マウロ、ペペルの実の配分、青の皿の具合がちょうどいいそうだ。昨日も同じ意見だったし、今後はこの配分で行こう」
「そうか、分かった。注文は何品来てる?」
お客様からのレスポンスを吸い上げたシフェールの言葉に頷いて、僕は青い皿に盛った南蛮漬けのタッパーを、冷蔵庫から取り出す。昨日もこれが一番人気だったから、これから出すものはこの味付けになるだろう。
僕の言葉に、ちらとシフェールが壁にかけた伝票を見た。通常の注文としても南蛮漬けは出ている。そちらの注文にも対応しなくてはならない。
「1席、A卓、C卓にそれぞれ一つずつ」
「了解」
簡潔に告げられた注文の数に頷いて、僕は小鉢を三つ取り出した。
タッパーの蓋を開けて、小鉢にこんもりと色鮮やかな南蛮漬けを盛りつけ、形を整えたらカウンターの上にスタンバイだ。
「1席A卓C卓、南蛮漬け出まーす!」
「「了解!」」
アンバスと寅司が一緒になって声を張り上げ、それぞれの席に南蛮漬けの小鉢を運んでいく。
タッパーをしまおうと視線を手元に落としたところで、僕はその容器が、既に南蛮酢とちょっとの野菜だけを残して、ほぼ空っぽになっていることに気が付いた。
「おっと……お試しで作ったから、もうないや」
タッパーの中身をゴミ箱にあけながら、僕は呟く。味見と食べ比べのつもりで作ったから、あまりたくさんは仕込まなかったのだ。
従来のレシピにペペルの実を削り入れてもいいが、南蛮酢に入れて和えた方が、味のまとまりがいいので、悩ましい。
「追加するか? きっとまだ出るだろう」
「ああ、そうする。今のうちに作っちゃおう」
シフェールの言葉に頷きながら、僕は南蛮漬けの追加分の調理に取り掛かった。
パウチに入って冷蔵保存されているスケトウダラの切り身を取り出し、酒と塩を軽く振ってぶつ切りに。
醤油、日本酒、穀物酢、白だしを大さじ4ずつ加えて混ぜ、そこにオリーブオイルを大さじ5、砂糖を大さじ5。個人的には甘味が強い方が、ディエチ風という感じがする。
ニンジン、タマネギ、ピーマンを千切りにして電子レンジで3分加熱。その間にスケトウダラに片栗粉をまぶしていく。
揚げる準備が出来たら魚を油を熱したフライヤーに投入だ。長時間加熱せず、さっと火を通す程度の要領で。
引き上げて魚の油を切ったら、南蛮酢にペペルの実を挽き入れる。
ペッパーミルを一回、二回、三回、四回。四回挽くぐらいが、どうやらちょうどいい様子だ。
魚と野菜を加えてさっとかき混ぜたら、これでディエチ風南蛮漬けは出来上がり。あとは冷蔵庫でしばらく漬け込んでおけば、自然と味が染みていくという寸法だ。
「よし、オッケー。他、止まっているところある?」
「料理は問題ない。酒の方だな、ちょうど今しがたにたくさん入った」
料理を終えてシフェールの方を向けば、ちょうどビールサーバーの前で生ビールを注いでいるところだった。ジョッキがずらりと並んでいるところを見るに、本当にどっと注文が入ったらしい。
すぐに調理台の前を離れて手を洗う僕だ。
「了解、僕の方で注いどくよ。内訳は?」
「1席ハナアビ冷や一合、4席コクリュウ冷や一合、5席生1、B卓生1ハイボール1、C卓生3」
ビールから目を離さずに発したシフェールの言葉に、僕は一瞬面食らった。
これは確かに、たくさんだ。ビールとハイボールはシフェールに任せるにしても、一人では到底間に合わない。
僕は冷蔵庫に向かいながらホールに目を向ける。ちょうどアンバスが手が空いて厨房の傍にいた。
「了解……アンバスすまない、スタンバイ頼む」
「おう」
呼びつけたアンバスがカウンターに近寄るや、シフェールが注ぎ終わった生ビールのジョッキをその上に置く。C卓の中ジョッキ三つ分だ。
それをさっと取り上げてアンバスが運んでいく中、僕は花陽浴と黒龍の一升瓶を両手に持って、厨房の中に舞い戻るのだった。
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