魔狼王(着ぐるみ)が往く!~勇者パーティーから暑苦しいと追放された着ぐるみ士の俺、世界最強のステータスに目覚めたので神獣と一緒に見返します~

八百十三

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第1章 追放と覚醒

第6話 着ぐるみ士、説明を受ける

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 冒険者ギルドのカウンター奥は、スタッフの執務室の他、来客との応接室も用意されている。
 俺はその応接室に――正確には、支部長ギルドマスターであるアルナルドの執務室に通され、革張りのソファに腰を下ろしていた。
 ソファに腰を下ろすには、大きな着ぐるみはさすがに邪魔になる。換装のスキルで収納にしまい、今の俺は人間の姿を支部長に晒していた。
 緊張の面持ちを露わにする俺に、彼は深々と頭を下げる。

「この度の強制解雇については、心中お察しします……と申し上げるのが筋ですが、先程の能力鑑定について、二、三点、伺いたいことがありまして」
「分かってます。『これ』についてですよね?」

 アルナルドの言葉にうなずきながら、俺はフェンリルの着ぐるみの頭だけを換装し、かぶってみせた。
 白みがかった灰色の毛並みに、青く輝く瞳を模した透玉石ガラス玉、大きな三角形の耳。パーツの一つ一つは狼と大差が無いが、並の狼では持ちえない威厳。
 フェンリルの頭部だけをかぶった俺に、アルナルドが大きくうなずく。

「はい。その着ぐるみは、どういった経緯でお持ちになりましたか?」

 彼の言葉に、俺は再度、今夜に我が身に降りかかった一連の事件・・を説明した。
 突然の解雇通告。リーアとの遭遇。着ぐるみの作成。そして意気投合。
 事のあらましを説明すると、彼は腕を組みながら息を吐いた。

「ああ……なるほど。リーアさんが人化して冒険者登録したのも、それが理由で」
「俺に力を七割渡して、残り三割の力で俺の力になろうと言ってくれたんです。俺に調教士テイマーの資格はないから、従魔じゅうまじゃなくて冒険者として、ついてきてもらおうと思ったんですけど……」

 着ぐるみの頭を戻して話しながら、俺の声はどんどん尻すぼみになっていった。
 正直、リーアがここまでオルニの町の人に受け入れられていなければ、リーアの人化転身が安定したものでなければ、俺の目論見は水泡に帰していただろう。魔物が冒険者としてギルドに登録された、という事例は過去にもあるが、そのほとんどが人間社会に馴染んでいたり、魔物でありながら魔物に敵対したりするが故の特殊事例イレギュラーだ。
 それに、俺がフェンリルの着ぐるみを身につけて自分のステータスを確認した時、そこまでする必要が無かったことを理解したのもある。もっとも、リーアに力を貸してもらわなければそのスキル・・・・・を持てなかったので、結果論だが。

「はい、先日までのジュリオさんのステータスなら、リーアさんに従魔になっていただくことは出来ませんでした。しかし今なら・・・、ジュリオさんに調教士テイマー講習を受けていただければ、リーアさんを従魔として扱うことも可能です……不要とは思いますが」

 アルナルドもその理由は分かっているようで、あごひげを触りながら鼻を鳴らした。
 調教士テイマーの資格を得るには、「調教」のスキルを保有した上で、冒険者ギルドが実施する講習を受講する必要がある。逆に言えば「調教」のスキルを持ち、講習を受けていれば、調教士テイマーとして活動することは出来るのだ。
 俺は先日まで「調教」のスキルが無かったが、フェンリルの着ぐるみによって「調教」スキルを手に入れた。文句なしというやつだ。

「講習を受けていただければ、着ぐるみ士キグルミストとの二重職業ダブルクラスも可能です。
 ジュリオさんは『調教(魔獣)』と『調教(神獣)』どちらもレベル5でお持ちなので、従魔契約じゅうまけいやくを結べば魔物の能力を、十二分に発揮させて使役することが出来る才能をお持ちですね」
「そんなにですか……」

 アルナルドの言葉に、俺の声色は沈んでいた。
 嬉しくないわけではない。高レベルのスキルを保有すれば、それだけ出来ることの幅も広がる。神獣と契約できれば、俺のパーティーはますます強くなるだろう。
 だが、いろいろすっ飛ばして最高ランクのレベル5というのは、どうにも収まりが悪い。ステータスのぶっ飛び具合を考えると、何をいまさらという感じだが。
 げっそりとした俺に追い打ちをかけるように、アルナルドはうなずいて口を開いた。

「そんなにです。しかもそれに加えて『魔狼王の威厳』をお持ちなので、魔獣種と神獣種の魔物に対して強烈な支配力ドミナンスが発生します。これは魔狼王フェンリルの固有スキルで、他の魔物では持ちえないものです。
 自らお声をかけるどころか、逆に魔物の側から『従魔契約を結んでください』と持ち掛けられるでしょう。資格取得して早々に、調教士テイマーとしても最高峰です」
「うわ……」

 彼の言葉に、俺は自分で引いていた。「魔狼王の威厳」がそんな効果のスキルだったとは。
 てっきり、魔獣相手に恐怖フィアーを与えて支配下に置く程度のスキルだと思っていたが、とんでもない。あらゆる獣を使役、支配する能力だ。おまけに獣たちが支配を願ってすり寄ってくるおまけ付き。
 いいんだろうか、俺は勇者でも何でもない、一介の冒険者なのに。

「我ながら恐ろしくなってきたんですけど」
「とてもその通りだと思います。ですがそれ以上に恐ろしいスキルが、二つございます……いえあの、『精霊親和』と『神霊親和』が恐ろしくないはずもないのですが、それ以上にものすごいものがですね」

 真顔で支部長を見れば、支部長も真顔で俺を見つめ返す。
 そうして彼は俺にも見えるように表示した俺のステータスの、スキル欄の一点を指さした。

「これです。『魔狼転身』、そして『魔王の血脈(獣)』。当ギルドに過去所属した全ての冒険者に、このスキルを保有されていた方はいません……リーアさんの一家は例外ですが」
「まあそうですよね、この着ぐるみ、リーアから作りましたし」
「そうなんです。そのスキルをしっかりきっかり引き継いでいらっしゃる。なんて恐ろしい」

 話しながら、アルナルドが小さく身震いした。俺はどうやら、とんでもないものを作り出してしまったらしい……が、後の祭りだ。
 そうして、スキルの解説画面を開きながらアルナルドが話し始める。

「『魔狼転身』はフェンリルとしての能力を最大限に発揮する、魔狼形態まろうけいたいに変身するスキルです。肉体も戦闘能力もフェンリルそのものに変わります。発動したらビアジーニさんは、その一時は確実に人間ではなくなるでしょう」
「……デメリットはあるんです、よね?」

 そのスキルの効果に目を見開きながら、俺は問いかけた。
 肉体変化と戦闘力の大幅なブースト。デメリットが無いはずもない。しかして、彼は神妙な面持ちでうなずいた。

「私も伝え聞いたことがあるくらいですが……発動中は、強烈な飢えに襲われるとか。空腹な獣と化すわけです。目に付く敵の一切を、容赦の一片もなく食らいむさぼると。あとは、ええと」

 説明をしながらも、アルナルドの手元では忙しなくスキル解説の画面が動いている。
 冒険者ギルドの記録庫データベースには、数多の冒険者や魔物の情報、保有スキルの情報、戦闘記録などが保存されている。「魔狼転身」も人間の保有者がいないだけで、魔物での保有者は過去にいた。故に参照できるのだ。
 だが、しばらく検索しても目当ての情報は見つからなかったようで。画面を閉じながらアルナルドが頭を下げた。

「人間がこのスキルを保有した記録がないので、何とも言えませんが、きっと他にもあると思います、すみません」
「いえ、大丈夫です……『魔王の血脈(獣)』の方は?」

 小さく首を振りながら、俺はもう一つのスキルの方に目を向けた。
 「魔王の血脈」。カッコ書きの中のものはともかくとして、どう考えても魔物由来の、というより魔王由来の・・・・・スキルだ。
 複雑な表情をする俺に、アルナルドが真剣な目を向けてくる。

「その名の通り、歴代魔王の血に連なる者であり、魔王の力を継ぐものであることを示すスキルです。
 ビアジーニさんの場合は神魔王ギュードリンの力を継いでいますので、ATK攻撃力AGI素早さのブースト、風魔法のMP消費軽減のボーナスが付与されます。また、『魔狼王の威厳』の支配力ドミナンスを底上げする効果と、魔族への支配力ドミナンスを発生させる効果もあります」
「はー……」

 その説明に、俺はため息を吐く他なかった。ソファの背もたれに身を預け、力なく執務室の天井を見上げる。
 人外のステータス。魔獣種と神獣種を配下に置く力。魔王の血。フェンリルへの変身能力。
 これを、俺はほぼ何の苦労もせずに、ほいと手に入れてしまったわけだ。

「リーアが、この着ぐるみを着ていたら世界最強、とか言ってましたけれど……」
「まさしく、世界最強です。名だたる勇者はおろか、今代の魔王、獄王イデオンすらも凌駕するでしょう」

 身を起こし、すがるようにアルナルドを見つめる俺だ。言外に、「持ち上げすぎだ」と言ってほしい気持ちを込めて。
 しかしアルナルドが返してきたのは全力での同意だった。それどころか、魔王も凌駕する、というお墨付きまで付いてきた。

「マジか……」

 俺はその場に崩れ落ちそうなくらいに、がっくりとうなだれた。
 こんな強大な力、俺に使いこなせるのだろうか。今からとても、不安で仕方がなかった。
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