魔狼王(着ぐるみ)が往く!~勇者パーティーから暑苦しいと追放された着ぐるみ士の俺、世界最強のステータスに目覚めたので神獣と一緒に見返します~

八百十三

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第2章 冒険と昇進

第22話 着ぐるみ士、魔狼になる

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 ひらりと地面に着地して再び距離を取る俺に、光が収まり視界を取り戻したアンブロースが小さく頭を振った。

「なるほど……そう来たか」
「ふっ……今のは効いただろう」

 少し誇らしげに、右腕を持ち上げてみせる。すると彼は、憎らしそうに俺を睨んで舌を打った。

「実に人間らしいやり方だ。使える手は何でも使う。忌々しいことだ」

 忌々しい。そう言葉にしながらも、彼の瞳には闘志と高揚が見て取れる。いよいよ、本気で俺を叩き潰そうとしているらしい。

「だが、それでこそ本気を見せて相対するに相応しい! 大方、どれかしらの属性は第十位階までも扱えるようになっているのだろう、ぶつけてみろ!」

 口元に笑みを見せながら、俺を誘うように前脚をくいと動かすアンブロースだ。
 第十位階。それぞれの魔法において最上級、最大級の威力と衝撃、破壊力を誇るもの。魔法の究極系。その威力は正しく神罰だと言われている。
 さも当然のように話す彼に、しかし俺は大きく首を振った。

「……悪いな、第十位階は使えない・・・・
「何だと……?」

 俺の返答に、アンブロースは信じられないと言いたげな表情をする。
 神獣が、第十位階の魔法を使えない、などということは、本来ならあり得ないことだ。生まれたての子供や育ちきっていない若者でない限りは、最低でも一種の属性についてランク10に達しているのが神獣だ。
 実際、俺も炎、風、大地、光の四属性においてランク10に達している。だから使えるはずなのだが、そうではなかったのだ。
 俺は戦闘の最中だというのに、自分の着ぐるみの右手を見つめながら、独白するように口を開いた。

「フェンリルになってから、自分の力の使い方はこの数日いろいろ試して分かっている。魔法のランクは10まで上がったから、該当する魔法も覚えられた、全部な。だけど、第十位階の魔法は詠唱をどれだけ絞っても発動させられなかった・・・・・・・・・・

 俺の発言に、戦闘していたことを忘れたかのように立ち尽くし口を開くアンブロース。その表情からも、俺がどれだけ非常識なことを言っているかが分かるだろう。

「何をバカな」

 フェンリルなのに、第十位階の魔法が使えない俺。
 彼の発言も尤もだ。こんなことはフェンリルなら普通ならあり得ない。
 しかし、そこだ。俺は今・・・フェンリルか・・・・・・

「そう思うだろ? 今、理由が分かった……」

 開いていた右手を自分の胸に当てる。全身に力を籠める。
 そして俺は、声の限り叫んだ。

「こういうことだ!! 魔狼転身まろうてんしん!!」

 次の瞬間だ。
 俺の全身が、着ぐるみが、内部から爆発するように膨れ上がって弾けた。筋肉が、骨が悲鳴を上げながら作り変わる・・・・・
 そして、俺は四本の脚で・・・・・ほとんど荒野と化した森の土を踏んだ。息を吸い込み、口を大きく開いて声を出す。

「ウォォォォォーーーッ!!」

 そう、フェンリルでないなら、フェンリルになればいいのだ・・・・・・・
 魔狼転身。フェンリルとしての能力を最大限に発揮する、魔狼形態に変身するスキル。とうとう、発動する時がやってきたのだ。
 第九位階の魔法までなら、人間のままでも――発揮できる能力を・・・・・・・・制限したままでも・・・・・・・・使えた。第十位階はそうではなかった、というだけの話だ。
 自分とさほど変わらない、否、自分よりも僅かだが大柄な魔狼に変わった俺を見て、アンブロースは高らかに笑った。

「ハ……ハハハハ! なるほど、理解した! ヒトの器を捨て・・・・・・・魔狼王としての力を・・・・・・・・・解放せねばならない・・・・・・・・・と!! 道理だ!!」

 完全に人間を捨てた俺に、喜びを露わにして呼びかけるアンブロース。
 だが俺は、その言葉に応える余裕が全く無かった。
 濃い血の匂いと、肉の焼ける強い匂いが脳裏を焼く。目の前にいるアンブロースから目を離してはいけないのに、どうしてもその匂いを意識してしまう。
 ギルド支部長の説明にあった、「魔狼転身を使用した際の強烈な飢え・・・・・」というのが、きっとこれなのだろう。肉が欲しい、生き血をすすりたい、その欲求が頭から離れない。
 改めて、視線を前に向ける。目の前にいるアンブロースからも、血の匂いがプンプンしていた。
 自然と口角が持ち上がった。その歓喜のままに吼える。

「行くぞ、アンブロース!!」
「応とも!!」

 俺の吼え声にアンブロースも吼えた。俺と向こうの間で、急速に膨れ上がっていく互いの魔力。
 今からここは、間違いなく草一本も生えない荒れ野になるだろう。そのことに少しだけ申し訳なさを感じながら、詠唱を紡いでいく。

れは形無き暴威ぼうい、姿なき巨人! 弓引く狩人は嘆くだろう、海往く旅人はおののくだろう! 万象一切ばんしょういっさいぐその名を称えてひれ伏せ!」
静寂しじまたずさえて来たれ、雷光の公主こうしゅ! 刹那せつな永遠とわに、悠久を瞬刻しゅんこくに! 万象一切ばんしょういっさいをつんざくその名を称えてひれ伏せ!」

 詠唱の一字一句を獣の口で叫ぶごとに、鋭く尖った歯がびりびりと震えた。アンブロースの魔力のせいだろう。
 俺と彼と、詠唱を唱え終わって魔法名を叫ぶのは、全くの同時だった。

風帝の行軍ヒュージハリケーン!!」
雷帝の鉄槌マキシマムカレント!!」

 風の魔力と光の魔力が、同時に膨らみ、爆発した。
 俺の眼前から巻き起こって前進する巨大な竜巻と、アンブロースの眼前から放たれる雷光の太い光線が、真正面からぶつかる。その衝撃と散った魔力で、周辺の木々が軒並み倒れ、焼かれていった。
 ここからは一瞬の隙も見せられない、魔力同士のぶつかり合いだ。MP魔法力を放ち続け、先に出力が僅かにでも弱まった方が、一気に押し切られて負ける。
 俺はありったけの力を籠めて、MPを魔法に注ぎ込んだ。「魔王の血族(獣)」のおかげで削られる量はいくらか少ないが、それでも三万弱ある俺のMPが、みるみるうちに減少していく。

「ぐぐぐ……!!」
「ぬぅぅっ……!!」

 しかしそれはアンブロースも同じはずだ。彼もまさに、自分の全身全霊を籠めて魔法に力を注いでいる。
 魔法は、いずれもぶつかり合った位置から少しも動いていなかった。文字通り、完全に五分五分の状態だ。
 地面を掴む俺の前脚に力が籠もる。既に爪によって地面は深くえぐられていた。その土を踏む爪に、俺はさらに力を入れた。

「っぅううう……!!」
「ぬぅっ……!?」

 歯を食いしばって唸りながら、さらに大量のMPを叩き込むと。
 ほんの僅かだが、俺の魔法がアンブロースの魔法を押し込んだ感触・・があった。それと同時に彼の狼狽した声が、耳に届く。
 チャンスだ。ここで勝負を決める!
 俺はあらん限りの力で吼えた。

「ぐ……うぉぉぉぉぉっ!!!」
「が――!!!」

 その裂帛れっぱくの気合と共に、俺の竜巻がアンブロースの雷光を飲み込んだ。
 障害のなくなった竜巻がアンブロースの身体を飲み込み、その身体を上空高くまで舞い上げていく。
 そのまま竜巻は通り過ぎ、進路上の木をなぎ倒しながら消えていった。舞い上げるものが無くなったアンブロースの身体が、上昇から下降に転じる。
 俺は疲弊した肉体に鞭打ちながら駆けた。急速に落下するアンブロースの身体の真下に、自分の身体をねじ込む。

「ぐえっ……!」

 落下した場所はちょうど俺の背中だった。
 背中の上でワンバウンドした彼が、どさりと地面の上に転がった。身体は風の刃に切り裂かれて血まみれだが、息はある。
 俺はそっと、彼の身体の血を舐めた。予想通り、味が濃く、ほのかに甘い。

「……俺の、勝ちだ、『雷獣王』」

 口の周りに付いた血をぺろりと舐め取りながら、俺は倒れ伏す神獣に、同じ神獣として勝利を宣言した。
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