魔狼王(着ぐるみ)が往く!~勇者パーティーから暑苦しいと追放された着ぐるみ士の俺、世界最強のステータスに目覚めたので神獣と一緒に見返します~

八百十三

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第2章 冒険と昇進

幕間2 一方その頃勇者は

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 ところ変わってグラツィアーノ帝国、国立冒険者ギルド 北ニェッキ郡支部の受付カウンター。
 依頼を受けるべくカウンターに向かったナタリア達「白き天剣ビアンカスパーダ」は、Sランクパーティーとしての働きが出来る依頼を物色していたのだが。

「えーっ、ウソでしょ!?」

 興味を惹かれる依頼のシートを受付カウンターに持って行ったナタリアは、悲痛な声を上げた。
 その依頼とは、すなわち「ヤコビニ王国の雷の森で、サンダービーストが機嫌を損ねて暴れている」というもの。先刻、ジュリオたちが関わって『雷獣王』と大立ち回りを繰り広げたが、そんなことをナタリアは知る由もない。
 彼女が依頼受注を断られている理由は、別のところにあった。カウンターの受付嬢が平身低頭している。

「申し訳ありません……こればかりは例え『勇者様』が相手でも、どうにもなりませんので……」

 受付嬢がナタリアに提示したのは、彼女が持っているシートと全く同じ内容のもの。しかしこちらには受注者のサインが入っている。
 そのサインの主は、「獅剣の勇者」ルドヴィカ・ディ・ヴァイオ。
 「白き天剣ビアンカスパーダ」が依頼を受注できなかったのは、これが原因だ。一般パーティーなら問題はないのだが、勇者・・は別だ。
 思わぬ形で肩透かしを食らったナタリアが、不満を露わにして頬を膨らませる。

「信じらんない、ピスコボ森林なんてついこないだ行った場所じゃない! なんでそこを離れた時に限って大暴れするのよ、神獣ってば!」
「ま、まぁまぁナタリアさん、サンダービーストは人間の都合なんて気にしてくれるような魔物じゃありませんから……」

 そんなナタリアをなんとかなだめようとするマリサも、これには苦笑を禁じ得ない。どころか、イバン、レディシア、ベニアミンの三人も落胆顔らくたんがおでため息をついていた。

「こればかりは、運が悪かったとしか言いようがないな」
「『勇者協定ゆうしゃきょうてい』は、何があろうとくつがえせませんからね」
「仕方ありません、別の依頼で規模の大きなものを探しましょう」

 そう言いながら、三人はそそくさと再び依頼の張りだされる掲示板に向かっていった。
 「勇者協定」とは、世界中の冒険者の中でも、特に各国が認定した勇者が守るべき規範きはんとも言うべきものだ。
 勇者たるものこの様にあれ、というような心構えを説いたり、他国の勇者とのやり取りの際の決まり事を定めたりするものだが、その中の一つに「他国の勇者と仕事をうばい合うなかれ」というものがある。
 つまり、同一の依頼を他の勇者と一緒に受注することを禁じるものだ。
 今回はルドヴィカが雷の森での依頼を、ナタリアより先に受注したから発生したケースだ。とはいえいくらか前に訪れた場所、なんともタイミングが悪い。

「うー、仕方ない……けど腹立つー、なんかルドヴィカに手柄をかすめ取られたみたいで」

 ぶーたれながら仲間の後について再び依頼を物色し始めるナタリアに、イバンが後方を振り返りながら静かに告げた。

「そういうことは言うもんじゃないぞ、ナタリア。何のために『勇者協定』が定められていると思っているんだ」

 彼の厳しい言葉に、ぐ、と言葉に詰まるナタリア。彼から視線を逸らすようにしながら、憮然ぶぜんと答えた。

「分かってるわよ……『勇者が同じ現場に居合わせたら、手柄の取り合いになって不毛なことこの上ない』からでしょ」
「そうだ。神獣はお前の都合よく、暴れたりへそを曲げたりしてくれない。今回のことは、全て運が悪かっただけだ。さっさと忘れて次の仕事に行くぞ」

 つっけんどんに言いながら、イバンは再び前を向いた。
 他の面々や勇者からそんな対応をされれば、即座に怒りをあらわにして食って掛かるナタリアだが、イバンは例外だ。この年長で頼りがいのある戦士の諫言かんげんだけは、この勇者は大人しく聞くのだ。

「分かってるわよ……」

 ふくれっ面になりながらも、ナタリアは大人しく従った。
 そんな彼女の後姿を、マリサはうっすらと目を細めて見つめている。そのまましばらく、ナタリアや仲間たちの様子を観察するように視線を送ると、彼女も依頼選びの輪に加わった。

「あ、ナタリアさん、これとかどうですか? 『ソダーノ鉱山の廃坑道に住み着いた地竜アースドラゴンの退治』ですって」
「えー、パス。鉱山なんて暗くて狭くて戦いにくいじゃないのよ」
「じゃあこれなどいかがでしょう。『フォルミケッティ水源地の水馬ケルピーの鎮圧』だそうですが」
「ケルピーなんて小物、Aランク以下のパーティーに任せればいいじゃない、私たちの相手にはならないわよ」

 既にレティシアやベニアミンがシートを手にとってはナタリアに見せているが、いい反応はもらえていない。それも随分とわがままな理由で却下を下している。
 いくら「勇者」であり、依頼選択において優先権があるとはいえ、これはあんまりだ。マリサが困った表情をしながら、静かにやり取りを見つめるイバンに声をかける。

「イバンさん、ナタリアさん、いつもこんな調子なのですか?」
「いつもの光景だよ……これだから連れ出す依頼選びには、いつも苦労するんだ」

 そう返す彼は、呆れ顔で頭を振った。いつもいつもこれでは、確かに苦労するというもの。それまではジュリオもいたわけだが、もうイバンが頑張るしかない。
 と、掲示板をさまよっていたナタリアの視線が、ある一点で止まった。そこに掲示されていたシートを手に取って、内容に目を通してから仲間に振り返る。

「あ、ねえねえこれなんてどうよ?」
「ん……?」
「『ジェミト森林の魔力値急上昇の調査』……ですか?」

 イバンとレティシアが、そのシートを覗き込んで目を見張った。
 自然と残りの二人の表情も変わる。調査依頼など、普段のナタリアなら一笑に付すだろうに、珍しいこともあるものだ。
 顎に手をやりながら、ベニアミンが口角を下げる。

「ジェミト森林……ヤコビニ王国との国境に広がる森ですね」
「ナタリアさん、もしかしてまだ、ピスコボ森林の案件、諦めていなかったりします?」

 不安そうに声をかけるのはレティシアだ。
 ナタリアは、一度こうだと決めたら意地でも動かない人間だ。ジェミト森林はピスコボ森林にも近い。『雷獣王』をどうにかする依頼には参加できなくても、何とかしてそこに乗り込もうとする危険性は、十分にある。
 しかしそんな不安をよそに、ナタリアはからりと笑って手を振った。

「諦めたから心配しないで。でも、近くまで行けば、あっちの案件についても何か分かるかもしれないじゃない?」

 彼女の言葉に、一同は言葉に詰まる。
 確かに、案件としては別のものだ。依頼を受注するのに何の支障もない。ただ、現場が偶然にも・・・・近いだけなのだ。
 最後の一押しとばかりに、ナタリアがにやりと笑う。

「それに、魔力値急上昇なんて、事件の匂いがするじゃない。気にならない?」
「まあ、案件としては別のものですし、気になることもその通りですが……」

 言葉を濁すようにしながら、ベニアミンは視線を逸らした。レティシアも何も言わない。
 二人の同意を得られたと判断したナタリアが、後方で見守っていた二人に視線を向ける。

「イバン、マリサ、どう?」
「まあ、お前が行きたいと思ったなら、止める理由はないさ」
「私も同意ですわ。行きましょう」

 イバンが肩をすくめると同時に、マリサが小さく頷いて。
 その反応を受け、ナタリアが小さくび上がった。

「決まり! 受注処理してくるわ」

 そのまま依頼受付カウンターへと小走りで駆けていくナタリア。
 彼女の背中を見ながら、四人は静かに押し黙ったままだ。

「ジェミト森林か……何事もないといいんだがな……」

 何か、トラブルが起きそうな気がする。
 イバンの心中は複雑だった。
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