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第4章 魔王と英雄
第51話 着ぐるみ士、試合をする
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再び場所を学舎の裏手、運動場に移して、俺はギュードリンと相対していた。既に結界は構築済みで、結界の内側には俺と彼女の二人だけ。
ぐいぐいと身体を伸ばして準備運動するギュードリンに、俺は恐る恐る声をかけた。
「ほ、本当にいいんですか?」
結界の中に閉じ込められながら何を今更という感じだが、正直不安は拭えない。同じX級とはいえ、アルヴァロと俺とでは天と地ほどの差があるのだ。ギュードリンだって、手加減をどれほどしてくれるか。
そのアルヴァロが結界の外から、不満をあらわにしつつ声をかけてくる。
「そうじゃぞギュードリン、貴様とジュリオが試合をするなど、この学舎どころか村全体が滅びてしまうわ」
そう、彼は何も俺の力を侮って言うのではない。結界は張ってあるとはいえ、俺とギュードリンが力をぶつけ合ったらそれで防げるか分からない。そこはアルヴァロだけではない、俺やアンブロースも危惧するところだった。
だが、何でもないことのようにギュードリンは返す。
「心配いらないさ、また『界』を作って、その中で戦うから。あ、ジュリオ君は魔狼転身使う? 何なら『界』に魔狼化のデバフ解除つけるけど」
「えっ、そんな事もできるんですか!?」
彼女がこちらに視線を向けながら提案してきた内容に、俺は思い切り目を剥いた。
あのデメリットの数々はデバフ扱いだったのか。どうあっても防げないものと思って、ギュードリン相手じゃ使わないわけにはいかないし、しかし魔狼から戻れなくなり、人間語を喋れなくなるのはつらいし、と悶々としていたというのに。
規格外なその力に俺が言葉を失っていると、両手をこねくり回し始めたギュードリンが笑う。『界』を作るのは先程やったように一瞬で行うのかと思っていたが、こうして予備動作を必要とすることもあるらしい。
「私も魔狼の系統だし、魔狼転身のスキルをしっかり理解しているから出来ることだけれどね。どうする?」
一度手を止めた彼女の重ねての問いかけに、俺はゴクリとつばを飲んだ。
魅力的だ。魅力的すぎる。あの強大な、俺の本気の力を、デメリットなしに振るえるなんて。
あまりにも虫のいい話に戸惑いつつも、首を縦に振る俺だ。
「お……お願いできますか。あのデバフ、地味に不便で……」
「いいよ。私は……まぁいいか、封身解くの面倒だし」
そう言って再び手を動かし始める彼女に、俺はもう一度目を見開いた。
この元魔王は、自分が圧倒的優位に立つことも出来るというのに、敢えて俺と互角とも言える立場で戦おうというのだ。
まあ、ステータス上はほぼ互角と言っても、スキルの幅も戦闘経験もあちらの方が数倍上だから、正しい意味で互角ではないかと思うところだけど。
「え、おばあちゃん、封身解かないの?」
「何ということだ……ステータス上は互角の戦いとなるぞ」
「チィ……」
後方からリーアとアンブロース、ティルザの声が聞こえる。彼女らもギュードリンの選択に驚いているようだ。
彼女たちに顔を向けながら、ギュードリンが笑う。
「いいじゃないか。たまには自分と実力が伯仲するやつとの戦いもいいもんだ。さて……こんなもんかね」
そう話して、ギュードリンが動かし続けていた手を止めた。その手の間には、淡い土色をした光の球が明滅するように浮かんでいる。
「ジュリオ君、もっとこっちおいで。『界』の外周に結界を張るから、なるべく皆から離れていたほうがいい」
「は、はい……」
光の球を手の上に浮かべたギュードリンが、空いた手で俺に手招きする。言われるがままに距離を詰めるが、彼女はまだ手を動かしている。
その後も俺は歩み寄り続け、最終的にギュードリンと互いの胸が接してしまうくらいに近付く羽目になった。後ろでリーアがキャーキャー言っている。
「あの、いいんですか、こんなに近いと」
目の前にギュードリンのビックリするくらい整った顔があり、形のいい胸があるのにドギマギしながら問いかけると、彼女は困ったように笑った。
「『空間断絶』と『階層転換』の術を組み込んでいる。私たち二人は皆のいる場所とは別の階層の、広い空間にいる形にするんだ。ま、結界の外から私たちの戦う様子は見えるようにしてあるけどね」
「はぁぁ……」
あっさりとした様子で話す彼女に、俺は深くため息をついた。何というか、ここまで色んなことをやってのけるのを見ると、レベルが違いすぎて笑えてくる。
そうこうするうちに、ギュードリンが顎をしゃくった。
「じゃ、行くよ」
彼女が右手に浮かべた光の球を、上空に投げる。次の瞬間、俺を取り巻く風景ががらりと変わった。
山の裾野だ。ギュードリンの後ろには高い山がそびえ、地面は荒れ土がむき出しになっている。明らかに、ブラマーニ王国の中で見られる風景ではない。
「わっ!?」
「今回はゴルジ山の麓の辺りを再現してみた。この方が雰囲気出るだろ?」
そう言いながらギュードリンは笑う。気付けば彼女は既に、俺から数歩離れたところに立っていた。『界』の展開と共に立ち位置を変えたのか、気付かないうちに距離を取っていたのか、どちらかは分からない。後者でないことを願うしかない。
そして、神魔王ギュードリンがうっすらと笑う。
「さ、もう大丈夫。本気でおいで」
「……っ!?」
その笑みが見えた瞬間だ。とてつもない圧力が俺の全身を襲った。
すぐに魔狼転身を発動、フェンリルそのものになって光を発しながら飛び退く。四本の足で地面を踏みしめながら冷や汗をかく俺を見て、ギュードリンが大きく目を見開いた。
「へえ? いい反応をするじゃないか。この間までA級だったにしてはなかなかだ」
「ご冗談を……今の気当たりだけで吹き飛ばされるかと思いました」
狼の長いマズルで言葉を発しながら、俺は小さく首を振った。正直、今もまだ毛皮の下の肌がひりついている。
ギュードリンは何もしていない。魔法も、スキルも使っていない。ただ本気になっただけだ。その際の威圧感だけで、あんなとんでもない圧を生み出したのだ。
先程までの気安く、親しみやすい雰囲気の彼女から発せられたとは思えない。人化封身は解かず、姿も変えていないというのに。
と、その衝撃が大きすぎて流しそうになった事実に、俺は丸く目を見開いた。今、人間語が口から飛び出したような。
「あれっ……人間語が喋れる」
「魔狼形態にも慣れていれば、その状態で人間語を喋ることは出来るんだけどね。最初のうちは仕方がないもんさ」
俺の疑問に答えつつ笑うギュードリン。言葉を置き去りにしながら彼女は地を蹴った。
早い。めちゃくちゃ早い。姿が消えるほどではないが、みるみるうちに彼女がこちらに近づいてくる。並のステータスの冒険者なら、きっと見失っていることだろう。
おまけに接近しながら、彼女は手から石を生み出し高速で放って俺を牽制している。大地魔法第一位階、石矢。驚くことに無詠唱だ。詠唱省略の上を行く高等技術である。
悠長に構えてはいられない。呪文を紡ぐにも時間がかかる。俺はすぐさま吠えた。風牙だ。
「くっ、ガァァァッ!!」
「おっと」
全力で吠えつつ俺も地面を蹴る。後方に、ではない、フェイントをかけつつ右へ。俺の口元から発せられた風が牙となり、ギュードリンに噛みつかんと迫る。
それをすんでのところで回避しながら、手を引っ込める彼女だ。風がかすめた彼女の緋色の髪が、斬られてはらりと宙を舞った。
髪一筋とはいえ、当てることは出来た。楽しそうに彼女が笑う。
「いいねぇ、久しぶりに肝が冷える威力の魔法だ!」
「無詠唱の石矢で地面を砕きながら仰ることではないですね!」
ギュードリンの言葉に人の言葉で言い返しながら、俺は前方に向かって突撃した。口を大きく開いてギュードリンに噛み付く、と見せかけてかわさせてから頭突きを仕掛ける。
当たった。ギュードリンの身体が僅かに押される。後方に跳んで衝撃を逃しながら、彼女は高らかに笑った。
「いいよいいよ、ほらどんどんおいで!」
「くっそ……!」
攻撃が当たってはいる。捉えられない程ではない。それはいいのだが、有効打になっている気配がまるで無かった。どれもうまくいなされている感じがする。
俺は攻撃の手を休めることなく攻め立てた。第一位階の魔法を使って向こうの攻撃を相殺し、接近戦を挑みつつフェイントをかけ。
お返しにとギュードリンも魔法を次々放ってくる。第八位階、第九位階といった高位の魔法も数節省略してばんばん使ってくるのに、一向に威力が抑えられている気配がない。魔法に関してはまさに桁違いだ。
数発目の岩雪崩をギリギリで回避した俺に、ギュードリンが口角を持ち上げる。
「は……っ、いいねぇ!」
「まだまだ……!」
側方に回避行動を取って着地した勢いを殺さず、俺は再び前に出る。当然ギュードリンは直前で止まってからの頭突きを警戒して後方へ。
狙い通りだ。俺は直前で僅かに方向転換、からの急旋回。ギュードリンの背後に回り込む。
「なっ」
「万象一切を薙ぐその名を称えてひれ伏せ! 風帝の行軍!!」
振り返った彼女が反応するより先に、俺は詠唱文句を早口で発した。
風魔法第十位階、風帝の行軍。それを詠唱を二節省略して至近距離でぶちかます。巻き起こった巨大な竜巻に、ギュードリンの身体が飲み込まれた。
天に向かって巻き上げられた彼女の身体が、竜巻の消滅と共に地面に叩きつけられる。ゆっくりと身体を起こしながら、これまでで一番楽しそうに彼女は笑った。
「っ、はは……! 面白い、面白いじゃないか!」
「くっ……!」
対して俺は、初めて彼女に有効打を入れたはいいものの、足の震えを抑えるので精一杯だった。
魔法の詠唱の省略は、魔法の発動を早められる反面威力が抑えられる。だがそれに加えて、短い詠唱で無理やり魔法を発動させるので、身体に反動が生じるのだ。
そもそも第十位階の魔法など、詠唱省略して唱えられるように作られていない。二節も省略したから、MPをかなり余分に持っていかれてしまった。倒れなかっただけでも上等である。
そんな俺を見ながら、ギュードリンは両腕を広げつつ声を上げる。
「第十位階! しかも二節省略と来たか。それをやってのけてまだ両の足で立っている。これは驚いた!」
心底から驚いた様子で、ギュードリンは俺を称えてみせる。だが。
「だが、まだ青い」
「なっ!?」
次の瞬間にはもう彼女は動き出していた。竜巻に巻き上げられて上空から地面に叩きつけられたというのに、なんてタフネスだ。
そうして手に魔力を溜めながら話す彼女に、俺は目を見開いた。突っ込んでくる。まずい。回避しようと思うが、先程の詠唱省略の反動で足が動かない。
「さっきの君の風帝の行軍じゃ、第八位階フル詠唱と大差ない、反動も大きい……だが、私なら?」
そう告げながらギュードリンが俺に肉薄する。魔力を溜めた右手を俺の胸に押し当てながら、彼女は叫んだ。
「炎帝の大剣!!」
次の瞬間だ。胸元で大爆発が起こった。
俺の胸を刺し貫くように、炎が質量を持って俺を突き刺している。そして発生する爆発が俺の身体を突き飛ばした。
身体が宙を舞い、世界が反転する。
ドオンと地響きを立てて地面に叩きつけられる俺の口から、血が混じった息が飛び出した。強すぎる衝撃と胸の痛みに、獣の声が自然と漏れる。
「ゴ、ア……!!」
「熟達すれば、三節省略でもこの威力だ。どうだい? ステータスの値が同じくらいでも、同じようにはいかないだろ」
手元に発生させていた炎魔法第十位階、炎帝の大剣を消しながら、ギュードリンがニヤリと笑った。
三節省略。第十位階の魔法でそこまでのことをしたら、魔法の発動すら覚束無くなるはずなのに。俺のHPが今ので三割強は持っていかれた。
とてつもない。これが神魔王ギュードリンの力か。文字通り、格が違う。
「く……まだ、まだです!」
だが、俺はまだ死んでいない。まだ戦うことはできる。
胸の毛を鮮血で染めながら、俺は立ち上がって再び地面を蹴った。
ぐいぐいと身体を伸ばして準備運動するギュードリンに、俺は恐る恐る声をかけた。
「ほ、本当にいいんですか?」
結界の中に閉じ込められながら何を今更という感じだが、正直不安は拭えない。同じX級とはいえ、アルヴァロと俺とでは天と地ほどの差があるのだ。ギュードリンだって、手加減をどれほどしてくれるか。
そのアルヴァロが結界の外から、不満をあらわにしつつ声をかけてくる。
「そうじゃぞギュードリン、貴様とジュリオが試合をするなど、この学舎どころか村全体が滅びてしまうわ」
そう、彼は何も俺の力を侮って言うのではない。結界は張ってあるとはいえ、俺とギュードリンが力をぶつけ合ったらそれで防げるか分からない。そこはアルヴァロだけではない、俺やアンブロースも危惧するところだった。
だが、何でもないことのようにギュードリンは返す。
「心配いらないさ、また『界』を作って、その中で戦うから。あ、ジュリオ君は魔狼転身使う? 何なら『界』に魔狼化のデバフ解除つけるけど」
「えっ、そんな事もできるんですか!?」
彼女がこちらに視線を向けながら提案してきた内容に、俺は思い切り目を剥いた。
あのデメリットの数々はデバフ扱いだったのか。どうあっても防げないものと思って、ギュードリン相手じゃ使わないわけにはいかないし、しかし魔狼から戻れなくなり、人間語を喋れなくなるのはつらいし、と悶々としていたというのに。
規格外なその力に俺が言葉を失っていると、両手をこねくり回し始めたギュードリンが笑う。『界』を作るのは先程やったように一瞬で行うのかと思っていたが、こうして予備動作を必要とすることもあるらしい。
「私も魔狼の系統だし、魔狼転身のスキルをしっかり理解しているから出来ることだけれどね。どうする?」
一度手を止めた彼女の重ねての問いかけに、俺はゴクリとつばを飲んだ。
魅力的だ。魅力的すぎる。あの強大な、俺の本気の力を、デメリットなしに振るえるなんて。
あまりにも虫のいい話に戸惑いつつも、首を縦に振る俺だ。
「お……お願いできますか。あのデバフ、地味に不便で……」
「いいよ。私は……まぁいいか、封身解くの面倒だし」
そう言って再び手を動かし始める彼女に、俺はもう一度目を見開いた。
この元魔王は、自分が圧倒的優位に立つことも出来るというのに、敢えて俺と互角とも言える立場で戦おうというのだ。
まあ、ステータス上はほぼ互角と言っても、スキルの幅も戦闘経験もあちらの方が数倍上だから、正しい意味で互角ではないかと思うところだけど。
「え、おばあちゃん、封身解かないの?」
「何ということだ……ステータス上は互角の戦いとなるぞ」
「チィ……」
後方からリーアとアンブロース、ティルザの声が聞こえる。彼女らもギュードリンの選択に驚いているようだ。
彼女たちに顔を向けながら、ギュードリンが笑う。
「いいじゃないか。たまには自分と実力が伯仲するやつとの戦いもいいもんだ。さて……こんなもんかね」
そう話して、ギュードリンが動かし続けていた手を止めた。その手の間には、淡い土色をした光の球が明滅するように浮かんでいる。
「ジュリオ君、もっとこっちおいで。『界』の外周に結界を張るから、なるべく皆から離れていたほうがいい」
「は、はい……」
光の球を手の上に浮かべたギュードリンが、空いた手で俺に手招きする。言われるがままに距離を詰めるが、彼女はまだ手を動かしている。
その後も俺は歩み寄り続け、最終的にギュードリンと互いの胸が接してしまうくらいに近付く羽目になった。後ろでリーアがキャーキャー言っている。
「あの、いいんですか、こんなに近いと」
目の前にギュードリンのビックリするくらい整った顔があり、形のいい胸があるのにドギマギしながら問いかけると、彼女は困ったように笑った。
「『空間断絶』と『階層転換』の術を組み込んでいる。私たち二人は皆のいる場所とは別の階層の、広い空間にいる形にするんだ。ま、結界の外から私たちの戦う様子は見えるようにしてあるけどね」
「はぁぁ……」
あっさりとした様子で話す彼女に、俺は深くため息をついた。何というか、ここまで色んなことをやってのけるのを見ると、レベルが違いすぎて笑えてくる。
そうこうするうちに、ギュードリンが顎をしゃくった。
「じゃ、行くよ」
彼女が右手に浮かべた光の球を、上空に投げる。次の瞬間、俺を取り巻く風景ががらりと変わった。
山の裾野だ。ギュードリンの後ろには高い山がそびえ、地面は荒れ土がむき出しになっている。明らかに、ブラマーニ王国の中で見られる風景ではない。
「わっ!?」
「今回はゴルジ山の麓の辺りを再現してみた。この方が雰囲気出るだろ?」
そう言いながらギュードリンは笑う。気付けば彼女は既に、俺から数歩離れたところに立っていた。『界』の展開と共に立ち位置を変えたのか、気付かないうちに距離を取っていたのか、どちらかは分からない。後者でないことを願うしかない。
そして、神魔王ギュードリンがうっすらと笑う。
「さ、もう大丈夫。本気でおいで」
「……っ!?」
その笑みが見えた瞬間だ。とてつもない圧力が俺の全身を襲った。
すぐに魔狼転身を発動、フェンリルそのものになって光を発しながら飛び退く。四本の足で地面を踏みしめながら冷や汗をかく俺を見て、ギュードリンが大きく目を見開いた。
「へえ? いい反応をするじゃないか。この間までA級だったにしてはなかなかだ」
「ご冗談を……今の気当たりだけで吹き飛ばされるかと思いました」
狼の長いマズルで言葉を発しながら、俺は小さく首を振った。正直、今もまだ毛皮の下の肌がひりついている。
ギュードリンは何もしていない。魔法も、スキルも使っていない。ただ本気になっただけだ。その際の威圧感だけで、あんなとんでもない圧を生み出したのだ。
先程までの気安く、親しみやすい雰囲気の彼女から発せられたとは思えない。人化封身は解かず、姿も変えていないというのに。
と、その衝撃が大きすぎて流しそうになった事実に、俺は丸く目を見開いた。今、人間語が口から飛び出したような。
「あれっ……人間語が喋れる」
「魔狼形態にも慣れていれば、その状態で人間語を喋ることは出来るんだけどね。最初のうちは仕方がないもんさ」
俺の疑問に答えつつ笑うギュードリン。言葉を置き去りにしながら彼女は地を蹴った。
早い。めちゃくちゃ早い。姿が消えるほどではないが、みるみるうちに彼女がこちらに近づいてくる。並のステータスの冒険者なら、きっと見失っていることだろう。
おまけに接近しながら、彼女は手から石を生み出し高速で放って俺を牽制している。大地魔法第一位階、石矢。驚くことに無詠唱だ。詠唱省略の上を行く高等技術である。
悠長に構えてはいられない。呪文を紡ぐにも時間がかかる。俺はすぐさま吠えた。風牙だ。
「くっ、ガァァァッ!!」
「おっと」
全力で吠えつつ俺も地面を蹴る。後方に、ではない、フェイントをかけつつ右へ。俺の口元から発せられた風が牙となり、ギュードリンに噛みつかんと迫る。
それをすんでのところで回避しながら、手を引っ込める彼女だ。風がかすめた彼女の緋色の髪が、斬られてはらりと宙を舞った。
髪一筋とはいえ、当てることは出来た。楽しそうに彼女が笑う。
「いいねぇ、久しぶりに肝が冷える威力の魔法だ!」
「無詠唱の石矢で地面を砕きながら仰ることではないですね!」
ギュードリンの言葉に人の言葉で言い返しながら、俺は前方に向かって突撃した。口を大きく開いてギュードリンに噛み付く、と見せかけてかわさせてから頭突きを仕掛ける。
当たった。ギュードリンの身体が僅かに押される。後方に跳んで衝撃を逃しながら、彼女は高らかに笑った。
「いいよいいよ、ほらどんどんおいで!」
「くっそ……!」
攻撃が当たってはいる。捉えられない程ではない。それはいいのだが、有効打になっている気配がまるで無かった。どれもうまくいなされている感じがする。
俺は攻撃の手を休めることなく攻め立てた。第一位階の魔法を使って向こうの攻撃を相殺し、接近戦を挑みつつフェイントをかけ。
お返しにとギュードリンも魔法を次々放ってくる。第八位階、第九位階といった高位の魔法も数節省略してばんばん使ってくるのに、一向に威力が抑えられている気配がない。魔法に関してはまさに桁違いだ。
数発目の岩雪崩をギリギリで回避した俺に、ギュードリンが口角を持ち上げる。
「は……っ、いいねぇ!」
「まだまだ……!」
側方に回避行動を取って着地した勢いを殺さず、俺は再び前に出る。当然ギュードリンは直前で止まってからの頭突きを警戒して後方へ。
狙い通りだ。俺は直前で僅かに方向転換、からの急旋回。ギュードリンの背後に回り込む。
「なっ」
「万象一切を薙ぐその名を称えてひれ伏せ! 風帝の行軍!!」
振り返った彼女が反応するより先に、俺は詠唱文句を早口で発した。
風魔法第十位階、風帝の行軍。それを詠唱を二節省略して至近距離でぶちかます。巻き起こった巨大な竜巻に、ギュードリンの身体が飲み込まれた。
天に向かって巻き上げられた彼女の身体が、竜巻の消滅と共に地面に叩きつけられる。ゆっくりと身体を起こしながら、これまでで一番楽しそうに彼女は笑った。
「っ、はは……! 面白い、面白いじゃないか!」
「くっ……!」
対して俺は、初めて彼女に有効打を入れたはいいものの、足の震えを抑えるので精一杯だった。
魔法の詠唱の省略は、魔法の発動を早められる反面威力が抑えられる。だがそれに加えて、短い詠唱で無理やり魔法を発動させるので、身体に反動が生じるのだ。
そもそも第十位階の魔法など、詠唱省略して唱えられるように作られていない。二節も省略したから、MPをかなり余分に持っていかれてしまった。倒れなかっただけでも上等である。
そんな俺を見ながら、ギュードリンは両腕を広げつつ声を上げる。
「第十位階! しかも二節省略と来たか。それをやってのけてまだ両の足で立っている。これは驚いた!」
心底から驚いた様子で、ギュードリンは俺を称えてみせる。だが。
「だが、まだ青い」
「なっ!?」
次の瞬間にはもう彼女は動き出していた。竜巻に巻き上げられて上空から地面に叩きつけられたというのに、なんてタフネスだ。
そうして手に魔力を溜めながら話す彼女に、俺は目を見開いた。突っ込んでくる。まずい。回避しようと思うが、先程の詠唱省略の反動で足が動かない。
「さっきの君の風帝の行軍じゃ、第八位階フル詠唱と大差ない、反動も大きい……だが、私なら?」
そう告げながらギュードリンが俺に肉薄する。魔力を溜めた右手を俺の胸に押し当てながら、彼女は叫んだ。
「炎帝の大剣!!」
次の瞬間だ。胸元で大爆発が起こった。
俺の胸を刺し貫くように、炎が質量を持って俺を突き刺している。そして発生する爆発が俺の身体を突き飛ばした。
身体が宙を舞い、世界が反転する。
ドオンと地響きを立てて地面に叩きつけられる俺の口から、血が混じった息が飛び出した。強すぎる衝撃と胸の痛みに、獣の声が自然と漏れる。
「ゴ、ア……!!」
「熟達すれば、三節省略でもこの威力だ。どうだい? ステータスの値が同じくらいでも、同じようにはいかないだろ」
手元に発生させていた炎魔法第十位階、炎帝の大剣を消しながら、ギュードリンがニヤリと笑った。
三節省略。第十位階の魔法でそこまでのことをしたら、魔法の発動すら覚束無くなるはずなのに。俺のHPが今ので三割強は持っていかれた。
とてつもない。これが神魔王ギュードリンの力か。文字通り、格が違う。
「く……まだ、まだです!」
だが、俺はまだ死んでいない。まだ戦うことはできる。
胸の毛を鮮血で染めながら、俺は立ち上がって再び地面を蹴った。
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その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
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解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
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そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
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