魔狼王(着ぐるみ)が往く!~勇者パーティーから暑苦しいと追放された着ぐるみ士の俺、世界最強のステータスに目覚めたので神獣と一緒に見返します~

八百十三

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第4章 魔王と英雄

第62話 着ぐるみ士、翻弄される

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 魔法が放たれ、武器が振りかぶられる。呪い遮断の結界を張った中で戦闘が始まろうとしていたが、先んじて動いたのはアルビダの方だった。
 目深に被ったフードの奥で、ごぱりと闇が開く。

「あぁぁぁ!!」
「ぐ……!」
「バールーフ!」

 アルビダの主たる攻撃手段、呪声スクリームだ。濃密な呪いをまとった声は、浴びた者がどれほど屈強な戦士だろうとたちまち行動不能にしてしまう。
 今もただの一声で、「岩石の翼アリディロッキア」の戦士ウォリアーバールーフがその場に倒れ込み、周囲の地面が呪いに冒され下草が黒ずんだ。
 シェルトがすぐに声を張り上げる。

「バールーフ殿、その場から動かずに! ティルザ殿、土地の解呪ディスペルはお任せいたします! マルヨレイン殿、アルビダの意識を一瞬でいいので外してください!」
「オッケー!」
「チィ!」

 指示を受け、マルヨレインとティルザが飛び出した。後方ではヘリーが既に魔法の詠唱をしている。治癒魔法第六位階、解呪ディスペルだ。

「清浄なる風よ、清浄なる風よ、暗き闇を祓いたまえ! 汝には神の御言葉みことばがかけられん! 解呪ディスペル!」
「チィィッ!」

 ヘリーが魔法の詠唱を完成させると同時に、呪われた地面の上をティルザが飛びながら強く鳴いた。
 解呪ディスペルは魔法による異常を取り除くための魔法だ。フェニックスの鳴き声にもこの魔法は乗っている。
 これのおかげでバールーフは再び動き出せるようになり、同時に呪われた地面も元の色を取り戻したのだが、それにしたって重複詠唱してやっと解呪が叶う現実。恐ろしいとしか言いようがない。
 前方では同時に、マルヨレインが歯を剥き出しにしてアルビダに飛びかかっていた。
 首狩り兎ヴォーパルバニーであるマルヨレインの歯は、それがどんなものであろうと噛み切ってしまう。さしものアルビダも身をよじって攻撃を避けていた。

「うらーっ!」
「くっ、ちょこざいな!!」

 そういう間にも呪声スクリームによって呪いはばら撒かれる。おまけにここでアルビダは、自分の手の爪を自分の腕に突き立てた。
 これこそがアルビダ・へーフェルスの真骨頂、血の呪いだ。声とは比較にならないくらいの濃密な呪いがマルヨレインへと襲いかかる。飛び退いて血を避けるマルヨレインだが、ばら撒かれた血は急速に大地を蝕んでいった。

「くそ、呪いの効果範囲が広すぎる!」
「ある意味、この人数で相対するのは正解かもしれませんね。あまり大人数では解呪ディスペルが間に合わない」

 ライニールが呪われた地面から飛び退いて体勢を立て直すと、シェルトも眉間にシワを刻みながら言った。
 確かに、17人という少人数であるからこそ、解呪ディスペルが間に合っているのは事実だ。ティルザ、ヘリーが解呪ディスペルに集中できているから、攻撃役も動きやすい。
 並の呪いだったら重複詠唱を効果範囲を広げるのに使うことで対応出来るが、突き抜けて強力なアルビダの呪いは、一人ひとりに解呪をかけないと回復が間に合わない。これこそが、アルビダの恐れられている理由なのだ。
 大人数で立ち向かうには相手が悪い。少人数で立ち向かうには強すぎる。故に再び、アルビダが勝ち誇った声を上げた。

「ああ、ああ、これこそが蛮勇なのだ、ギュードリンの愛し子たちよ!! 私の呪いを拡散させない為に少人数で挑んだのだろうが、そんな人数で私と相対したことを後悔させてやる!!」

 声を上げたアルビダが自分の手を切り裂いた。放たれた血液が向かっていくのはライニールだ。大剣をかざしながら回避をするも僅かに間に合わない。彼の右手に血液がかかり、途端に大剣を握る右手か腐り落ちた・・・・・

「っく……!」
「ライニールさん!」

 俺が声を上げると同時にティルザが飛んだ。なおも呪いの広がる彼の右腕に嘴を立てると、途端に解呪が成って鱗が元の色を取り戻した。続けざまにティルザが大回復グレーターヒールを施すが、すぐの戦線復帰は出来そうにない。
 これが、魔王軍の最高幹部の力なのか。

「これが、後虎院との戦いってこと、ですか……!」
「ええ、突出した能力を持つ魔物との戦いとは、こういうものです」

 俺が冷や汗を垂らしながら発すれば、シェルトもこくりと頷きながら言った。
 マルヨレインも、俺の一撃でバシーンと倒せるなどと、随分なことを言ってくれたものだ。こんな相手、攻撃を加えるだけでも一苦労ではないか。
 回復を終えたライニールが再び大剣を握るのを見つつ、シェルトが俺に目を向ける。

「ビアジーニ殿、リーア殿、アンブロース殿も。あなた方の光魔法が我々にとっての最大火力です。なるべく魔力切れを起こさないようにだけお気を付けください」
「っ、分かりました」

 彼の言葉に、俺は即座に頷いた。
 夜魔ナイトゴーントであるアルビダは、光魔法に弱い。今回のパーティーで光魔法を第十位階まで扱えるのは俺たちだけだ。必然、俺たちが重要なダメージソースになる。
 既に動き回って雷矢ライトニングアロー雷撃サンダーボルトを放っていた、前方のリーアとアンブロースに声を飛ばす。

「リーア、アンブロース! 三方向から同時に攻めるぞ!」
「分かった!」
「任せろ!」

 俺の言葉に二人が頷き、左右に分かれるように動いた。俺は今の位置から真正面にアルビダを見据え、詠唱を始める。

「人も魔も神の前にはこうべを垂れるべくして垂れる! 立ち塞がる者は滅するが定め、闇の中でこそ輝きを増す猛威もういをここに! 雷電爆破エレクトロバースト!」

 光魔法第九位階、雷電爆破エレクトロバースト。これを俺、リーア、アンブロース、三人が同時に三方向から放つ。
 一発だけでも恐ろしい威力のこの魔法が、三方向から同時に飛んでくるのだ。アルビダも動くに動けないまま、魔法が迫り、炸裂する。

「お――!!」

 声がかき消され、凄まじい爆発音が森に響いた。アルビダ周辺の木々は完全に粉々になり、地面には大穴が空いている。
 魔物たちも驚きのあまり言葉を失う中、マルヨレインが小さく口笛を吹いた。

「ヒューッ、やるぅ」
「何と言う威力だ……第九位階の光魔法の三発同時攻撃、さしもの『血華』といえど」

 シェルトも目を見張りながら、未だ煙の立ち上る前方に目を向ける。
 と。

「ああ……ああ、ああ……!!」
「なっ」

 煙の向こうから、底冷えのするような声が聞こえてきた。聞き間違うはずがない、アルビダの声だ。
 ざ、と煙が晴れる。果たしてそこにアルビダは立っていた。身体のあちこちから血を流してはいるものの、削れたHP体力は四割といったところか。
 傷だらけの両腕を天へと掲げながら、アルビダが吼えた。

「嘆かわしい……嘆かわしい、嘆かわしい!! これほどの魔力を、これほどの魔法を、受けてなお私は立っている!! これがお前たちの期待する最大戦力の放つ魔法か、ギュードリンの愛し子たちよ!!」

 まるで勝ち誇ったかのようにアルビダは言った。対して冒険者側は途端に絶望の顔である。ライニールが驚愕に目を見開きながら零した。

「マジかよ」
「第九位階を、同時に三発食らって、あのダメージですか?」

 シェルトも信じられないものを見る目で前方の敵を見ていた。そしてそれは、俺も同様だ。
 第九位階の魔法は、その一発の威力こそ第十位階には及ばないものの、使い方によっては第十位階以上に有効に働く。それを三発同時に食らったのだ。
 今の攻撃で命を取れる、とまで自惚れるわけではないが、HPの大半は削れて然るべき。それを、半分も削れなかったなどというのはだいぶ絶望的だ。
 愕然とする俺たちに、アルビダは勝ちを確信した声色で言ってきた。

「ああ、ああ!! この程度の力で私を殺そうなどとはお笑い草だ!! ギュードリン自治区の精鋭が聞いて呆れる!!」

 アルビダの言葉に、言い返せる者は一人もいなかった。悔しいが、強い。とてつもなく強い。
 と、戦士ウォリアー重装兵ガードが再び戦いを始める中、上空で観測をしていたアルヤンが地上に降りてきた。

「シェルトさん」
「アルヤン?」

 降りてきたアルヤンは、声を潜めてシェルトに話しかける。話を聞いて、納得したようにシェルトは頷いた。

「……そうか、なるほど」
「はい、恐らく間違いないと思います。これは、ジュリオさんたちだけ・・・・・・・・・・では厳しい・・・・・

 そしてアルヤンが、かなりきっぱりと言ってのけた。その言葉に俺は当然目を見開く。
 俺たちだけでは厳しい、と断定するに至る情報が、アルヤンの手元にはあるというのか。

「シェルトさん?」
「アルヤン殿も、どういうことだ!?」

 俺とアンブロースが戸惑いながら問いかけると、シェルトは悔しそうな目をしながら話してきた。

「ビアジーニ殿。貴方の魔法は直撃させられれば・・・・・・・・アルビダの命を奪うには十分なものでしょう。しかし、魔法を絶妙に外されている・・・・・・・・・。これでは命は取れません」
「魔法を、外されている……!?」

 そしてシェルトの発した言葉に俺はますます目を見開いた。
 放った魔法を外されている、とは。防がれているというならまだしも、外されているとはどういうことだ。
 アンブロースが信じられないと言いたげな顔をして口を開く。

「馬鹿な、結界を張っているなら分かるが、そんな風には見えなかったぞ」

 そう、結界魔法を使って結界を張り、防いでいるならそれと分かるはずなのだ。魔力の動きもそうだし、防いだことで魔法の動きも変わってくる。結界で防いでいた様子は、俺も感じなかった。
 と、そこでリーアが、険しい表情で声を上げた。

「……ねえ、もしかしておばあちゃんがやってたみたいな」
「まさか……『界』か?」

 その言葉に俺もハッとする。
 そう、ギュードリンがやっていたような形で「界」を作り、その中に逃げ込んでいるのだとしたら。
 その場の誰もが目を見開く中、シェルトが小さく微笑んだ。

「ファン・エーステレンの創界そうかいをご存知なら話は早い。私に作戦があります……」

 そう言うと、彼はちょいちょいと手招きをする。アルビダの命を奪うため、どう戦うべきか。俺たちは知恵を絞り始めた。
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