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しおりを挟む──二人はとても泥酔していたように見えました。あのあたりはガラの良くない奴らも出入りしている賭場があるし、その客なら近付かない方がいいかと思って。けど女を連れて出入りするなんて珍しいなと見ていたら、男の方が突然、橋の上で女を抱き上げたんです。まさかそれが王太子殿下だとは夢にも思いませんでしたが、身なりが良さそうだったものですから、関わらない方がいいと見て見ぬふりをしてしまって。
事件の目撃者である浮浪者はそう語ったらしい。
「ですから、私は昨夜のパーティーで王太子殿下から一方的に婚約破棄をされて自宅に戻りました。殿下とあのご令嬢は陛下の命令でお下がりになったのに……どうしてこのようなことになったのか」
「そうですか。ご協力ありがとうございます」
メモを取りながら頷いた取調官の憲兵にリシアは深いため息を吐いた。あの馬鹿な婚約者でも橋の上から川へ人を落とせばどうなるかくらい分からないはずがない。しかし証人がいる以上、王族といえど第一容疑者であることは変わりなかった。
「いつも殿下が飲酒なさった時はどのような様子ですか?」
「知りませんわ。私と殿下はお酒を注ぎ合うような仲ではありませんから」
会うのはいつも公式行事のパートナーとして、会話することだってほとんどない。婚約者だと勝手に定められた身からするとそれでも寄り添った方だった。
「殿下は勾留されていらっしゃるのでしょう?認められているのですか?」
「いえ……昨夜、王城を共に抜け出したことは認められましたが、その後は賭場で泥酔していて覚えていないと。ただ……」
言いづらそうに口ごもった取調官に先を促す。どうせここに呼び出されている時点で大方の予想がついた。
「リシア・ルーベルク公爵令嬢がやったに違いないとおっしゃるので参考までにお話を聞きたかったのです」
「──そうですか」
都合の悪いことは何でもその場に一瞬もいなかった私に擦りつけて生きてきた男だ。しかし殺人の濡れ衣まで着せられそうになるとは。
「私にはアリバイがありますし、それに」
「あくまで形式的なものです」
あなたを疑う余地はないと首を振る彼にほっとする。こんなことになるのなら昨夜帰らずにあのまま正式に婚約解消の手続きをしてしまうべきだった。
「王族とはいえ殺人罪を犯せばただでは済まないでしょうけれど……」
痴話喧嘩でもしたのだろうか。私との悪縁を切ってやったとばかりに高笑いしていた二人の姿がまるで遠い昔のように思い出せる。
「彼女の死因は?」
「溺死です、ただ……」
これは内密ですが、と声を顰めた取調官に耳を傾ける。
「遺体となったマリアンヌ・レイス男爵令嬢の腕に新しいものと思われる注射針の痕と、体内から違法薬物が検出されました。ただの殺人事件では終わらないでしょう。これからも度々お話を聞くことがあると思いますので、迷惑とは思いますがご協力願います」
今朝とんでもない話を聞かされてここへ来たリシアはもう何も言うことができず、ただただ深いため息を吐いた。
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