婚約破棄の翌日、彼女は亡くなったようです。

えんどう

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 事件から二週間が経とうとしていた。民衆の関心を集めるため好き勝手に書かれた新聞は読まないほうがいいだろうと目に触れないように徹底したが、それでも噂はリシアの耳に入ってくる。
「まったく呆れたものだわ……」
 噂が増長するのは勾留の身にあるはずの王太子が何故か今でも自分の権力が通じると思い込み余計なことをしでかすからだ。
「焼却炉にでも突っ込んでおいて」
「はいお嬢様」
 リシアが握りしめたせいでしわがついたその手紙には王太子の印が押されている。直近で届けられた五通の手紙はどれも同じ内容のもので、これまでの行いを許してやるからひとまず面会に来いと書いていた。
「私が喜んで会いに行くとでも思ったのかしら……」
「だとしたら彼の方は初等部の頃から精神的に成長なさらなかったのでしょう」
「それもそうね」
 自分にとって耳障りのいい言葉を並べる人間しかそばに置かず、気に入らないことがあればその権力を振り翳して人を追い詰めた。
「自分が国外追放まで命じた女に今更なんの用があるのかは知らないけれど……」
 聞けば彼は国王陛下にも謁見を願ったようだが、話すことは何もないと跳ね除けられたらしい。今まで王太子が馬鹿な真似をしても寛容してきたせいか、彼もようやくこの自体がまずいことを自覚したようだ。
「それにしてもどうなるのでしょう」
「さあ……私には分からないわ」
 男爵令嬢の遺体から検出されたという違法薬物が一体いつどのような状況で投与されたものか、それとも自分で打ったものかも分からない。そして彼女を殺したのは王太子だと証言した男は不自然死の状態で見つかった。
「あの証言は嘘だったのでしょうか?誰かに雇われてそう証言するように言われたとか?」
「どうでしょうね」
 興味のないリシアと違って推理小説とゴシップが好きなアンシアは好奇心に溢れた目でこちらを見る。
「気になりませんか?」
「ならないわ。一刻も早く婚約解消に印を貰ってこの国から出ることしか考えられない」
 あの男が誰にはめられようがこの国がこの先どうなろうが私には関係のないことだ。
「──そういえば先ほどちらっと見えましたが、やはり王太子殿下はその地位を捨てるつもりはなかったようですね」
「そのようね」
「なのにお嬢様に勝手に婚約破棄をして、その座を降ろされることを分かっていなかったのでしょうか?」
「……そのようね、恐ろしいことに」
 そもそもお互いが望んでいない婚約を結んだのはお互いの家に利があるからだ。いくら国王とはいえど一存で跡継ぎを定められるわけではない。
「正直、うちのお嬢様への無礼は許せませんが、事件を知るまではパーティー会場での騒ぎを聞いて嬉しかったんです。あの方にお嬢様は勿体無いですし、なによりお嬢様の婚約者でいる限り、あの方が次の国王になるだなんて……考えただけで恐ろしすぎます」
 少しでも身近にいる者ならば王太子が国王の器になり得ない人間であることくらいすぐにわかるだろう。
(……国王陛下は何を考えていらっしゃるのかしら)
 取調官も困っていた。それはおそらく、この先どう動くべきか明確な指示がいまだに出ていないからだろう。
 こんなことがあってもまだ王太子を庇う気なのかもしれないと考えるのは、いまだに国王が何の沙汰も出さないからだ。本当に見捨てる気ならばもっと早くに事件の真相を解明するように命じているだろう。
「そういえばお嬢様、旦那様が今夜はお帰りになるとか」
「……そうね。まずはお父様と話さないと」
 身の振り方を決めるのはこの数日、国王に謁見していた父に話を聞いてからだと、リシアは静かにため息を吐いた。
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