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しおりを挟む足が地面に張り付いたかのように動かない。つい少し前まで彼に握られていた指先はカタカタと震えた。
(今の言葉、レジスが言ったの?)
顔は見えないけれど、彼の声は私の前で話す時とはまったく違って、とても冷たかった。先ほどジャックを紹介された時に少し砕けた話し方をする彼に友人の前ではそうなのだろうかと新鮮さを感じたけれど、まるで違う。むしろ私といる時は猫をかぶっているような──。
私が聞いているなど思いもしないのか、冷たい声音のまま彼が続けた。
「カトリーナは世間知らずだし俺のことを信じているんだ」
「実際はお前に利用されているとも知らずにな。それよりお前、あの女のためにリーチェ公女との婚約を白紙にするって本気か?」
「仕方がないだろう。公女は惜しいが、それよりも大事なのは民衆の支持だ」
これは聞いてはいけないことだ。聞かなければ楽になれることはいくらでもあると、私はよく知っていた。あんな狭い世界で生きていても、世間では神職と崇められるあの場所でも、人の裏はいつも醜いもの。
何も聞いていないふりをして立ち去ろう。そうでなければ、これ以上聞いてしまえば、きっともう戻れなくなる。彼をただ心から愛することができなくなる。
けれどもカトリーナの足を縫い付ける要因がもうひとつあった。それは、背を向けた恋人の向こうにいる男──ジャックの目が私を捉えたこと。ほんの一瞬だけ驚いたように揺れた瞳は、次第に悪意の色が増した。
「お前が相変わらず自分のことだけを考えていて安心した。あんな女のために腑抜けていたらどうしようかと案じたぞ。……あの女と一緒にいるのは、まさか本当にあの女を愛しているわけじゃないんだな?」
私に聞かせるためにわざわざそんなことを口にした彼はやはり私が今まで出会った人の中でもいっとう性格が悪いのかもしれない。そんな彼と、気が合っている恋人も。
「当たり前だろう?婚約なんて形だけだ。女神の祝福を受けた聖女を妻として迎え入れられたら……兄上ではなく俺を王に推す声も今より高まるだろうからな」
「はは、そうでなくちゃな。あの哀れな女が自分の役割をまっとうしてくれるといいが……」
「心配しなくてもカトリーナはうまくやってくれるさ。俺にぞっこんだからな」
周りなんて見えていない箱入りだと嘲笑するように笑ったレジスに、今度こそ私は逃げ出すようにその場を離れた。できるだけ音を立てないように、静かに。
目からこぼれ落ちた涙は溢れ出して止まらなかった。
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