11 / 16
11
しおりを挟む神殿の敷地内にある図書館はさほど広くはないけれどここにしかない貴重な文献も置いている。普段カトリーナがここに出入りすることは滅多になかったが、少し調べたいことがあるからと神官に頼み、祈りを終えてすぐにここへ来た。
「そういえば昨日も夜遅くまで遊んでおられたとか。貴女の務めをお忘れになってはいけませんよ」
「──えぇ、分かっています」
余計なお世話だと顰めそうになる眉を、前髪を直すふりをして隠した。常に私の行動は監視されているし、昨日のパーティーに出席したことも、神殿に仕える者たちは決して快く思っていないだろう。
すぐにお祈りに戻りますからと告げたカトリーナはまっすぐに過去の神殿のことが記された本を探した。今までの聖女にまつわるものが書かれている。
私の前にいた聖女は六十年間、その生涯のほとんどを神殿で過ごしていたという。質素倹約な生活を好み、日々民と国のことを憂いて祈りを捧げていたと。
(……生まれてからずっと、死ぬまで)
それがとても素晴らしいことのように神官が話すのを聞いた時、私が覚えたのは恐怖だった。私もそんなふうに死ぬまでここに居続けるのだろうか。届いているのかも分からない祈りを捧げて、この生涯が終わるその日まで監視されながら生きるのだろうか。
一晩が経てばレジスへの怒りはほとんどなかった。彼が思惑を持ってわたしに近付いたように、たとえ無意識であったとしても、私もそうだった。彼を盲目的に慕っていたのは彼が私をここから連れ出してくれる人だと信じていたからだ。そんな淡くとも打算だらけの気持ちを持っていた私がどうして彼を責められるだろう。
「カトリーナ」
「っ……大神官様?」
突然声をかけられたことに驚き、カトリーナは思わず手に持っていた記録書を床に落とす。
「いけませんよ、ここにある本は貴重ですから。もっと丁寧に扱ってください」
「申し訳ありません」
慌てて拾おうとした私よりも先に腰をかがめた大神官のカイラス・ディーンがそれを手に取り埃を払った。
「聖女の記録ですか。貴女がこちらへ出入りするのは珍しいと思いましたが……何か気にかかることでも?」
「い、いいえ。ただ少し、私の前の聖女様のことを知りたかっただけです」
「そうですか。ジュリアナのことなら、私も長くはありませんが共にありましたから、私に聞きなさい」
(……そういえば大神官様は前の聖女様のときからずっと神殿に仕えているのだものね)
温和な表情でこちらを見る彼は、私にとっては幼い頃から父のような人でもあった。聖女としての教育は忙しい彼ではなく他の者がしていたけれど、人として当たり前のことはこの人が教えてくれた。いわく彼に付いてどこかを訪れた際に恥をかかないようにとのことだったけれど、なんとなく思惑はそのほかにある気がした。
「ありがとうございます。ところで大神官様はどうしてこちらに……」
「あぁ、そうでした。貴女を探しに来たのです」
「えっ?」
わざわざ貴方が?と驚いた私に、彼は困ったように目尻を下げて笑う。
「あまり人目につかないよう貴女にお会いしたいという方がいます。もし気が進まないようでしたら断りますが」
「どなたですか?」
「第一王子殿下です。なんでも昨夜、貴女と会う約束をしたとか」
「ルシウス殿下が?」
確かに会う約束のようなものはしたけれど、まさかこんなにも早く来るとは思わなかった。それに人目につかないようにだなんて。
「違うのですか?」
「い、いいえ、確かにそうお話しました。すぐに行きます」
「第二礼拝室にいらっしゃいます。人目に付かぬようにとのことですから他の者は下げておきますが、私は隣の部屋にいるので何かあれば呼びなさい」
「分かりました。ありがとうございます」
ふとレジスの言葉が頭に浮かぶ。ルシウス殿下が来たら知らせるよう言われたが──それは彼と話してからでもいいかと、私は振り払うように首を振って礼拝室へと向かった。
20
あなたにおすすめの小説
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
戦いの終わりに
トモ
恋愛
マーガレットは6人家族の長女13歳。長く続いた戦乱がもうすぐ終わる。そんなある日、複数のヒガサ人、敵兵士が家に押し入る。
父、兄は戦いに出ているが、もうすぐ帰還の連絡があったところなのに。
家には、母と幼い2人の妹達。
もうすぐ帰ってくるのに。なぜこのタイミングで…
そしてマーガレットの心には深い傷が残る
マーガレットは幸せになれるのか
(国名は創作です)
初めから離婚ありきの結婚ですよ
ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。
嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。
ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ!
ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。
モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します
みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが……
余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。
皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。
作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨
あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。
やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。
この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。
いや、無理。 (本編完結)
詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
細かいことは気にせずお読みください。
一旦完結にしましたが、他者視点を随時更新の間連載中に戻します。
もはや定番となった卒業パーティー、急に冷たくなって公の場にエスコートすらしなくなった婚約者に身に覚えのない言い掛かりをつけられ、婚約破棄を突きつけられるーーからの新しい婚約者の紹介へ移るという、公式行事の私物化も甚だしい一連の行動に、私は冷めた瞳をむけていたーー目の前の男は言い訳が終わると、
「わかってくれるだろう?ミーナ」
と手を差し伸べた。
だから私はこう答えた。
「いや、無理」
と。
私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ
みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。
婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。
これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。
愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。
毎日20時30分に投稿
悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。
しぎ
恋愛
カーティア・メラーニはある日、自分が悪役令嬢であることに気づいた。
断罪イベントまではあと数ヶ月、ヒロインへのざまぁ返しを計画…せずに、カーティアは大好きな読書を楽しみながら、修道院のパンフレットを取り寄せるのだった。悪役令嬢としての日々をカーティアがのんびり過ごしていると、不仲だったはずの婚約者との距離がだんだんおかしくなってきて…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる