夫に離縁が切り出せません

えんどう

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 カレンがなんだか使用人たちの様子がおかしいことに気が付いたのは、アレクがいることが当たり前になってから少し経ってのことである。
「私は何か粗相でもしてしまったかしら」
 あまりに余所余所しいメイドの態度に尋ねれば、彼女たちは困ったような顔をして顔を見合わせた。
(…なに?なんだか嫌な空気ね)
 とは言っても古参の使用人からそういった空気を感じることは滅多にないし、感じるのはほとんど新しく配属された者ばかりだ。
 この家に仕える侍女は大抵が下位貴族の令嬢であるのだが、それにしたってあまりに態度が悪いのではないだろうかと思ってしまうのも仕方ないほどに居心地が悪い。
 カレンが来た途端にコソコソ話していたのをやめる。例えそれが今まで通り、使用人たちの主人がいない間に駄弁っているだけならば良かった。だが明らかに違うとやや人の目や悪意に鈍感なカレンでも気付く程度には酷いものなのだ。
「お母様!」
 侍女たちの返答を待っていた私にゼノが笑顔で駆け寄ってくる。
「どうしたの?」
「アレクさんと庭に出ても良いですか?僕が庭師さんと育てたお花を見て頂きたくて!」
「えぇ勿論、いいわ…」
 いいわよ、と言いかけてそこでようやく気付く。そういえば彼女たちがなんだか余所余所しいのはアレクの話題が出た時だけであることに気付いたからだ。
 何が問題か、そんなのは考えなくとも分かった。突然怪我だらけで転がり込んできた男が当たり前のように生活の一部になったことが気に食わないというか、不思議というか、とにかく納得できないのだろうなとカレンは呑気に考える。
「お母様?どうかしましたか?顔色が悪いですが体調でも悪いのですか?」
 心配そうに眉を下げた息子になんといえばいいのか分からず困っていると、どうやら様子を見ていたらしいアレクがこちらに向かって歩いてきた。
「カレン」
 あぁやっぱり。疑惑は確信へと変わる。というか仮にもこの家に仕えているのならもう少し胸の内を隠せるようになって欲しいと思うのは傲慢なことなのだろうか。
「アレク、ゼノのことをよろしくね。ゼノ、アレクをあまり困らせては駄目よ?怪我人なのだから」
「はいお母様!」
「おいおい、もう怪我はほとんど治ったっての。いつまで俺のこと怪我人扱いする気だよ」
 呆れた眼差しを向ける彼に、そんな目を向けたいのはこちらの方だと言いたくなる。あれほど酷い怪我だったのにこんな短期間で起き上がる方がおかしいのだ。歩き回った彼を見た医者の奇妙な顔が忘れられない。
 去っていく二人を見送って、顔を見合わせるメイド二人にさてどうしたものかとカレンはため息を吐いた。
 事態がカレンが考えるよりもずっと深刻であることに、気付かなかった。
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