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11,王子様の気遣い
しおりを挟む馬車が城の敷地内に近付き、馬車が一時停止する。
王子が窓を開け、城の衛兵に声をかけた。
「後ろからもう一台来る。俺の客人だから通してくれ」
「はっ、承知しました!」
ビシッと敬礼を決めた衛兵だったが、馬車の中にシャルロットがいることに困惑している様子だった。
「それにしてもアイツ、あんなに窓から身を乗り出してよく落ちなかったな」
「…そうですわね」
ため息をついて、シャルロットは目を瞑る。色々と考えることが多すぎて頭痛が酷い。
やがて再度馬車が動き出し、城の裏口扉の前で止まった。
王子が降りたので、それに続けようにシャルロットも馬車を降りる。ふと後ろを見ると、続いてやってきた馬車からアルフレッドが慌ただしく降りてきたのが見える。
「すまないが、周りに見られたらうるさそうだからな」
「お気遣い痛み入ります」
頭を下げたシャルロットの言葉を遮るように、アルフレッドが大声で近付いてきた。
「王子!!」
「あぁ。ちゃんと通れたみたいだな」
「これはどういうことですか!?どうしてシャルロット、君が王子の馬車に…!」
すごい剣幕で詰め寄る婚約者に、シャルロットはにっこりと笑って返した。もう後には引けないと頭の中に言葉が渦巻く。
「丁度良かったですわ、アルフレッド様」
「よかった?なにが?僕が見つけていなかったら、今頃二人で何をしていたんだかっ…!」
この態度だけで十分王族に対する無礼なのだけれど、それに気付いていないのか、はたまた王女に庇ってもらうつもりでいるのか。
「帰るぞ!」
腕をぐいっと引かれたが、その反対の手を王子に引かれた。
「待てよ、アルフレッド。シャルロットは俺の客人だ。それを勝手に連れて帰るのは無礼だろう?」
「…お言葉を返すようですが、人の婚約者を勝手に連れ込むのはどういう了見か」
「合意の上だ。なぁ?」
尋ねられ、大きく頷く。アルフレッドの瞳がゆらゆらと揺らいでいるように見えて、何だか胸が痛くなった。けれどこうなったのも全て貴方のせい。
「というかお前、王族の馬車を尾けるなんてよくやったな。一歩間違えれば大問題だぞ」
レオンの話したそれは、シャルロットも思っていたことだ。例え敵意なくしたとしても、許可もなしに付け回すようなことがあれば問題だ。それがこの国での常識なのだ。
「…それは、…ですが、」
「まぁいい。俺とシャルロットからお前に話があったんだ。ついてこい。…命令だ」
くいっと顎で指示するレオンが何となく様になっていて、シャルロットはほんの少し笑ってしまう。
彼は、己が王族であることを嫌がっていた。初めから決められた人生を歩むことを苦痛に感じていると、かつて言っていた。けれどそんな彼が、私のためにこうして自分の権力を駆使して、私の希望を出来るだけ叶えようとしてくれている。
その気遣いが、ただ嬉しかった。
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