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12,チープな三流芝居
緊張感漂う部屋では、テーブルを囲むように四つの椅子が置いている。そのうちの三つが埋まったが、残り一つは未だ埋まらない。
レオンが王女へ使いをやってからもう随分と時間が経つ。その間にもアルフレッドは何度もこちらを問い質してきた。
「どういうこと?何故王女を呼ぶ必要が?」
その様子は焦っているようにも苛立っているようにも見えて、何を考えているのか分からない。
「…アルフレッド様。王女様が来たらお話ししますから、」
「だからどうして待たないといけない?なんの話をするっていうんだ!」
全くの別人のようだと思う。いつも無口で、無愛想で、相槌を打つも首を動かすしかしなかった彼が、こんなにも饒舌になる。
「まぁ待て。そんなに焦って、何か困ることでも起こると思っているのか?」
冷たい視線で王子が一蹴すると、コンコンと扉がノックされた。
「……お兄様、お呼びですか?」
可愛らしい声に、レオン王子がスッと立ち上がって扉を開けた。
「随分と遅かったな?まぁいい、入れ」
「失礼しま、……」
王女が部屋に踏み込み、中に入った瞬間。王女の目が、これでもかというくらいひん剥かれた。
「な、な、ど、」
「…どうした、アリアナ。そんなに吃って」
「お兄様、これはどういうことですか!?アルフレッドがいるなんて、そんなこと一言も…!」
「何故わざわざそんなことを言う必要がある?恋人がここにいたくらいで驚くことか?」
その言葉が出て、シャルロットは出来るだけ自然にアルフレッドの方を見る。けれど不可解そうな顔は変わらなくて。
「だからそれはっ!」
「いいから座れ」
「お兄様、とりあえず私と二人でお話を、」
「座れ」
低く響いた声に、王女はグッと息を飲んで渋々といった風に座る。
「…レオン王子、王女様が来たらと言っていましたが、何かあるなら早く話していただけませんか。僕もこの後、シャルロットと二人で話す時間が要りますので」
ギッとこちらを睨み付ける彼に、シャルロットはくすくすと笑ってしまった。必要な者は揃ったのだし、手早く終わらせてしまえばいい。
「アルフレッド様、そんな必要はありませんわよ。だって私たち、ここで終わりですもの」
「…なに?」
椅子に座らず立ったままでいたレオンが、シャルロットに近付いて後ろから肩を抱く。
「婚約を解消しましょう?」
レオンの手に手を添えながら、固まってしまった婚約者に語り掛ける。
「王女様から聞いたわ、貴方達の関係。別にそれはいいことだと思うのよ。だからもっと早く言って欲しかったけれど、仕方ないわね。王女様が仰ってたわ、どれほど貴方が王女様を愛しているか」
声が震えそうになったけれど、ぐっと抑えて手に力を込める。背後に立つ味方も、同じように握ってくれた。
「私も、レオン王子と恋人関係にあるの。だから負い目なんて感じる必要はないのよ。そんな必死に隠さなくても、」
気にしなくていいの。そう告げ終わるよりも先に、王女の甲高い声が響いた。
「まぁ可哀想なアルフレッド!婚約者に浮気されてたなんて!貴方の気持ちを無碍にするなんて最低ね!」
「……は?」
お前がそれを言うのか。なんて、令嬢らしからぬ思想が頭を占めていく。
「大丈夫よ、アルフレッド。私は何があっても貴方の味方よ!まぁ大変、顔色がとても悪いわ!医師を呼びましょう!お兄様、失礼しますわね!」
ぐいぐいと慌ただしくアルフレッドの腕を引く王女だが、アルフレッドは立ち上がりもせずただ呆然とそこに座っていた。
「アルフレッド、行くわよ!」
「…あの、王女様」
シャルロットが声をかけるも、キッと睨み付けられた。
「話しかけないで頂戴!貴女がアルフレッドを傷付けたこと、私は絶対に許さない!あぁ可哀想。アルフレッド、私はそばにいるわ」
まるで三流のチープな劇でも見ているような気分だった。傷付けたもなにも、私を呼び出してアルフレッドと恋仲だと告げ、婚約破棄まで迫ったのはそちらではないか。
鬱陶しい芝居をする王女にも、黙ったまま何も言わない彼にも、段々と気持ち悪くなっていった。
「心配しないで。アルフレッドは私が貰いますッ!」
「…はぁ、そうですか」
心配などしていないけれど、と鼻で笑いそうになったシャルロットだったが、すくっと立ち上がったアルフレッドに見つめられ、目が離せなかった。
「……そう、浮気してたんだ。王子と恋人なんだ?」
確かめるように反芻され、戸惑いながらも頷く。
「…あの、アルフレッド様?」
ゆらりと歩いてこちらに来た彼が、にっこりと笑って私の両頬に手を当てた。
「さっきから話の流れが掴めないけれど、僕が愛しているのは君だけだよ。だから君が王子と恋人だろうがなんだろうが、関係ない。君との婚約をなかったものにする気はないよ。君の心がどこにあっても、僕は君の夫となるんだ」
そう言ったアルフレッドの瞳は、暗く淀んでいた。
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