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第4話:辺境伯様からの願い
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「アタシは先代様からディア坊主を取り上げたんだよ。びゃーびゃーうるさいのなんの。巷では“極悪非道の辺境伯”なんて大層な名前で呼ばれてるけどね、アタシにとってはただの青臭いガキだよ」
「……オールド、私はこれでも辺境伯なんだが」
「うるさいね、アンタなんかアタシがいなきゃ生まれてないんだよ」
どうやら、オールドさんの方が立場が上みたいだった。
「まぁ、それはさておき赤ん坊がいないか確かめようね。手で触るだけだから安心しな」
「はい、お願いします」
オールドさんのストレートな物言いはむしろ安心した。
横になってお腹を出すと、オールドさんが撫でてきた。
彼女の手は柔らかくて優しい。
なぜか辺境伯様は目を背けていた。
そうか、私みたいな下々の者のお腹なんか見たくないものね。
「ふむ……大きな怪我はしていないみたいだね。じゃあ、ちょっとあったかくなるよ、<イグザム>」
オールドさんが呪文を唱える。
その両手が黄色く光った。
お腹を触られるとじんわり温かい。
オールドさんはしばらく私のお腹を撫でていたけど、その表情は硬かった。
「どうだ、オールド。彼女は妊娠しているのか?」
「……ああ、そうだね。ディア坊主、キュリティは妊娠してるよ」
「そうか……やはり、子が宿っていたか……」
「う、うそ……」
妊娠していると言われ絶句した。
わ、私が辺境伯様の御子を懐妊してしまうなんて……。
どうしたらいいのかまったくわからず、頭の中が真っ白になった。
オールドさんは硬い表情のまま話を続ける。
「……そして、それだけじゃないみたいだね。ディア坊主の魔力がキュリティの中で増幅しているよ。きっと、霊力と一緒に魔力も宿っちまったんだろう」
「魔力の増幅とは……どういうことでしょうか?」
「文字通りの意味さ。定期的に発散しないと体が苦しくなっちまう。腹に意識を集中してみな。いつもより魔力を強く感じるはずだよ」
言われた通り、お腹に意識を向ける。
たしかに、魔力がくすぶっているような感じがした。
「私としたことが本当に申し訳ない。大変に迷惑をかけてしまったな。謝ってすむ問題ではないが謝らせてくれ」
辺境伯様は深く頭を下げて謝ってくれた。
見せかけではない。
私のような下級の者でも、真剣に謝ってくれている。
「い、いえ、私の方こそあんなところを歩いていて申し訳ありませんでした」
「……なに?」
私も同じく頭を下げて謝った。
そもそも、私が隠れるように歩いていたのが悪いのだ。
もっと自分の存在をアピールしていれば、この事態は回避できたかもしれない。
「いや、君はまったく悪くないんだ。全て私の責任だ」
「辺境伯様……」
辺境伯様が謝っているのは保身のためなどではない。
心の底から申し訳なく思っているのだ。
その態度だけで伝わってくる。
そして、辺境伯様のお顔を見ていると自然に言葉が出てきた。
「実は私……婚約破棄されてしまったんです」
「「……なんだって」」
そのまま、流れるように今までの出来事を話した。
シホルガに画策されたことや、保安検査場での仕事を見下されていたこと……。
辺境伯様とオールドさんは静かに聞いてくれていた。
もちろん、笑われるようなことはまったくなかった。
「……そんなことがあったのか。その二人は処罰しないとな。私の方から話を通しておこう」
「……ムカつく男と女だね。アタシがぶん殴ってきてやるよ」
私たちはまだ出会って間もない。
だけど、少しずつ辺境伯様のことがわかってきたような気がする。
そして、辺境伯様はさらに言い出しにくそうに言った。
「そこで、私から君にお願いがある。このような話をした後で申し訳ないが、君を思うとこれが一番良い気がするんだ」
「はい、お願いでございますか? なんでしょうか?」
「お願いというのは他でもない。私と…………私と夫婦になってくれないか?」
「……オールド、私はこれでも辺境伯なんだが」
「うるさいね、アンタなんかアタシがいなきゃ生まれてないんだよ」
どうやら、オールドさんの方が立場が上みたいだった。
「まぁ、それはさておき赤ん坊がいないか確かめようね。手で触るだけだから安心しな」
「はい、お願いします」
オールドさんのストレートな物言いはむしろ安心した。
横になってお腹を出すと、オールドさんが撫でてきた。
彼女の手は柔らかくて優しい。
なぜか辺境伯様は目を背けていた。
そうか、私みたいな下々の者のお腹なんか見たくないものね。
「ふむ……大きな怪我はしていないみたいだね。じゃあ、ちょっとあったかくなるよ、<イグザム>」
オールドさんが呪文を唱える。
その両手が黄色く光った。
お腹を触られるとじんわり温かい。
オールドさんはしばらく私のお腹を撫でていたけど、その表情は硬かった。
「どうだ、オールド。彼女は妊娠しているのか?」
「……ああ、そうだね。ディア坊主、キュリティは妊娠してるよ」
「そうか……やはり、子が宿っていたか……」
「う、うそ……」
妊娠していると言われ絶句した。
わ、私が辺境伯様の御子を懐妊してしまうなんて……。
どうしたらいいのかまったくわからず、頭の中が真っ白になった。
オールドさんは硬い表情のまま話を続ける。
「……そして、それだけじゃないみたいだね。ディア坊主の魔力がキュリティの中で増幅しているよ。きっと、霊力と一緒に魔力も宿っちまったんだろう」
「魔力の増幅とは……どういうことでしょうか?」
「文字通りの意味さ。定期的に発散しないと体が苦しくなっちまう。腹に意識を集中してみな。いつもより魔力を強く感じるはずだよ」
言われた通り、お腹に意識を向ける。
たしかに、魔力がくすぶっているような感じがした。
「私としたことが本当に申し訳ない。大変に迷惑をかけてしまったな。謝ってすむ問題ではないが謝らせてくれ」
辺境伯様は深く頭を下げて謝ってくれた。
見せかけではない。
私のような下級の者でも、真剣に謝ってくれている。
「い、いえ、私の方こそあんなところを歩いていて申し訳ありませんでした」
「……なに?」
私も同じく頭を下げて謝った。
そもそも、私が隠れるように歩いていたのが悪いのだ。
もっと自分の存在をアピールしていれば、この事態は回避できたかもしれない。
「いや、君はまったく悪くないんだ。全て私の責任だ」
「辺境伯様……」
辺境伯様が謝っているのは保身のためなどではない。
心の底から申し訳なく思っているのだ。
その態度だけで伝わってくる。
そして、辺境伯様のお顔を見ていると自然に言葉が出てきた。
「実は私……婚約破棄されてしまったんです」
「「……なんだって」」
そのまま、流れるように今までの出来事を話した。
シホルガに画策されたことや、保安検査場での仕事を見下されていたこと……。
辺境伯様とオールドさんは静かに聞いてくれていた。
もちろん、笑われるようなことはまったくなかった。
「……そんなことがあったのか。その二人は処罰しないとな。私の方から話を通しておこう」
「……ムカつく男と女だね。アタシがぶん殴ってきてやるよ」
私たちはまだ出会って間もない。
だけど、少しずつ辺境伯様のことがわかってきたような気がする。
そして、辺境伯様はさらに言い出しにくそうに言った。
「そこで、私から君にお願いがある。このような話をした後で申し訳ないが、君を思うとこれが一番良い気がするんだ」
「はい、お願いでございますか? なんでしょうか?」
「お願いというのは他でもない。私と…………私と夫婦になってくれないか?」
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