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第27話:街

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「これがアドラントのお祭りですかぁ。想像していた以上に大きいですね」
「このお祭りは毎年みな楽しみにしていますからね。年々規模が大きくなってきたのです」

 私たちはアドラントの街の大広場に来ていた。
 そこら中から、バグパイプやオルガンのなどの楽器が奏でる柔らかな音楽が奏でられている。
 何人もの踊り手が精霊のように踊っていた。
 ヒラヒラとした飾りが宙に舞い、一度見たら目が離せないほどに美しい。
 
「わぁ……キレイな踊り」
「あれはアドラント伝統の踊りでございますね。お祭りのときに舞うことで、神への祈りを捧げているのです」

 そして、お祭りは踊りだけではなかった。
 右も左も多種多様な屋台が並んでいる。
 食べ物やカラフルなお菓子を売るお店だったり、ポーションや剣などの武器を売っているお店もあった。
 わいわいとお客さんで賑わっていて、通りは活気で満ちあふれている。

「お店もたくさんあるんですねぇ。どれも領民さんたちがやっているんですか?」
「ほとんどそうでございますね。中には行商人もいますが」
「私もいつかお店やってみたいです」

 不意に、甘じょっぱくて美味しそうな匂いがしてきた。
 匂いがしてきた方を見ると、お肉の固まりが焼かれている。
 あれはワイルドピッグの丸焼きかな。
 フローズさん好きそう……。

「なんだか見てたらお腹空いてきちゃいました」
「では、少し早いですがお昼ご飯にしますか? 空腹はお身体によくありませんので」
「ありがとございます、バーチュさん」
「なるべくお身体に良い物を選びましょう」
 
 バーチュさんと一緒に屋台を見て回る。
 どれから食べればいいのか迷ってしまうくらいたくさんの食べ物が売っていた。
 たっぷりのチョコレートがかかったパイ、お肉と野菜と一緒に煮込んだ豆のスープ、アメジストのように輝いているぶどうジュース……。
 特にお料理屋さんが多いみたいだ。
 眺めながら歩いていたら、ちょうどパンが焼き上がったお店があった。
 こんがりとした香ばしい香りが漂ってくる。

「バーチュさん、あそこのパン屋さんはどうですか?」
「いいですね。行ってみましょう」

 ということで、さっそくパン屋さんの前に来た。
 店主さんは見るからに力がありそうな男の人だ。
 私たちに気づくと、元気よく挨拶してくれた。

「いらっしゃい、お嬢さん方! 焼きたてのパンが揃っているよ!」
「こんにちは。美味しそうな匂いがしたので来ちゃいました。どんなパンが売っているんですか?」
「そいつは嬉しいことを言ってくれるねぇ! ロブスターのサンドイッチだったり、チキンを挟んだパン、特製ドライフルーツのパンだってあるよ!」

 屋台にはたくさんのパンが並んでいる。
 食欲をそそるしょっぱそうなパンや、疲れを癒してくれそうに甘そうなパン……お腹がどんどん空いてくる。
 目の前で見るとさらに美味しそうだなぁ。

「ここで売っているお料理って、アドラントの物なんですか?」
「ああ、そうだよ。この辺りは食物が豊富だからね。ほぼ地元の食材さぁ。これもディアボロ様のおかげってもんだな」
「え? ディアボロ様ですか?」
「そうさ。アドラントは魔族領に近いのに、俺たちを見捨てずに開拓してくれているんだからな」

 店主さんは街を見て、うんうんとうなずいている。
 やっぱり、ディアボロ様は立派な方なんだ。
 まるで自分が褒められているかのように嬉しい。
 ほんわかしていたら、お腹が鳴る音で我に返った。 
 どのパンにするか決めないと。
 ロブスターもチキンも捨てがたいけど、やっぱりフルーツのパンが気になる。

「じゃあ、私はドライフルーツのパンにします。すごくキレイだし美味しそうなので」
「それでは、私はロブスターのサンドイッチを頂きましょう」
「了解! 今包むから待っててくれな! お金は銅貨三枚ずつ頂戴ね!」

 店主さんはせっせとパンを包んでくれる。
 そうだ、お金を払わなきゃ。
 ガサゴソとポケットから小さな袋を出す。
 王宮から追い出されたとき、僅かだけどお金を持ってきていた。
 こういうときくらいは自分で出さないとね。
 店主さんに渡そうとしたらバーチュさんに止められた。

「奥様、ここは私が払います」
「えっ……いや、ダメです。そこまでお世話になってしまっては申し訳ないです」
「いいですから。奥様には不自由させないように……という、ディアボロ様のご命令でございます」
「そ、そうですか……」
 
 やっぱり申し訳ない気持ちになってしまう。
 そうこうしているうちに、パンの用意が終わったようだ。
 店主さんがずいっと突き出す。
 
「はい、お待ち!」
「お代はこちらでお願いいたします」
「ちょうどだね! ありがとさん! 噴水の前は人が少なくておすすめだよ!」
「わかりました、ありがとうございます!」

 店主さんにお礼を言ってお店から離れる。
 手に持ったパンからは良い匂いが湧きたっていた。
 食べるのが楽しみだなぁ。
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