「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています

第２９話：お土産①

「みなさんにはどんなお土産がいいか悩んでしまいます」
「奥様からのプレゼントならば、どんなものでも嬉しいと存じます」

　その後、私とバーチュさんは屋台を練り歩いていた。
　お屋敷のみんなへのプレゼント探しだ。
　何を買って帰ろうか、あれこれ考えるのは楽しい時間だった。
　まずは、フローズさんのお土産だ。
　これはすぐに決めることができた。

「フローズさんには、ワイルドピッグの丸焼きを買っていってあげようかなと思います。全部は無理なので一人分だけですが」
「ええ、私もそれがよろしいかと。お屋敷ではなかなか出てこないお食事ですので、フローズ様も喜ばれると思います」
「あと、お土産代は私に払わせてください」
「いやしかし、奥様に払っていただくわけにはいきません。お金ならいくらでもございますので」

　バーチュさんはどこからか大きな袋を取り出す。
　中には金貨がぎっしり入っていた。
　す、すごいたくさんのお金だ。
　圧倒されそうになったけど、負けないように言う。

「お願いします。皆さんに日頃の感謝を少しでも伝えたいんです。私は本当に良くしてもらっていますので」
「……そこまで言われては仕方ありませんね。では、お土産代だけは奥様がお支払いするということで」
「ありがとうございます！」
「もし足りなくなったら私が払いますからね」

　バーチュさんはう～ん、と渋い顔をしていたけど納得してくれた。
　そうこうしているうちに、ワイルドピッグの丸焼きを売っているお店に来た。
　さっきお昼ご飯を食べたばかりなのに、もうお腹が空いてきてしまう。
　今度はふくよかな女性の方が店主さんのようだった。
　　　
「あら、いらっしゃい。この丸焼きは絶品だよ。王宮の晩餐会に出しても人気が出るだろうね」
「匂いだけでも美味しいのがわかります。つられて来てしまいました。一人分いただけますか？」
「ああ、もちろんだよ。お嬢ちゃんは見る目があるねぇ。少し安くしといてあげよう。本当は銅貨三枚だけど二枚でいいよ」
「ええ、いいんですか！？　ありがとうございます！」

　お金を払い、丸焼きを一人分もらった。
　入れ物はホカホカと温かい。
　特別な魔法が込められているみたいだ。
　これなら温かいままお屋敷に持って帰れそうだ。

「よかった、フローズさんのお土産が買えました」
「大喜びしている顔が目に浮かびます」