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第26話:任務
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瘴気病の一件が落ち着いてから、二日目の深夜。
ネオンがブリジットの抱き枕になりながらすやすやと寝ているとき、領地からこっそりと離れていく人影があった。
エルストメルガ帝国の難民兼スパイのルイザだ。
片手に持つは<至宝の鍬>。
彼女は領地から十分に離れたのを確認すると、帝国の国境を目指し音もなく、しかし素早く走り出した。
分厚い雲が一瞬途切れ、わずかな月明かりに照らされた表情は険しい。
(……すまん、ネオン。命を救ってくれた恩を仇で返すような真似をして……。……だが、これがあたしの任務なんだ)
ネオンについての情報を報告したところ、本国から神器の入手を求められた。
当然と言えば当然である。
自分たちの命を救ったエリクサーは使い切ってしまったので、<至宝の鍬>に目的を定めた。 大人数で行動すると目立つので、部下は領地にて待機。
ルイザ単独での決行だった。
今宵は雲が分厚く、月明かりもほとんどない。
絶好の決行日和だと判断した。
(国境まで行けば、帝国の仲間に神器を渡せる)
神器を渡し、また帰ってくるまでに二時間はかかるだろう。
できることなら、なるべく早く帰ってきたい。
ネオンは勝手に持ち出すと制裁が与えられるという話をしていたが、ルイザには耐えられる自信があった。
(あの口ぶりから考えると、おそらく即死の危険はない。死より辛い苦しみでも、あたしなら絶対に耐えられる)
ルイザは最初の自己紹介で話した通り、帝国の有名な拳闘士であった。
正式な所属は、帝国騎士団独立遊撃隊の隊長だ。
唯一素手で敵と戦い、今まで何体もの"個体名"が付与された強力な魔物を討伐し、いくつもの街や都市を救ってきた。
階級は伝説級。
自分の鍛え抜かれた肉体では、どんな"制裁"にも耐えられると確信していた。
スタンピ-ドの鎮圧では常人なら出血多量で死ぬ状況でも生き存え、100m上空からの落下にも耐え、この土地特有の密度が濃く強烈な瘴気にも耐えたのだから。
さらに、"捨てられ飛び地"での任務を拝命してからは、身体強化の重い訓練を積んだ。
水深数十mに潜り数時間も水圧を耐え、超上級の魔物ですら致命傷になるような毒霧を何日も浴び続け、彼女の肉体は何段階も強靱になった。
今が人生の全盛期だと思いながら、ネオンから500m離れた瞬間、落雷が直撃したかのような衝撃が駆け巡った。
「……かっ」
衝撃で身体が動かなくなり、ルイザは地面に崩れ落ちる。
大切な鍬を放り出してしまったが、拾いに行くことはできない。
立ち上がることさえできないのだ。
(いった、い……な、にが……)
耳は甲高い金属に襲われ、目の奥は閃光が弾け、心臓は今にも破裂しそうなほど鼓動する。 古龍の巨大な足で踏みつけられているような、何tもある巨岩がのし掛かっているような、それとも深海に沈み込まされたような、途方もない圧力に襲われていた。
今まで感じたことのない苦しみと辛さに、全身が破壊されそうだ。
かろうじて身体に意識を巡らせ、実際に筋肉や内臓が潰されてはいないとわかった。
ルイザは確信した。
(こ、れ……が、制裁……)
何か、絶対的に抗えない力。
それが制裁だったのだ。
肺の中の空気が押し出される。
呼吸さえ碌にできなくなり朦朧とする意識の中で、ルイザはたった一つの運命が近づいていることを察した。
(……ああ、あたしは死ぬのか)
過去、帝国のためどんなに困難な任務も完璧にこなしてきた。
志半ばで息絶えるのは至極無念であり、それと同等かそれ以上に強い焦燥感や不安、恐れを覚える。
(この状況をネオンが見たら……どう思うだろうか……)
おそらく……というよりほぼ絶対、神器を盗み出そうとしたと思うだろう。
彼は領民に化けた自分たちが快適に暮らせるように、子どもの身ながら毎日一番働いてきた。
瘴気病から命を救ってくれた。
そんなネオンに、恩を仇で返した盗人として思われて死ぬ……。
あまりにも虚しくて悲しくて辛い。
ルイザの瞳から一筋の雫が零れた。
ネオンがブリジットの抱き枕になりながらすやすやと寝ているとき、領地からこっそりと離れていく人影があった。
エルストメルガ帝国の難民兼スパイのルイザだ。
片手に持つは<至宝の鍬>。
彼女は領地から十分に離れたのを確認すると、帝国の国境を目指し音もなく、しかし素早く走り出した。
分厚い雲が一瞬途切れ、わずかな月明かりに照らされた表情は険しい。
(……すまん、ネオン。命を救ってくれた恩を仇で返すような真似をして……。……だが、これがあたしの任務なんだ)
ネオンについての情報を報告したところ、本国から神器の入手を求められた。
当然と言えば当然である。
自分たちの命を救ったエリクサーは使い切ってしまったので、<至宝の鍬>に目的を定めた。 大人数で行動すると目立つので、部下は領地にて待機。
ルイザ単独での決行だった。
今宵は雲が分厚く、月明かりもほとんどない。
絶好の決行日和だと判断した。
(国境まで行けば、帝国の仲間に神器を渡せる)
神器を渡し、また帰ってくるまでに二時間はかかるだろう。
できることなら、なるべく早く帰ってきたい。
ネオンは勝手に持ち出すと制裁が与えられるという話をしていたが、ルイザには耐えられる自信があった。
(あの口ぶりから考えると、おそらく即死の危険はない。死より辛い苦しみでも、あたしなら絶対に耐えられる)
ルイザは最初の自己紹介で話した通り、帝国の有名な拳闘士であった。
正式な所属は、帝国騎士団独立遊撃隊の隊長だ。
唯一素手で敵と戦い、今まで何体もの"個体名"が付与された強力な魔物を討伐し、いくつもの街や都市を救ってきた。
階級は伝説級。
自分の鍛え抜かれた肉体では、どんな"制裁"にも耐えられると確信していた。
スタンピ-ドの鎮圧では常人なら出血多量で死ぬ状況でも生き存え、100m上空からの落下にも耐え、この土地特有の密度が濃く強烈な瘴気にも耐えたのだから。
さらに、"捨てられ飛び地"での任務を拝命してからは、身体強化の重い訓練を積んだ。
水深数十mに潜り数時間も水圧を耐え、超上級の魔物ですら致命傷になるような毒霧を何日も浴び続け、彼女の肉体は何段階も強靱になった。
今が人生の全盛期だと思いながら、ネオンから500m離れた瞬間、落雷が直撃したかのような衝撃が駆け巡った。
「……かっ」
衝撃で身体が動かなくなり、ルイザは地面に崩れ落ちる。
大切な鍬を放り出してしまったが、拾いに行くことはできない。
立ち上がることさえできないのだ。
(いった、い……な、にが……)
耳は甲高い金属に襲われ、目の奥は閃光が弾け、心臓は今にも破裂しそうなほど鼓動する。 古龍の巨大な足で踏みつけられているような、何tもある巨岩がのし掛かっているような、それとも深海に沈み込まされたような、途方もない圧力に襲われていた。
今まで感じたことのない苦しみと辛さに、全身が破壊されそうだ。
かろうじて身体に意識を巡らせ、実際に筋肉や内臓が潰されてはいないとわかった。
ルイザは確信した。
(こ、れ……が、制裁……)
何か、絶対的に抗えない力。
それが制裁だったのだ。
肺の中の空気が押し出される。
呼吸さえ碌にできなくなり朦朧とする意識の中で、ルイザはたった一つの運命が近づいていることを察した。
(……ああ、あたしは死ぬのか)
過去、帝国のためどんなに困難な任務も完璧にこなしてきた。
志半ばで息絶えるのは至極無念であり、それと同等かそれ以上に強い焦燥感や不安、恐れを覚える。
(この状況をネオンが見たら……どう思うだろうか……)
おそらく……というよりほぼ絶対、神器を盗み出そうとしたと思うだろう。
彼は領民に化けた自分たちが快適に暮らせるように、子どもの身ながら毎日一番働いてきた。
瘴気病から命を救ってくれた。
そんなネオンに、恩を仇で返した盗人として思われて死ぬ……。
あまりにも虚しくて悲しくて辛い。
ルイザの瞳から一筋の雫が零れた。
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