上 下
14 / 41

第14話:嫉妬

しおりを挟む
「……ここが例のAランクダンジョン“火柱の迷宮”か」

 小一時間ほど歩き、俺たちは目的地に着いた。
 森の奥にポツンとあるダンジョンだ。
 今は木陰から様子を窺っている。

〔やはり、雰囲気がありますね〕
〔陰気なとこ〕
「目的の秘薬はダンジョンの最下層にある……ってケビンさんが言ってたね」

 Aランクダンジョンには強いモンスターがうようよいる。
 ゴーレム、グレートウルフ、オーガナイト……例を挙げればキリがない。
 エイメスの時とは違ってここは現役のダンジョンだ。
 気を引き締めていかないといけないな。
 胸ポケットからコシーの険しい声が聞こえる。

〔ここにも色んな罠があるのでしょうか〕

 基本的に、ダンジョンには罠がある。
 魔法攻撃だったり、壁から槍が出てきたり、落とし穴があったり……散々冒険者たちを危険な目に遭わせてきた。

「Aランクだから強い罠がありそうだな。気をつけないと……」
〔見て見てぇ~、かわいいモンスターがいっぱいいるよ〕

 緊張する俺とコシーに対して、エイメスはダンジョンを眺めては無邪気に喜んでいた。
 入り口の周りには、Bランクのトレントやメタルワームがウロウロしている。
 こんなに数がいたら、ダンジョンに入るだけでも一苦労だろう。

「さすがはAランクダンジョンだ」
〔気をつけていきましょう〕
〔ねぇ、早く行こう~〕

 エイメスは何の迷いもなく進もうとする。
 ので、俺たちは慌てて引き留めた。

「ちょっと待って、エイメス。しっかり準備しておかないと」
〔えぇ~、そんなのいらないよぉ~〕
〔エイメスさん、マスターの言う通りです。相手はAランクとは言え油断してはいけません〕

 天真爛漫系なエイメスと、真面目でしっかりしたタイプのコシー。
 俺から見ても、これはかなり良いコンビだった。

〔マスター、私に魔力を〕
「そうだね」

 念のため、ダンジョンに入る前にコシーを大きくしておく。
 これでモンスターや罠に後れを取ることはないはずだ。

〔ありがとうございます、マスター〕
「これでよし。さぁ、行こうか」

 荷物も確認し、準備万端だ。
 しかし、いざダンジョンへ! というところで、コシーがまた余計なことを言ってしまった。

〔このダンジョンもマスターがテイムしたら、エイメスさんみたいになるのでしょうか〕
〔……なに、アイト。別のダンジョンの子が欲しいの?〕

 エイメスの目から光が消え、稲妻が迸る。

「ち、違うよ! そんなわけないでしょ! コシー、変なこと言わないでよ!」
〔エ、エイメスさん!? 何も、そういう意味で言ったわけでは……!〕

 俺らは必死に訂正した。
 だが、エイメスの耳にはもう届かなかった。
 両手をダンジョンにかざすと、勢いよく放つ。

〔アイトは私の物なんだから! 許さない!〕
〔「うわぁあっ!」〕

 彼女の激しい稲妻がダンジョンを駆け巡る。
 あまりの衝撃で、俺とコシーは吹き飛ばされてしまった。

『『ギャアアアッ!』』

 ダンジョンの周囲、そして中からモンスターの断末魔の叫びが響き渡る。
 周りを徘徊していたモンスターも、稲妻が触れた瞬間消し飛ぶ。
 あっという間に、ダンジョンは黒焦げになった。
 稲妻が消えると、不気味なほど静かになる。
 エイメスの実力を目の当たりにして、俺とコシーは震えあがった。

〔ふう、ヤキモチ焼いちゃった〕
「エ、エイメス……」
〔そ、そんな……〕
〔アイトは誰にも渡さないんだからね!〕

 ギュッ! とエイメスは抱きつく。
 その顔はいつもの明るい表情に戻っていた。

「う、うん、そうだね」
〔そ、そうですね〕

 もはや俺たちは、そうだね、としか言えなかった。
 エイメスに連行されるようにしてダンジョンに入る。
 一言で言うと、惨状が広がっていた。

「す、すごい……」
〔魔石や素材がいっぱいです……〕

 床一面に、魔石や素材が転がっていた。
 今回ばかりは、さすがにモンスターたちに同情する。
 せめて、苦痛が一瞬だったことを祈った。
 たぶん、ここで一生分の魔石や素材が手に入るのではないだろうか。

〔マスター、あれは何でしょう〕
「ん?」

 途中、罠だったと思われる残骸が、そこかしこに散らばっていた。
 中には非常に強い魔法陣もあったが、エイメスの攻撃に耐えられなかったんだろう。
 魔法陣ごとただの消し炭になっていた。
 ダンジョンの罠や仕掛けなども、全て焼き払ってしまったのだ。
 それも、たった一撃で。
 進めば進むほど、俺らは恐怖を感じる。

〔マ、マスター、宝箱がありますよ〕
「ほ、ほんとだ」

 通路の片隅にアイテムボックスがある。
 この惨状だ。
 俺は正直、秘薬を持って帰るのは諦めていた。

 ――この分だと、アイテムも黒焦げだろうな。ケビンさんになんて言おう。まさか、エイメスが嫉妬して……とか言えないよな。

 俺は恐る恐る箱を開ける。

「こ、これは……!」

 ……予想に反して、アイテムは無傷だった。
 Aランクの回復薬が手に入った。

〔アイトは秘薬をゲットしたいんでしょ? だから、アイテムは傷つけてないよ。ダンジョンだって壊れない程度に攻撃したんだから〕
「な、なるほど、ありがとう……」
〔さ、さすがでございます……〕

 確かに、ダンジョンは黒焦げだったが問題なく進める。
 天井や床が崩落することもなかった。
 モンスターのみ倒し、アイテムやダンジョンの構造には全くダメージを与えない。
 その冷静さがまた一段と怖かった。

〔ルンルンル~ン〕

 エイメスは機嫌よく歩く。
 少し離れてから、俺はそっと隣のコシーに言った。

「コシー、発言には気をつけようね……」
〔す、すみません、マスター。まさか、こんなことになるとは……〕

 最下層で秘薬を入手し、なんだかやるせない気持ちで帰路に就いた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結・R18】鉄道の恐怖

ミステリー / 完結 24h.ポイント:213pt お気に入り:70

大魔法師様は運命の恋人を溺愛中。

BL / 完結 24h.ポイント:624pt お気に入り:6,509

俺に7人の伴侶が出来るまで

BL / 連載中 24h.ポイント:3,757pt お気に入り:1,037

男装令嬢は騎士様の制服に包まれたい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:136

マッチングアプリで出会った男の秘密

BL / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:16

型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,174pt お気に入り:5,416

最後は一人、穴の中

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:13

硝子の魚(glass catfish syndrome)

BL / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:303

処理中です...