うちの猫が強すぎる!

シンカワ ジュン

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第四章 お猫様とご主人さま

お猫様は、嫌なことを我慢する覚悟を決める【ΦωΦ】

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     ΦωΦ

 あの後おいしいお魚をもらってから、アタシはジャルに抱えられておっきいおうちに戻ってきた。
 リオンはアタシたちに付いて来なかった。リオンはリオンのおうちに戻って、何かやることがあるらしい。ご主人さまを助けるためのことらしいから、アタシも引き止めずに見送ったわ。リオンが帰る時にアタシの頭を撫でてくれたんだけど、ちょっとぎこちなかったわね。まあ、雑じゃなかったからキューダイテンをあげるわ。

 そんなことを考えている間に、アタシはジャルたちに連れられて森の中にある建物に連れて来られた。確かここはデモナベスタガーデンってところじゃなかったかしら。最初はビョーインみたいなところなのかと思って身構えていたんだけど、チューシャとか無理やり薬を飲まされるとかはなかったから、まあ嫌な場所じゃないわね。

「変換器の準備は完了してるって連絡があったよ。だからスムーズに作業に入れるんじゃないかな」
「それはよかった。……マロンちゃん、作業の間は少しじっとしてもらわなければならないのですが、大丈夫ですか?」
「ニャン」

 アタシのあごを撫でながらジャルが聞いてきたから、いいわよって返事をする。アタシだって嫌なことをされなければじっとしていられるわよ。むしろアタシは遊ぶ時以外は結構じっとしているわ。寝てるともいうわね。
 ジャルはアタシの返事を聞いてホッと息をついた。もしかしてアタシが暴れるとでも思っていたのかしら? もうっ、失礼しちゃうわ。ご主人さまを助けるためにアタシだって全力なんだから、少し嫌なことをされるくらいは我慢できるわよ。

 サディとダニーが先に歩いて、ジャルはその後ろをついていく。アタシはそんなジャルに抱っこされているわ。ジャルは相変わらずあったかいし、腕の中も収まりがいいから快適ね。
 ……アタシがこうして落ち着いていられるのも、ジャルのお陰よ。ジャルがいなかったら、たぶん今頃子猫の時みたいに鳴いていたか、『すとれす』とかいうもので体調を崩していたかもしれないわ。こう見えてもアタシ、結構センサイなんだから。

 ジャルの腕の中で揺られてしばらくすると、いつかも見たことのある部屋にやって来た。ヘンテコなキカイみたいなものも相変わらずあるわ。だけど今日は、その時には見なかったものが置いてあった。
 これは何かしら? そんなに大きいものじゃないわね。昔『てれび』で見たテンビンみたいな形をしているわ。そのテンビンよりはずっと大きいけれど、これで何をするのかしら?
 アタシがそんなことを考えていると、ジャルがするりとアタシの頭を撫でて声をかけてきた。

「マロンちゃん、これが神力を魔力に変換する装置です。魔力に変換することで、神力の残滓を私たちでも感じ取ることができるようになります」

 何かしら、アタシには難しいことを言っているわ。

「リオンが言うには、ウォルフはマロンちゃんにわざと自分の神力をまとわせているそうです。自分の居場所が分かるように。あの男がこの世界のどこかにいるのならば、リオンから居場所を教えてもらうだけで良かったのですが……」
「あの性悪、異次元にいるっぽいからねぇ」
「リオン坊ちゃんも神王らしく強い力を持つとはいえ、異次元に移動するのは自分一人だけが限界だからなぁ」
「というか、そこらへんに関してはウォルフとジャルが異常なんだよ。そもそも異次元に行くことができる奴なんてそれこそ魔王と神王くらいなものなのに、それに加えてなんで何人も引き連れて次元を越えることができるのさ」

 サディが何か言いながらヘンカンキとやらを準備している。ふだんのぐうたら具合からしたら考えられないくらいテキパキと作業しているわ。ご主人さまが見たら「普段からこのくらいちゃんとしていればいいのに」って言いそうね。

 そうこうしている間にも準備ができたみたい。
 サディがジャルに「できたよ」って言うと、ジャルがまたアタシの頭を撫でた。

「マロンちゃん、それではしばらくこの台座の上でじっとしていてもらえますか? あなたに魔力を通すことになるので、もしかしたら少し体に負担があるかもしれませんが……」

 ジャルの眉がヘニョッて下がっている。こういうのを申し訳なさそうな表情って言うのかしら。
 でも、ちょっとだけ聞き捨てならない言葉が聞こえてきたわね。アタシの体に負担があるかもしれないって。もしかしてチューシャとかお薬を飲ませるとか、アタシが嫌いなことと同じようなことをするのかしら?
 ……嫌いなことは嫌。だけど、それがご主人さまを助けるために必要なら、しょうがないから我慢してあげる。

「ニャッ」

 短く返事をしたら、ジャルは眉をヘニョッとさせたまま少しだけ笑った。この笑い方、ご主人さまにもよく見せていたわね。

「マロンちゃん、ありがとうございます」

 ジャルは優しく言うと、アタシをそっと台座とやらに乗せた。
 肉球から伝わる台座の感触は固くてひんやりとしている。意外と広くてアタシが丸くなるにはちょうどよさそう。暑い日にここでお昼寝したら気持ちいいかもしれないわ。
 丸くなりたい気持ちをぐっとこらえて、アタシはお行儀良くお座りする。そんなアタシの背中にジャルは大きな手でそっと触れて口を開いた。

「今からマロンちゃんに魔力を流します。もしも辛くなったら……私の手を引っ掻いてください」

 そんなことを言われたけど、アタシはジャルを引っ掻くつもりはないわ。サディじゃないんだから。
 でも、これから行われることはもしかしたら本当に嫌なことかもしれない。アタシはマリョクとやらを流されることに対して、どれだけ辛くても我慢をするという覚悟を決めた。
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