59 / 66
第四章 お猫様とご主人さま
お猫様は、次元を移動する【ΦωΦ】
しおりを挟む
「それでは行きましょう」
ジャルの決意のこもった静かな声が広場に響き渡る。その言葉を聞いて、アタシを抱き上げてるダニー、そしていつもはちゃらんぽらんなサディも気を引き締めたのか真面目な表情を浮かべた。
「ボクらも用意はできてるよ。あとリオンにも連絡済み」
「俺も魔力強化薬を飲んできたからな、ウォルフの攻撃をいくらか防ぐくらいはできるぜ」
「え、あの魔力強化薬を飲んだんですか!?」
「おう。非常事態ってヤツだからな。副作用くらい安いもんだろ」
「……戻りましたら十分な休暇を取ってください」
「そいつはありがてぇな」
ジャルとダニーが軽口を叩き合っている。魔力強化薬とかいうものだけど、それがあんまりいいものじゃないのかしら? 副作用っていうのはそういうものよね? ご主人さまも合わない薬っていうのがあって、何度か病院に通っていたような記憶があるわ。その時はとても辛そうにしてたから、きっとダニーもこれから辛くなるのかしら。ちょっと気の毒だから、今度思う存分ふかふかさせてあげましょ。
アタシがそんなことを考えている間に、ジャルは何やら呟いて右手を掲げる。すると彼の手から赤い光が伸びて、空に不思議な紋様を描き出した。よく見たら、同じ模様が地面にも広がっている。
「転移陣、完成しました」
「相変わらずえっげつねぇ速度で転移魔法完成させるな、お前」
「褒め言葉として受け取っておきますよ。さて、全員陣の中に入っていますね? 場所が場所です、少々衝撃があるでしょうから身構えておいてください」
ジャルの言葉を受けてダニーの腕に力がこもる。ちょっと苦しいけれど、衝撃があるのならしょうがないわね。アタシもいつでも動けるように周囲を警戒しておかなくちゃ。
アタシたちの準備が整ったことを確認して、ジャルがまたも小さく何やら呟く。すると足元と空の模様がいっそう強く光り輝いた。
その時、ちょっと、というジャルの焦ったような声が聞こえてきた。
「ダニー、マロンちゃんまで連れて行く気ですか!?」
「あ、やっべ、忘れてた」
ダニーの間の抜けた声が聞こえたと思った次の瞬間、前にポータルとかいうのを使った時に感じたような浮遊感にひどい横揺れを追加したような衝撃が襲ってきた。
なるほど、これがジャルが言っていたやつね。
少し気持ちが悪い気もするけれど、衝撃とやらはすぐにおさまったわ。
アタシはほんの少し力が緩んだダニーの腕から抜け出してから軽く辺りの気配を探る。どうやら近くにご主人様とウォルフはいないみたいだから、体調を整えるためにググッと伸びをした。
それにしても、ここはどこなのかしら。見た感じ何もない殺風景な部屋ね。灰色の壁は冷たくて、これはたぶん金属なんじゃないかしら。SF映画とかいうやつで見たことがあるようなきがするもの。
部屋の中をうろついてみようかと考えたその時、アタシの体を大きな手が抱き上げた。
「マロンちゃん! こんな得体の知れない所に連れてきてしまってすみません!」
慌てているみたいだけれど、手つきはいつも通り優しいわ。うんうん、抱っこされるならやっぱりジャルね。
でも、ちょっと気になることを言ったわね? もしかしてあなたたち、アタシを置いてご主人さまを助けに行くつもりだったの? ちょっと、アタシだってウォルフをぶっ飛ばしたいし引っ掻きたいんだから、それは許さないわ。まあ、ちゃんと連れてきてくれたからそれについては不問にしてあげる。
「ニャ」
短く鳴いてからジャルの腕を尻尾で軽く撫でてあげる。ジャルはこうされるのが結構好きだからお礼みたいなものね。その証拠に、ジャルってば一瞬悶えてたわ。ちなみになんか痛いほど視線を感じるけど、これはたぶんサディね。サディ、あなたもアタシの気持ちを察してほどほどに構ってくれるのなら猫パンチをお見舞いしたりしないのに。まあ、面白いからやめないけど。
「まあまあ、連れてきちまったもんはしょうがねえだろう。ひとまずお嬢ちゃんとウォルフの野郎を探そうぜ」
「……! え、ええ、そうですね。何よりもまずはアイラさんの身の安全が優先です。あの性悪がアイラさんに何もしていないことを祈るばかりですが、もし手を出していようものなら……」
ジャルの声が後半になるにつれ、なんだか全身の毛が逆立つような響きを持ち始める。これはあれね、ちょっぴりこわいわ。
「ニャン」
とりあえずジャルのことを落ち着かせるために彼の腕から抜け出して、足にスリスリしてあげる。そうすると、ジャルの体から発せられていた威圧感が少し和らいだわ。サディとダニーも露骨にホッと息をついている。あなたたちも緊張していたのね。
「まったく、アイラのこととなるとある意味で魔王らしくなるよね、キミ」
「俺はあのお嬢ちゃんと会ってからそんなに時間が経ってないからよく知らないんだが、ジャルとお嬢ちゃんってまさかそういう関係なのか?」
「うーん? どっちかっていうとジャルの片思いじゃない? だってジャルって魔王だよ?」
「あー、うんそりゃそうだな」
「ちょっとあなたたち!」
なんの話をしているのかしら? もしかしてアタシにはよく分からないわねぇ。
ジャルの決意のこもった静かな声が広場に響き渡る。その言葉を聞いて、アタシを抱き上げてるダニー、そしていつもはちゃらんぽらんなサディも気を引き締めたのか真面目な表情を浮かべた。
「ボクらも用意はできてるよ。あとリオンにも連絡済み」
「俺も魔力強化薬を飲んできたからな、ウォルフの攻撃をいくらか防ぐくらいはできるぜ」
「え、あの魔力強化薬を飲んだんですか!?」
「おう。非常事態ってヤツだからな。副作用くらい安いもんだろ」
「……戻りましたら十分な休暇を取ってください」
「そいつはありがてぇな」
ジャルとダニーが軽口を叩き合っている。魔力強化薬とかいうものだけど、それがあんまりいいものじゃないのかしら? 副作用っていうのはそういうものよね? ご主人さまも合わない薬っていうのがあって、何度か病院に通っていたような記憶があるわ。その時はとても辛そうにしてたから、きっとダニーもこれから辛くなるのかしら。ちょっと気の毒だから、今度思う存分ふかふかさせてあげましょ。
アタシがそんなことを考えている間に、ジャルは何やら呟いて右手を掲げる。すると彼の手から赤い光が伸びて、空に不思議な紋様を描き出した。よく見たら、同じ模様が地面にも広がっている。
「転移陣、完成しました」
「相変わらずえっげつねぇ速度で転移魔法完成させるな、お前」
「褒め言葉として受け取っておきますよ。さて、全員陣の中に入っていますね? 場所が場所です、少々衝撃があるでしょうから身構えておいてください」
ジャルの言葉を受けてダニーの腕に力がこもる。ちょっと苦しいけれど、衝撃があるのならしょうがないわね。アタシもいつでも動けるように周囲を警戒しておかなくちゃ。
アタシたちの準備が整ったことを確認して、ジャルがまたも小さく何やら呟く。すると足元と空の模様がいっそう強く光り輝いた。
その時、ちょっと、というジャルの焦ったような声が聞こえてきた。
「ダニー、マロンちゃんまで連れて行く気ですか!?」
「あ、やっべ、忘れてた」
ダニーの間の抜けた声が聞こえたと思った次の瞬間、前にポータルとかいうのを使った時に感じたような浮遊感にひどい横揺れを追加したような衝撃が襲ってきた。
なるほど、これがジャルが言っていたやつね。
少し気持ちが悪い気もするけれど、衝撃とやらはすぐにおさまったわ。
アタシはほんの少し力が緩んだダニーの腕から抜け出してから軽く辺りの気配を探る。どうやら近くにご主人様とウォルフはいないみたいだから、体調を整えるためにググッと伸びをした。
それにしても、ここはどこなのかしら。見た感じ何もない殺風景な部屋ね。灰色の壁は冷たくて、これはたぶん金属なんじゃないかしら。SF映画とかいうやつで見たことがあるようなきがするもの。
部屋の中をうろついてみようかと考えたその時、アタシの体を大きな手が抱き上げた。
「マロンちゃん! こんな得体の知れない所に連れてきてしまってすみません!」
慌てているみたいだけれど、手つきはいつも通り優しいわ。うんうん、抱っこされるならやっぱりジャルね。
でも、ちょっと気になることを言ったわね? もしかしてあなたたち、アタシを置いてご主人さまを助けに行くつもりだったの? ちょっと、アタシだってウォルフをぶっ飛ばしたいし引っ掻きたいんだから、それは許さないわ。まあ、ちゃんと連れてきてくれたからそれについては不問にしてあげる。
「ニャ」
短く鳴いてからジャルの腕を尻尾で軽く撫でてあげる。ジャルはこうされるのが結構好きだからお礼みたいなものね。その証拠に、ジャルってば一瞬悶えてたわ。ちなみになんか痛いほど視線を感じるけど、これはたぶんサディね。サディ、あなたもアタシの気持ちを察してほどほどに構ってくれるのなら猫パンチをお見舞いしたりしないのに。まあ、面白いからやめないけど。
「まあまあ、連れてきちまったもんはしょうがねえだろう。ひとまずお嬢ちゃんとウォルフの野郎を探そうぜ」
「……! え、ええ、そうですね。何よりもまずはアイラさんの身の安全が優先です。あの性悪がアイラさんに何もしていないことを祈るばかりですが、もし手を出していようものなら……」
ジャルの声が後半になるにつれ、なんだか全身の毛が逆立つような響きを持ち始める。これはあれね、ちょっぴりこわいわ。
「ニャン」
とりあえずジャルのことを落ち着かせるために彼の腕から抜け出して、足にスリスリしてあげる。そうすると、ジャルの体から発せられていた威圧感が少し和らいだわ。サディとダニーも露骨にホッと息をついている。あなたたちも緊張していたのね。
「まったく、アイラのこととなるとある意味で魔王らしくなるよね、キミ」
「俺はあのお嬢ちゃんと会ってからそんなに時間が経ってないからよく知らないんだが、ジャルとお嬢ちゃんってまさかそういう関係なのか?」
「うーん? どっちかっていうとジャルの片思いじゃない? だってジャルって魔王だよ?」
「あー、うんそりゃそうだな」
「ちょっとあなたたち!」
なんの話をしているのかしら? もしかしてアタシにはよく分からないわねぇ。
0
あなたにおすすめの小説
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる