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第百十三話 王女の出自
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ベアトリーチェ様はこのティディアール王国内にいる。
そう確信したアーニャはこれまで闇雲に行って来た捜索がやっと進展した事に歓喜した。
『エゴン、ワシリー、ベアトリーチェ様はティディアール王国にいるようだ』
早速、アーニャはエゴンとワシリーに念話を飛ばした。
『『なんだって?!』』
アーニャは驚きの声をあげるエゴンとワシリーに、ドルチェから聞いたことを説明した。
『兎に角、私は護衛をしながらベアトリーチェ様を捜す。私はタングスティン領までの経路に沿って捜すからエゴンとワシリーは他の場所を頼む』
『『了解』』
アーニャはエゴンとワシリーとの念話を終えると宿に向かい地図を広げた。
パスティナ領から南にビスマス領、王都、ベリム領を通りタングスティン領へと旅程が組まれることになるだろう。そこまで順調に行けば馬車で約10日。人数を考えれば倍近くの日数がかかるかも知れない。
そんな時、アーニャは不意にパスティナ領主マーカスからティディアール王国第二王子であるアークトゥルス殿下の来訪があるとの連絡を受けた。
クラレシアの騎士であるアーニャと面会を希望しているとのことだった。
領主邸応接室で対面しているのは、アーニャと二人の男。一人は炎の様な赤髪に深緑の瞳のティディアール王国第二王子アークトゥルス、もう一人は赤茶の髪に同じく深緑の瞳の冒険者ショウである。
「アーニャ殿、私はティディアール王国第二王子のアークトゥルスと言う。こちらは私の仕事を手伝ってもらっている冒険者のショウ」
「ショウです。よろしくお願いします」
「お初にお目にかかります。アークトゥルス殿、ショウ殿」
無難な挨拶を交わし、アーニャはアークトゥルスからの言葉を待った。
「早速ですが、本日は貴殿に尋ねたい事があり来て貰った」
王族であるアークトゥルスから何を聞かれるか考えると、アーニャはついつい身構えてしまう。
「私に尋ねたいこととは何でしょうか?」
「クラレシアの王女殿下についてです。単刀直入にお伺いしましょう。王女殿下の父親はドメル帝国の皇族であることは真か?」
アークトゥルスの言葉にアーニャばかりかショウも息を呑んだ。
ショウはアーニャと面会する前にアークトゥルスから自分が何を言っても口を挟まず黙って聞いているようにと言われていたため、言葉を発することはできなかったが、実際にアークトゥルスが放った内容を聞いたら心中穏やかではいられなかった。
よりにもよってカリンの父親がクラレシア神聖王国の敵国であるドメル帝国の皇族だと暴露したのだ。
それは本当の事なのか? だとしたら何故だ? 何でそんなことに……? カリンはその事を知っているのか? いや、カリンは記憶喪失だったな。では記憶を失う前は知っていたのか?
ショウの心の中は混乱を極めていた。
「……アークトゥルス殿、それはどこからの情報ですか?」
殆どのクラレシア人でさえ知らない疑問を突きつけられたアーニャも同じく心中穏やかではなかった。
「私達はドメル帝国を制圧し、皇帝の血族も含め皇居ないにいる側近等も拘束しています。何れ極刑に処されることは確実です。我々が介入したのは我が国に混乱をもたらす謀があると発覚したためです。王女殿下の情報は皇帝から直接得たものです」
「…………ドメル帝国が崩壊したというのか……?」
アークトゥルスの言葉に驚きの声をあげるアーニャ。
「当然のことでしょう。我々が介入しなかったとしても近い将来崩壊は免れなかったでしょう。それで、王女殿下の出自に付いては真か?」
「…………」
「アーニャ殿、悪いようにはしません。私達は王女殿下の居場所も既に把握しております。まぁ、本人に直接王女殿下かどうか確認したわけではありませんが」
ガタンっ!
「それは本当ですか? ベアトリーチェ様の居場所を知っているのですか?!」
アーニャはアークトゥルスの言葉に目を見開き思わず立ち上がり身を乗り出した。
「アーニャ殿、落ち着いて下さい。王女殿下は安全な場所におります」
「そう簡単に落ち着く事なんて出来ません! 完全に安全な場所なんてこの世界にあるとは思えません。現に神が施したと言われる程の鉄壁の守りであった我が国の防御結界が破壊されたのです!」
アーニャは拳を握りしめ悔しげに唇を噛んだ。
「アーニャ殿の気持ちも分かります。王女殿下の傍にはどんな者でも敵わない強者が傍におり守っています。そう、神の眷属とも言われる神獣が」
「神の眷属? 神獣? 精霊王の眷属、妖精猫ではなくて?」
アーニャは首を傾げた。神獣の存在はクラレシア神聖王国でも伝説としてしか伝えられていない。ベアトリーチェに付いているのが神獣なら果たしてどういった経緯で彼女を守っているのか全く見当が付かなかった。
「ああ、神獣だ。ここにいるショウがその存在を見ている」
アークトゥルスの言葉を確かめるようにアーニャはショウの方に顔を向けた。
「はい、カリ……王女殿下は神獣が守っておりますので危険にさらされることはないでしょう」
アーニャはその真意を探るようにアークトゥルスの瞳を真っ直ぐ凝視した。
「ふぅ、分かりました。アークトゥルス殿の言葉を信じましょう。それで、ベアトリーチェ様の父親がドメル帝国皇族かどうかだが、答えは是だ」
「そうか、真であったか……」
顎に手をやりアークトゥルスは考えこむ。その隣に座っているショウは「カリン……」と小さな声を零し眉を顰め、両手で顔を覆った。今は記憶喪失であるカリンでも記憶を失う前そのことを知っていたとしたらどんなに心を痛めていたかと思うとやるせなかった。
「クレアシア神聖王国滅亡時の統治は女王メディアーナ殿だったと聞いている。では、カリンの父親はドメル帝国皇族から王配として婿入りしたのか?」
「いいえ、そうではありません。王配であったフォルナックス様はドメル帝国に捨てられた皇子だったのです」
アークトゥルスとショウはアーニャが放った言葉の意味を直ぐに拾うことが出来なかった。口を噤みすぐには言葉にならない。
「捨てられた皇子……とはどういう事だ?」
「私が知っているのは、以前母から聞いた事のみです。それで宜しければお伝えしましょう」
やっと言葉を発したアークトゥルスに、アーニャは王女の父親であるメディアーナの王配について語り始めたのだった。
そう確信したアーニャはこれまで闇雲に行って来た捜索がやっと進展した事に歓喜した。
『エゴン、ワシリー、ベアトリーチェ様はティディアール王国にいるようだ』
早速、アーニャはエゴンとワシリーに念話を飛ばした。
『『なんだって?!』』
アーニャは驚きの声をあげるエゴンとワシリーに、ドルチェから聞いたことを説明した。
『兎に角、私は護衛をしながらベアトリーチェ様を捜す。私はタングスティン領までの経路に沿って捜すからエゴンとワシリーは他の場所を頼む』
『『了解』』
アーニャはエゴンとワシリーとの念話を終えると宿に向かい地図を広げた。
パスティナ領から南にビスマス領、王都、ベリム領を通りタングスティン領へと旅程が組まれることになるだろう。そこまで順調に行けば馬車で約10日。人数を考えれば倍近くの日数がかかるかも知れない。
そんな時、アーニャは不意にパスティナ領主マーカスからティディアール王国第二王子であるアークトゥルス殿下の来訪があるとの連絡を受けた。
クラレシアの騎士であるアーニャと面会を希望しているとのことだった。
領主邸応接室で対面しているのは、アーニャと二人の男。一人は炎の様な赤髪に深緑の瞳のティディアール王国第二王子アークトゥルス、もう一人は赤茶の髪に同じく深緑の瞳の冒険者ショウである。
「アーニャ殿、私はティディアール王国第二王子のアークトゥルスと言う。こちらは私の仕事を手伝ってもらっている冒険者のショウ」
「ショウです。よろしくお願いします」
「お初にお目にかかります。アークトゥルス殿、ショウ殿」
無難な挨拶を交わし、アーニャはアークトゥルスからの言葉を待った。
「早速ですが、本日は貴殿に尋ねたい事があり来て貰った」
王族であるアークトゥルスから何を聞かれるか考えると、アーニャはついつい身構えてしまう。
「私に尋ねたいこととは何でしょうか?」
「クラレシアの王女殿下についてです。単刀直入にお伺いしましょう。王女殿下の父親はドメル帝国の皇族であることは真か?」
アークトゥルスの言葉にアーニャばかりかショウも息を呑んだ。
ショウはアーニャと面会する前にアークトゥルスから自分が何を言っても口を挟まず黙って聞いているようにと言われていたため、言葉を発することはできなかったが、実際にアークトゥルスが放った内容を聞いたら心中穏やかではいられなかった。
よりにもよってカリンの父親がクラレシア神聖王国の敵国であるドメル帝国の皇族だと暴露したのだ。
それは本当の事なのか? だとしたら何故だ? 何でそんなことに……? カリンはその事を知っているのか? いや、カリンは記憶喪失だったな。では記憶を失う前は知っていたのか?
ショウの心の中は混乱を極めていた。
「……アークトゥルス殿、それはどこからの情報ですか?」
殆どのクラレシア人でさえ知らない疑問を突きつけられたアーニャも同じく心中穏やかではなかった。
「私達はドメル帝国を制圧し、皇帝の血族も含め皇居ないにいる側近等も拘束しています。何れ極刑に処されることは確実です。我々が介入したのは我が国に混乱をもたらす謀があると発覚したためです。王女殿下の情報は皇帝から直接得たものです」
「…………ドメル帝国が崩壊したというのか……?」
アークトゥルスの言葉に驚きの声をあげるアーニャ。
「当然のことでしょう。我々が介入しなかったとしても近い将来崩壊は免れなかったでしょう。それで、王女殿下の出自に付いては真か?」
「…………」
「アーニャ殿、悪いようにはしません。私達は王女殿下の居場所も既に把握しております。まぁ、本人に直接王女殿下かどうか確認したわけではありませんが」
ガタンっ!
「それは本当ですか? ベアトリーチェ様の居場所を知っているのですか?!」
アーニャはアークトゥルスの言葉に目を見開き思わず立ち上がり身を乗り出した。
「アーニャ殿、落ち着いて下さい。王女殿下は安全な場所におります」
「そう簡単に落ち着く事なんて出来ません! 完全に安全な場所なんてこの世界にあるとは思えません。現に神が施したと言われる程の鉄壁の守りであった我が国の防御結界が破壊されたのです!」
アーニャは拳を握りしめ悔しげに唇を噛んだ。
「アーニャ殿の気持ちも分かります。王女殿下の傍にはどんな者でも敵わない強者が傍におり守っています。そう、神の眷属とも言われる神獣が」
「神の眷属? 神獣? 精霊王の眷属、妖精猫ではなくて?」
アーニャは首を傾げた。神獣の存在はクラレシア神聖王国でも伝説としてしか伝えられていない。ベアトリーチェに付いているのが神獣なら果たしてどういった経緯で彼女を守っているのか全く見当が付かなかった。
「ああ、神獣だ。ここにいるショウがその存在を見ている」
アークトゥルスの言葉を確かめるようにアーニャはショウの方に顔を向けた。
「はい、カリ……王女殿下は神獣が守っておりますので危険にさらされることはないでしょう」
アーニャはその真意を探るようにアークトゥルスの瞳を真っ直ぐ凝視した。
「ふぅ、分かりました。アークトゥルス殿の言葉を信じましょう。それで、ベアトリーチェ様の父親がドメル帝国皇族かどうかだが、答えは是だ」
「そうか、真であったか……」
顎に手をやりアークトゥルスは考えこむ。その隣に座っているショウは「カリン……」と小さな声を零し眉を顰め、両手で顔を覆った。今は記憶喪失であるカリンでも記憶を失う前そのことを知っていたとしたらどんなに心を痛めていたかと思うとやるせなかった。
「クレアシア神聖王国滅亡時の統治は女王メディアーナ殿だったと聞いている。では、カリンの父親はドメル帝国皇族から王配として婿入りしたのか?」
「いいえ、そうではありません。王配であったフォルナックス様はドメル帝国に捨てられた皇子だったのです」
アークトゥルスとショウはアーニャが放った言葉の意味を直ぐに拾うことが出来なかった。口を噤みすぐには言葉にならない。
「捨てられた皇子……とはどういう事だ?」
「私が知っているのは、以前母から聞いた事のみです。それで宜しければお伝えしましょう」
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