転生少女は異世界で理想のお店を始めたい 猫すぎる神獣と一緒に、自由気ままにがんばります!

梅丸みかん

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第百三十四話 クラレシアの民達

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 アーニャ、エゴン、ワシリーは私の手料理をかなり気に入ってくれたようで、大絶賛してくれた。

 私はクラレシアの民達に会いに行くことを彼らと約束した。その前に、私の身を案じ、家の周辺を安全確認していたが、グレンが施した結界魔法によって護りが万全であることを確認出来たためか安心したようだった。

 それから数日後、いよいよクラレシアの民達に会うために朝の支度を整えるとエントランスの戸を開けた。
 
 サワサワと揺れる木の葉、キラキラと輝く精霊達。

 空気が澄み柔らかい太陽の明かりが降り注ぐ。

 外に出るとすっかり肌寒くなり、冬に近づいているのを感じた。冬と言ってもこの国では雪が降るほど寒くなるわけではないらしい。

 ダンテさんがこの国の冬は少し肌寒くなるくらいだと言っていた。だから、もしかしたら今はもう冬と言えるのかも知れない。

 一歩外に出たけど、風の冷たさに鳥肌が立ったので一度戻って半袖のチュニックに少し厚手のカーディガンを羽織った。

 今度フランさんの店で冬服を揃えよう。

 私はグレンの背に跨るとクラレシア人達が住むと言う住居に向かって出発した。

 ヨダの町とクランリー農場の間にある工房地帯の中に建てられた居住区へ。

『アーニャ、もう少しでそちらへ窺うわ』

 私の周りに施されていたグレンの結界が解かれた為、アーニャに念話を飛ばせることが出来る様になった。

『カリン様、こちらは準備が整っています。お待ちしておりますのでどうぞお気を付けて』

 私が飛ばした念話にアーニャが直ぐに返事をくれた。

 念話……マジで便利。

 それにしても準備ってなんだろう?

 私は首を傾げた。

 草原を駆け抜け、目的の場所に向かうと以前は木の杭が等間隔で並べられていただけの場所に木製の頑丈な塀が出来上がっていた。両開きの門も木でできているが、防御魔法と結界魔法の重ね掛けがされており治安対策もばっちりの様だ。

 塀の直ぐ向こうには、住居用の建物が並んでいる。クラレシア人がこの場所に辿りついて数日だというのにここまでできているなんて驚きだ。

 流石クラレシア人と言うべきか。

 私はベアトリーチェの記憶を辿り、クラレシアには建築錬金魔法に特化した人物がいた事を思い出す。

『アーニャ、門の前に辿り着いたわ』
『ベア……カリン様、直ぐに門を開けますのでそのままお越し下さい』
 アーニャから念話で返答が届くと、私の身長の倍以上もある目の前の門がゆっくりと開いた。

 門を潜り抜けると、目の前に沢山のクラレシア人が跪いている。大層なお出迎えだ。

「えっとぉ、あのぉ……皆さん? 顔を上げて貰えるかしら?」
 私は戸惑いを隠せない。

 前世の記憶が蘇る前だってこんなに沢山の民達が私の前に跪くことなんてなかった。ましてや今はカリンの記憶の方が強い。戸惑うというものだ。

 私の声でゆっくりと顔を上げるクラレシア人達。

 私と同じ藍色の髪は濃い薄いの若干の違いはあるが、それは紛れもなく亡クラレシア神聖王国国民の特徴だ。瞳は灰色で、光の加減で銀色にも見える。

 私を見つめる銀色の瞳達は潤みを帯び、まるで神を崇めるかのように感嘆の色を宿していた。

「「「姫様……」」」
「「「姫様…………よくご無事で」」」
「「「姫様……」」」

 彼方こちらから喜びの声と共に啜り泣く音が耳に届いた。 
 彼らからは私を責める声なんて聞こえない。
 タダ単に私の無事を喜び、感激している様にしか見えない。

 瞳が潤んで来るのを抑えられない。
 私を無条件で迎え入れてくれる懐かしい祖国の仲間達。

 頬に涙が伝う。
 ベアトリーチェの心に彼らの想いが伝わり、罪悪感が薄れてくる。
 私がここにいることを赦された気がした。

 それでも……

「皆さん。ごめんなさい。私のせいでクラレシアは……」
 涙が後から後から零れて言葉が続かない。

「姫様! 許しを請わなければならないのは私達の方です」
「私達は国を、メディアーナ様を守れなかった」
「姫様のせいではありません」
「クラレシアの国民全員の責任です」

 次々に放たれる声が私の心を蝕む罪悪感を解かしていくようだ。

 彼らはとっくに私を赦してくれている。いいえ、彼らは最初から私に罪があると思ってないのだ。

 私の心の中でいつまでも燻り続ける罪悪感は私が私自身を赦せていないから……

 ならば、この涙と共に洗い流し私自身を赦すしかない。

 彼らと共にこれからを歩んでいくために。

 いつまでも罪悪感に囚われていては、前に進むことも阻まれてしまうから。

 私はクラレシアの地を聖地として封印したことをみんなに伝えた。もう祖国に帰ることは出来ないと知った彼らは哀しみ、私を恨むかも知れない。

 それでも、私は自分の決定を彼らに伝えるしかなかった。

 結局、私の心配は杞憂に終わった。クラレシアの民達は私の気持ちを汲み同意してくれたのだ。

「ありがとう、皆さん。でも、クラレシアの国民全員の責任なら私にも責任があるのです。もう国はないけれど、これからは皆さんと一緒に幸せになりたいと思っています。だから……よろしくお願いします」

「姫様……私達こそよろしくお願いします」
「姫様……一緒に幸せになりましょう」
「私達の手で姫様を幸せにします」
「精霊界に召されたメディアーナ様が安心するように」

 クラレシアの民達から明るい声があがる。みんなが前向きにこれからのことを考えているようでホッとした。



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