転生少女は異世界で理想のお店を始めたい 猫すぎる神獣と一緒に、自由気ままにがんばります!

梅丸みかん

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第百四十五話 事情聴取

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「それにしてもショウ殿はいつもカリン様と一緒にいるのですね。今日も朝食を一緒に摂っているようですが、まさか同居しているわけではありませんよね?」

 食後のお茶を飲んで一息ついたアーニャが今更ながらショウが朝からここにいることを咎めるように言った。

 アーニャの顔は微笑んでいるはずなのに何故かその視線にビクリとしてしまった。

 私はもう慣れちゃってショウがいるのは当然のように思っていたけど、やっぱり傍から見ると疑問に思うのは当然かも知れない。

 前世の常識から考えても異性の友達と朝食を一緒にしかも一人暮らしの女性の家で食べていればその関係を疑うのは自然なことだろう。

 たとえいまの私がまだ13才だとしても……

「もちろん同居はしていないわよ。えっと、ショウは手伝いに来ているのよ。もう少しでお店をオープンしようと思っているし、色々作りながらメニューも考えなきゃ……だし、食材採取にも協力して貰っているし……えっと、それにショウは食いしん坊だから私の料理を食べずにはいられないのよ……。ねっ?」

「えっ? ああ、うん、そう、俺は食いしん坊だからカリンの料理を食べずにいられないんだ」

 私がショウに目で合図して同意を求めると、ショウは最初は少し狼狽えたが、何とか私の話に合わせてくれた。

「実は、栗ご飯とモンブランを昨日作ったのよ。アーニャが今日来ると思って準備していたの」

 私はそう言って、栗ご飯のおむすびとモンブランを持って来た。アーニャはパンケーキを食べたばかりだというのにペロッと食べてしまった。

「なるほど、こんなに美味しいなら確かに食べずにいられませんね」
「そうですよね、カリンは天才なんですよ!」

 アーニャの言葉にすかさず同意の声をあげるショウ。

 なぜか、アーニャに対するショウの言葉が敬語になっているが、彼女の親を前にした心境なのかも知れない。

 彼女ではないけれど……。

「ふぅ、まあいいでしょう。今は信じることにしましょう。それよりカリン様、改めてお願いします。お店のオープンを私にも手伝わせて下さませんか?」
 アーニャは嘆息してから口を開いた。お願いされているのにアーニャは有無を言わさぬ雰囲気を漂わせている。

「もちろん、それはとても助かるわ」
 私は断る理由がないばかりか、アーニャが手伝ってくれるならとても心強いので一も二もなく頷いた。

 どうやら上手く話を逸らせたみたいだ。

 美味しいものには思考を逸らす引力があるに違いない。

 と、私が訳の分からない理由を考えていたのも束の間、直ぐにアーニャからの事情聴取が始まった。

「食材はどこから仕入れているのですか?」
「カリン様の料理の味を知っている人はどれくらいいますか?」
「カリン様の交流関係を教えて下さい」
「お店の開店予定日はいつですか?」

 矢継ぎ早に続く質問の数々。

 なんだか犯罪者の気分になってくる。

 それでもアーニャの勢いに押されてどんどん答えていく私。

「なるほど、カリン様は今まで何の対策もしてこなかったんですね?」
 一通り質問が終わると嘆息してアーニャが呟いた。

 ん? 何の対策?

 私はアーニャの言っている意味が分からず首を傾げた。

「ああ、カリン様。何も分かっていないようですね。このままではカリン様の料理だけが一人歩きしてしまいます。つまり、カリン様のアイデアが勝手に使われるということです」

「え? そんなこと、別に良いわよ。この世界のお料理達が美味しくなるのは大歓迎だもの。エンサの町にある『港街レストラン』で私が海の幸の料理を教えたらみんな喜んでいたわ。特にブラックシュリ料理なんて大人気よ」

「ブラックシュリ料理……?」
「ほら、私が作った幕の内弁当にも入っていたじゃない。ほら、長細くてサクサクの衣にぷりっとした食感できつね色……薄茶色に揚げて白いソースがかかってあった。あれもブラックシュリを使った海老フライという料理なのよ」

 この世界できつねを見た事がなかったので薄茶色と言ってみたけど通じただろうか? 

 本当はこの世界では海老ではなくブラックシュリと呼ばれているのだが、私の料理に関しては前世での料理名を採用することにした。

「ああ……あの白いソースがかかったサクサクの食べ物か! あれは美味かった。そうか、あれは海の幸だったのか。海にはなんと美味いものが生息しているのか!」

 私はアーニャの言葉にクラレシアには海がなかったことを思い出した。

 いつまでも前世の記憶が私がクラレシアの王女だったことを邪魔する。

 実は大分前世の記憶が薄れてきているのだが、何故か料理に関してだけはしっかり覚えているのだ。それだけ料理への思い入れが強いという事だろうか?

「でしょう? エンサの町はそのお蔭で賑わっているみたいなのよ」

「『エンサの町……』ああ、そう言えばこの国の西の方にそんな名前の港街がありましたね。ここからエンサの町まで結構な距離があったはず……カリン様はそんな遠くまで足を運んだのですか? もう既にその町ではカリン様のアイデアが勝手に使われているとは! これは確かめに行かなくては!」

「別にいいのよ。それにピエトロさんの『港街レストラン』の看板に『カリンのレシピ・港街レストラン』って書かれていたの。私のアイデアを使ってしまったからそれだけは許して欲しいと言うピエトロさんのたってのお願いだったから了承したわ」

「カリンのレシピ…………そう、ですか……なるほど、カリンのレシピ……分かりました。それで行きましょう」
「え? なにが?」

 私はアーニャの言っている意味が分からず首を傾げたのだった。



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