転生少女は異世界で理想のお店を始めたい 猫すぎる神獣と一緒に、自由気ままにがんばります!

梅丸みかん

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第百四十六話 有能な秘書

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 私からの事情聴取が終わった後のアーニャの動きは早かった。

 この世界にカリンとして目覚めてからの私の交友関係を元にお店に関係するだろうと思われる人物達を洗いだし、様々な契約を締結させていったのだ。

 あれから二週間程経過した今日、アーニャが開店準備の進捗状況を報告しに来たのだ。

 アーニャからの報告を聞いて私の中に疑問が浮かんだ。トーシャの根に関しても紙バッグに関してもきちんと契約を交わしたはずだ。

「え? でも私ちゃんとドロシーさんとセレンさん、それにウォルフ様とも契約を結んでいるわよ」
 アーニャにそのことを主張すると、

「はい、それは全て確認してきました」
 即座に答えが返ってきた。

 え? 確認して来たの? いつの間に? でも、だったら何の問題もないはずでは?

 どうやら私が契約した内容を既に把握しているらしい。

「えっと、それで……何か問題があった?」
「大きな問題は特にございません……ですが、エンサの町のカイトさん、ベスタの町のアマンダさんと契約をきちんと結ぶことになりました。カリン様とはどうやら口約束だけのようでしたので」

「え? でもカイトさんもアマンダさんも特に問題無い様だったけど……」
「カリン様……問題だらけです。口約束だけでは後にトラブルに発展しかねません。何か有ったときに言った言わないで争わないと言い切れないのです」

「でもカイトさんもアマンダさんもとってもいい人よ」
「そういう問題ではありません。お金に関することはどんなに良い人でもトラブルが起こりうるのです。彼らに万が一のことがあり、その仕事を他の者が受け継いだとき、その受け継いだ者が彼らの様に良い人だとは限らないのです」

 私はアーニャの言葉を聞いてそれももっともだと思った。私は前世の時から直ぐに人を信じてしまいそれで何回も痛い目にあってきた。

 転生してもその性格は変わらないようで、私の周りはみんな良い人ばかりだと思ってしまう。

 実際にそうではあるのだと思うけど、お互いに疑いを持たないためにもどんなに親しくても書面できちんと契約することは必要なことだろう。

 思い違いをすることもあるし、それによって関係に亀裂が入ることもあるかも知れないのだから。

 それにしても改めてアーニャの有能さを再認識できた。

 料理以外に関しては細かいことは苦手な私を存分にフォローしてくれることに感謝するしかない。

「ところでカリン様、この家の近くに私達の家を建てたいのですが、よろしいでしょうか? ああ、それと事務所も必要ですね。ワシリーとエゴンもカリン様の護衛も兼ねてこちらに移り住むことになりましたので」

「ん? 事務所? ……えっと……会社でも作る気?」
「え? 会社とは?」

 私としては自分のお店を開くだけで十分なのだが、アーニャの話を聞くと随分大事になって来たように感じる。まるでこれから会社を設立するように。

 そもそもこの世界には会社という形式の組織は存在しない。そのため、私が声にした「会社」と言う意味が分からないのも当然だ。

「会社と言うのは、利益を目的とした組織よ」
「商会とは違うのですか?」

「えっと、会社と言うのは多くの人数で経営する大きな組織で、商会は家族や身近な人達で集まって行う小規模な組織……かしら? 主に商品の売買だけを目的とする商会と違って、会社は製造やサービスの提供を行うこともあるの。組織形態も代表者の他に細かに役割分担されているのが特徴ね」

「なるほど……それでは『会社』と呼ばれるものを設立することにしましょう」

 私の説明をどう理解したのか分からないがアーニャはやる気満々で宣言した。

 日本では正確に会社として組織を設立する為には法的に認められなければならなかった。法人としての地位を持ち、資本を持って経済活動をするのが本来の会社としてのあり方である。

 だが、この世界ではそういう概念はない。ということは、「会社のような組織」と言う事になる。

 それが今後この世界でどんな風に発展していくのかは分からない。

「まあ、いいかぁ」

 分からない事は考えても分からないので、私は早々に考えることを放棄した。

 こうしてこの世界初の「カリンのレシピカンパニー」という組織が設立されたのだった。

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