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連載
第百五十話 天才魔導具師の過去【1】
しおりを挟むーーーーーー語り手:エミュウ・グランディア(天才魔導具師)ーーーーーー
私の父は一人娘であった母の家に婿入りしたの。クラレシア人の中には国を出て他国に移住する人もいるけれど、ドメル帝国に移住する人は滅多にいないの。
昔からドメル帝国はクラレシアを目の仇にしていたのよ。魔力に恵まれたクラレシア人に対してドメル人は魔法を使えるほどの魔力を持つ生まれないから、妬みもあるのかも知れないわね。
そんなドメル帝国に移住したクラレシア人の特徴である藍色の髪に灰色の瞳を持っていた父は当然のことながらとてもだったみたい。
だからドメル帝国の皇城に父の存在が知られるのはあっという間だったと思うわ。
世界中でクラレシア人が製作する魔導具は高性能だと評判だったから当然そのことを知っていたドメル帝国は破格の報酬で皇宮の魔導具開発部門で働くことを持ちかけたの。
母と母のお腹の中にいた私を養うために喜んで引き受けたそうよ。
いつでも家族のことを考えていたから、きっと母や私に苦労をかけたくなかったのね。
私はクラレシア神聖王国に住んだことはなかったんだけど、後で調べたら神に守られた国のため、悪意に晒されることが殆どなかったみたいね。
だから父はドメル帝国の企みに全く気付く事はなかったの。
父も私達家族のためだけではなく、人に役に立つ魔導具製作を目標にしていたのよ。
でも、ドメル帝国は父にクラレシア侵攻の為の魔導具を製作させていたの。表向きは国民の為の魔導具だと表面上は誤魔化しながら……。
父が仕事の為に次第に家に帰って来る事が少なくなり、ついには全く帰ってこなくなったの。
皇宮に問い合わせても仕事が忙しくて帰れないと言われるばかり。
何年も過ぎた頃、やっと皇城から使いの者が現れたんだけど、それは父が病に倒れたという知らせだったの。
私が成人したばかりだったから、15才位のときだったわね。
私は母と共に父を迎えに行く為に皇城の従者に着いていったんだけど、もうその時は起きることも出来ないほど衰弱していて父を連れ帰ることは出来なかったの。
痩せ細り、以前のはつらつとした様相は見る影もなく、言葉さえ発することができなかった父を見るのは辛かったわ。
皇宮の従者は父親の治療を条件に私に父親の魔導具開発を引き継ぐように命じてきたの。
皇宮では、きっと藍色の髪に灰色の瞳をもつ私はクラレシア人としての魔力と父親と同じ錬金魔法が使えると見込んでいたのね。
皇宮の見込み通り、私はクラレシア人としての魔力を宿し、父親から錬金魔法を教わっていたからその通りなんだけどね。父を助けるため、私は皇宮で父親の魔導具開発を引き継ぎ、母は父の看病をすることになったわ。
それから数年後、私が魔導具開発室で働いているとき、突然父の念話が届いたの。
『エミュウ、逃げろ! ここにいてはダメだ!』
突然頭の中で響いた父の声に驚いた私は直ぐにその声に集中すべく仕事の手を止めたわ。
私は必死で情報を送り続ける父が命がけで念話を送ってきていることに気付いたの。
父からの情報では、今まで皇宮の意向で結界魔法と隷属魔法をかけられていたことが分かったの。
だから、クラレシア人同士が念話で会話できることを私はその時まで知らなかったの。
父は結界魔法と隷属魔法を解除するためにそれまでの時間と自らの魔力を費やしたの。父の体調が崩れたのは己の魔力を解除魔法に集中させた為だったのよ。
私と母に危険を知らせるために。
『地下室に妖精猫がいる』
父はできれば一緒に助けるように言ってきたの。
私は直ぐに父と母の元に駆けたわ。
私には分かったの。その時、父の命の灯火が聞けかかっていたのを。
父の元に駆けつけるとそこには目が真っ赤に充血し、鼻から血が流れている姿が目に入ったの。
私を目にした父親は変装用のネックレスを彼女に渡すとそれを使って逃げるように言いそのまま息を引き取ったわ。
後ろ髪を引かれる思いで私は母と一緒にその場を後にしたんだけど、先ずは妖精猫を助けるために父に教えてもらった地下室に行くことにしたの。
でも、地下室に行く前に頭の中に声が響いたの。
『ごめんなさい……僕のせいで……誰か……クラレシアを……助けて』
その声に従って行くと皇宮の裏手にある雑木林に辿り着いたわ。
キラキラと光が浮遊する中で発見したのは、ぐったりと力を使い果たしたように黒い一匹の猫が倒れていたの。
ありったけの魔力を吸い取られた魔導具によって力が入らないみたいだったわ。
私は咄嗟にその黒猫が父が言っていた妖精猫だと分かったから、直ぐにその黒猫を抱え皇宮を直ぐに出ようとしたんだけど……
兵士に見つかってしまったの……それで……母が囮になって私達を逃がしてくれたのよ。
ああ、心配しないで。先日、王都に行ったときに母がドメル人の難民キャンプにいたことが分かったから。今は母を引き取るように手続きをしているところなの。
それから私はノアを連れて必死で逃げたわ。
父が作ってくれたネックレスをしていたお蔭で私がクラレシア人だとばれることなく何とかティディアール王国に入国することができたの。
もちろん、どこの国でも入国をするためには身分証が必要でティディアール王国も例外ではなかったわ。だけど、ノアが言うにはクラレシア人であればフリーパスだと言うから、その時だけネックレスを外したのよ。
でも、ドメル帝国に見つからないように入国して直ぐに再びネックレスをしたけどね。
所持金も僅かな上、どこにも知り合いがいない私はティディアール王国に入国して直ぐに力尽きて倒れてしまったの。
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