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60.車内遊戯のちブチ切れるでしょう

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 本日はお日柄もよろしく、カロディール旅行五日目を迎えております。

 三日目、四日目と城外観光できない日が続いたが、昨日はペネリュート王が直々に王宮内を案内してくれたので退屈なんてしなかった。むしろ空中庭園なるものを見せてもらった時は感動のあまり、思わず素で叫びそうになったくらいだ。
 さすが異世界、さすがファンタジー。王宮の建物の内部、吹き抜けになっている広大な空間に円形の地面が5m近く浮かび上がっていたのだ。
 それは空調魔法技術の粋を結集して造成・維持されているそうで、浮遊する地面の上に整えられたこじんまりとした庭園には様々な季節の花が咲き誇っていた。ちなみに今の季節は晩春とのこと。そういえばこの国、日本と同じようにいわゆる四季があるんだったな、とそこで遅ればせながら思い出した。

 吹き抜けで外と繋がっているせいか、多くの鳥や蝶が飛び交っていてそれも目を楽しませてくれたな。
 小さな生き物たちと一緒になって、ビュンビュン飛び回ってるカモンも楽しそうだった。奴に追われて強制的に遊び相手に指定されていた哀れな鳥のなかに、目の色が左右で違う珍しそうなのが一羽いて、偶然それに気づいた時は旅先でレア動物発見ラッキー!とつい笑ってしまった。
……………ごめんよ、小鳥たち。憩いの空間に大型猫サイズの飛べるカモノハシ連れ込んで。

 そうしてその日も遅くまで仕事をしていたロイが部屋に帰ってきた時に、庭やら鳥やらの話をしたんだが、なぜか非常にいい笑みを浮かべて

「ふむ、そうか。ならばカナタ、明日は動植物の宝庫とされるキサンダ保護区で釣り―――いや、散策と行こうか。」

そう、のたまった。

 さすがロイ、宣言通り仕事終わったんだなぁ。明日はまた一緒に観光できるのか。と、俺も嬉しく思いながら早々に眠りについたのだが…………まさか、朝起きてすぐさま出発するような弾丸ツアーになるとは思っていなかった。
というか、移動時間どれくらいか昨日のうちに聞いておけばよかった。王宮を出発して一時間近く、それだけ経ってようやくそのことに気づいた俺が、同乗者にはたと尋ねた結果はなんと、約5時間。

 往復10時間の移動とか、事前にわかっていたら、俺行かなかったかも。もっと近場でいいからロイとのんびりしたかったかも。
 でもそれも全ては後の祭りってやつだ。
 そう、こんな目に遭うなんてわかってたら、そのなんたら保護区とやらに行くのは絶対反対して―――

「考え事とは、随分余裕そうだな?カナタ」

「ひっぁ、あッ!?」

 耳元に吹き込まれた囁くような低い声音と、一際強く下から躰を突き上げる衝撃に思わず、我慢していた声がまた漏れてしまう。同時に、背筋をぞくぞくと這い上がる甘ったるい痺れを自覚させられる。
そう、俺が今どんな状況かというと………この二日間ほど御多忙だった某皇帝陛下が、移動中の馬車内という密室空間で、あろうことか、盛りやがったのだ。

 俺だってちょっとは抵抗したんだ。流石に、カーセッ…………馬車内でごにょごにょなんて、と。
でもあれよあれよという間に着込んだ服を下だけ全部脱がされ、最低限のみ衣服を乱したロイの上に向かい合うように座らされ、今やその凶悪な熱をしっかり受け入れさせられている。

「ぁっ、やぅ……!ロイ、もっ……やめっ!」

 いくら広い造りの賓客用馬車とはいえ、ベッドに比べればそりゃ狭い。絶えず移動中とはいえ、こんなことをしていれば周りで護衛してくれている騎馬……いや騎獣隊か。その人たちにもバレそうだし、前の御者席にいるファイや、案内役のカロディールの人にも当然バレそうで、もう気が気じゃない。

 ほんと、やだ。どうせならもっと落ち着いて、この男を独占したい。なのに、いつもは俺のことなんてほぼなんでもお見通しのくせに、今日のロイは信じられないくらい強引だった。

「今やめたらお互い辛いであろう?心配せずとも、ここは皇竜の背とは違い防音魔法も展開できる。存分に啼いてくれて構わん。」

 あぁそう言えばなんか聞いたっけ。ドラゴンの背中の天幕でコトに至らなかったのは、あの空間を維持するために様々な魔法が構築されていて、それに干渉しちゃいけないから防音魔法使えなくて――って!

「そっ、ゆぅ問題じゃっ、にゃっ……あ、ぁ、んぁッ!」

 くっそ舌噛んだ!だから揺らすな突くな動かすなッ!?あぁもう俺の体なんでこんなすぐ気持ちよくなるわけ!?

 いっぱいいっぱいで苦しいのはあるけど、それ以上にいつもめっちゃ気持ちいいのはなんでだ!?俺の忘れ去った過去のあれこれ関連とかもあるだろうけど、それ以上に相手がロイだからか!?そりゃロイが好きだから好きな相手に好き勝手されたら好きで好きにっ…………だぁぁぁあ!!もういい!白状するッ!!

強引なロイの色気が半端なくて俺もめちゃくちゃ胸がキュンキュンするとかアホな状況なわけだよ!!!!誰にバレようがもうどうでもいいから目の前の男の好きにされたいとか馬鹿なこと思い始めちゃうんだよッ!!!俺のアホ――――!!!!

「はっぁっ……ろぃっ、ろいぃ……んっ、ふ……」

 自分の甘ったるい声とか鳥肌ものにキモイ。はずなのに、もうそんなこと気にする余裕すらなくて、結局自分から目の前の綺麗な男にキスを強請っていた。
 ほらな、と言いたげに優しく眇められた紫色の瞳を直前まで見つめながら、すっかり覚えこまされた濃厚で深い大人のキスというやつを交わし合うことしばし。
じんと舌先が痺れ、腹の奥に熱が溜まっていくようなじれったい感覚に、勝手に腰が揺れていく。
 基本的には俺の腰を支えてくれている大きな手が、時折シャツの上から胸の先端を虐めてくるのも耐え難い。男でも性感帯だから、とこの悪い大人に教えられたものの、だからといって急にそこを摘まれて思わず声を上げるのが恥ずかしくないかといえば、絶対に恥ずかしいに決まってるだろ。

「ひゃぅっ……!んぅうっ、はっ……!ぁっ、あぁ゛ッ!」

 息すら奪いつくされるようなキスも、シャツの裾から素肌を這う大きな手も、体の奥深くにまで埋められた火傷しそうな熱も、何もかもが気持ちよくて頭の中まで茹ってくる。
 それでもどうしてもあと一歩のところで、ここがベッドの上じゃないという落ち着かなさからか、理性が僅かに踏ん張ってしまうせいで、俺の知ってる最高の気持ちよさに届かない。それがもどかしい。
でも、もうさっきから何回かイってる気がするのに、ロイは全然終わりにしてくれそうな気配もない。

 あぁもう流されたい、でもやっぱりこんな所でがっつりヤるとか抵抗がっ……ってさぁ、この後目的地に着いたら散策だよな?俺、足腰立つのこれ?

「ろっぃ、もっ……やめ、よ?おれ、あるけなく、なるって……!」

 なけなしの理性を総動員して、なんとか荒い息の間にそう提案してみたが、あっさり却下された。

「構わぬ。私が抱いて歩く故。」

 俺が構うわ―――――――!!!!!
そう怒鳴れたらどれだけ良かったか。

 俺も深奥宮殿内とか勝手知ったる皇宮内なら文句ないよ?でもなんで外国まで来て、そんな恥をさらさないといけないわけ?ん……?でも、なんとか保護区ってもしかして、周りに人は少ないのか?ならいいかも?
なんて熱に浮かされた頭で考えていたせいか、結局時間だけかかった挙句にずるずると俺も流され、ロイの……いや、お互いの気が済むまでやらしい行為に耽ってしまった。

 半ば気絶状態で寝落ちする最中、浄化魔法があってよかったと心底思った。それから、次に目が覚めたらちょっとロイにお仕置きしようと固く心に誓った。
罰としてその頭をツインテールにでもしてくれるわ、と。

「ふ……それでカナタの気が済むならいくらでも。ただし、結うのは当然この手でなければな。」

 力の入らない体を座席に横たえ、ロイの膝枕でうつらうつらしていた俺、どうやらまた思考が口から駄々洩れ中だったようだ。
 絡められた指と、包み込まれた手の暖かさを感じながら、優しく低く響く声音を子守唄にもう悪態一つ気力もないまま、あえなく意識が遠のいていく。

到着したら起こせよー、絶対起こせよー。ここまで来たらなんたら保護区で珍獣ハンターに俺はな―――すやぁ。









「陛下、シン様。キサンダ保護区に到着いたしました。」


 不自然な客車の揺れを黙殺しながら、カロディールの騎士が務める御者の何か言いたげな視線に知らぬふりをし続け、一度の休憩もなく予定通り目的地へ到着したことに内心で深く安堵する。
ただそんな気配をおくびにも出さず、いつものようにファイはゆったりとした口調で動きを止めた馬車の客車、その扉をノックして声をかけた。

 静かな気配から既に睦み合いは終わっていると判断できるものの、触らぬ神に祟りなし、なのだから。そうして待つこと、しばし。

 護衛として随伴してきたカロディールの騎士たちと、皇国の騎士、合わせて二十名近くの少数だが精鋭の騎士たちが居並ぶ前で、客車の扉がゆっくりと内側から開く。
しかし姿を見せたのは、目深までフードを被り黒い外套を纏った小柄な人影、一人だけだった。

「…………陛下?」

 柔和な笑みはそのままに、されど僅かばかり強張った声音を零した侍従を一瞥することもなく、足を踏み出しながら簡潔に告げられた言葉は


「ファイ、後は頼んだ。俺は少し一人になりたい。」

それだけ、だった。

 そのまま迷いの無い足取りで、緑豊かな森へ向かう散策路へと一人突き進む黒い背と、何も答えずに立ち尽くす兎耳の侍従長とを、騎士たちの緊張を孕んだ視線が往復する。
 それもあってか彼にしては珍しく、わざとらしい小さなため息を零してから恭しく、ファイは腰を折った。

「承知いたしました。いってらっしゃいませ。ご無理はなさいませんよう。」

 そう一言、注進することだけは忘れずに。

 この場の最高責任者に倣い、騎士たちも遠ざかる背へ腰を折る。故に、その歩みを止めようとする者は当然ただの一人もいなかった。


 魔術師の行動に口出しできる者など、誰もいないのだから。


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