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陽光と新月
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吾妻は陽と蒴也の着替えを用意し脱衣場の棚に置く。
陽のベッドのシーツを交換しようとゲストルームに戻れば診察の片付けをする佐伯の後ろ姿が見える。
『佐伯先生この度のご尽力、感謝致します』
佐伯との付き合いの中で、上辺だけでなく心の底から頭を下げたことなど初めてかもしれない。
所詮ヤクザと闇医者なのだ。金以外の繋がりなどなかったのだから。
『吾妻君、頭をあげて』
往診鞄に全てを仕舞い、でもね、と続ける佐伯は
『頭のいい吾妻君なら解っていると思うんだけどね』
本当に大変なのは、これからなのだ、と。
狭いアパートの部屋の中と長谷美由紀だけが陽の世界の全てだった。15年と言う長い時間、同じ世代の子供達が当然経験したことも感じたことも、陽にとっては全てが未知なのだ。
自分の気持ちを伝えるための言葉を教え、相手の気持ちを理解するための想像力を育み、社会性を身につけるための手助けをする。
美しいものに感動する感性を養い、危険を認知し回避するための能力を身につける。
自分が幸せだと感じられる人生を歩めるよう選択する勇気を培う。
数え上げればきりがないほど、具体的な数などわからないほど、陽にはたくさんのものが不足しているのだ。
いや違う。陽は15歳の少年が持ち合わせているであろうものを1つとして持ってはいないのだ。
これから、どれだけの経験をして、どんなことを感じ成長していけるのか、陽の人生がヤクザ2人と闇医者1人の肩にかかっている。
『まずは健康な心と体を作ってあげたいな』
作ってあげるなんて烏滸がましい言い方だね、とらしくもなく謙遜しているが、それは医師である佐伯が一番に願うことなのだろう。
だから吾妻も
『お力添え、よろしくお願い致します』
再び深々と頭を下げたのだ。
『とりあえず協力の手始めにシーツの交換を手伝うよ』
少し乱暴な手付きでベッドからシーツを剥がす佐伯の横顔には今までの胡散臭さが抜け落ちてるように見える。
佐伯と吾妻、2人の初めての共同作業?でシーツを交換した頃に、陽を腕に抱いた蒴也がゲストルームへと戻る。
『疲れて寝ちまったみたいだ』
清潔なシーツがかけられたベッドに陽を横たえ掛布で肩まで覆う。
『ゆっくり休め』
そうして陽の額に1つキスを落とす蒴也は到底ヤクザ、しかも若頭になど見えない。
それを見た佐伯は、陽が蒴也の腕に抱かれゲストルームを出た時に抱いた恐怖は杞憂に終わったことを確信した。陽はトイレの失敗にもシャワーを浴びることにも少々パニックは起こしたものの、蒴也が収めることができたのだから。
陽にとって奇跡のような出逢いは蒴也にとっても同じなのだろう。
行く先は決して平坦な道ではない。
ヤクザとして、経営者として幾つもの修羅場を潜ってきた蒴也でさえも経験したこともないような壁にぶち当たることが必ずやある。
そんな時、佐伯と言う闇医者がいれば案外頼りになるのではと吾妻は考えていた。
暫く男3人で陽の寝顔を見ていたが、いつまでもこうしているわけにはいかない。
皆がそう考え始めた頃
『吾妻君、コーヒーを入れてくれるかい?』
佐伯の声がかかった。
陽のベッドのシーツを交換しようとゲストルームに戻れば診察の片付けをする佐伯の後ろ姿が見える。
『佐伯先生この度のご尽力、感謝致します』
佐伯との付き合いの中で、上辺だけでなく心の底から頭を下げたことなど初めてかもしれない。
所詮ヤクザと闇医者なのだ。金以外の繋がりなどなかったのだから。
『吾妻君、頭をあげて』
往診鞄に全てを仕舞い、でもね、と続ける佐伯は
『頭のいい吾妻君なら解っていると思うんだけどね』
本当に大変なのは、これからなのだ、と。
狭いアパートの部屋の中と長谷美由紀だけが陽の世界の全てだった。15年と言う長い時間、同じ世代の子供達が当然経験したことも感じたことも、陽にとっては全てが未知なのだ。
自分の気持ちを伝えるための言葉を教え、相手の気持ちを理解するための想像力を育み、社会性を身につけるための手助けをする。
美しいものに感動する感性を養い、危険を認知し回避するための能力を身につける。
自分が幸せだと感じられる人生を歩めるよう選択する勇気を培う。
数え上げればきりがないほど、具体的な数などわからないほど、陽にはたくさんのものが不足しているのだ。
いや違う。陽は15歳の少年が持ち合わせているであろうものを1つとして持ってはいないのだ。
これから、どれだけの経験をして、どんなことを感じ成長していけるのか、陽の人生がヤクザ2人と闇医者1人の肩にかかっている。
『まずは健康な心と体を作ってあげたいな』
作ってあげるなんて烏滸がましい言い方だね、とらしくもなく謙遜しているが、それは医師である佐伯が一番に願うことなのだろう。
だから吾妻も
『お力添え、よろしくお願い致します』
再び深々と頭を下げたのだ。
『とりあえず協力の手始めにシーツの交換を手伝うよ』
少し乱暴な手付きでベッドからシーツを剥がす佐伯の横顔には今までの胡散臭さが抜け落ちてるように見える。
佐伯と吾妻、2人の初めての共同作業?でシーツを交換した頃に、陽を腕に抱いた蒴也がゲストルームへと戻る。
『疲れて寝ちまったみたいだ』
清潔なシーツがかけられたベッドに陽を横たえ掛布で肩まで覆う。
『ゆっくり休め』
そうして陽の額に1つキスを落とす蒴也は到底ヤクザ、しかも若頭になど見えない。
それを見た佐伯は、陽が蒴也の腕に抱かれゲストルームを出た時に抱いた恐怖は杞憂に終わったことを確信した。陽はトイレの失敗にもシャワーを浴びることにも少々パニックは起こしたものの、蒴也が収めることができたのだから。
陽にとって奇跡のような出逢いは蒴也にとっても同じなのだろう。
行く先は決して平坦な道ではない。
ヤクザとして、経営者として幾つもの修羅場を潜ってきた蒴也でさえも経験したこともないような壁にぶち当たることが必ずやある。
そんな時、佐伯と言う闇医者がいれば案外頼りになるのではと吾妻は考えていた。
暫く男3人で陽の寝顔を見ていたが、いつまでもこうしているわけにはいかない。
皆がそう考え始めた頃
『吾妻君、コーヒーを入れてくれるかい?』
佐伯の声がかかった。
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