53 / 197
始まった日常
53
しおりを挟む
『トイレ?陽くんが?』
蒴也がどんな意図を持って聞いているのか、掴みかねているのだろう。
咲恵が何を答えていいのか戸惑っているのが見て取れる。
『あっ、いや』
陽は「おしっこ宣言」をすると蒴也と手を繋ぎトイレに向かう。昨日もそうだったのかと聞いてみれば
『あ、そう言うことね』
蒴也の変態臭い思考になど全く気付いていないのだろう。
「おしっこ宣言」の後は迷うことなく一人でトイレを済ませていたと言う。
それを聞いて大きく息を吐いた蒴也に、咲恵はトイレの失敗で陽がパニックを起こさなかったかを聞きたかったのだと優しい勘違いをしてくれたのだ。
『トイレの失敗はなかったわよ』
だから、パニックも起こしてはいないのだと。
『あ あぁ、それなら良かったです』
取り繕った笑顔に違和感はないはずだ。
大丈夫。陽のあられもない姿は誰にも晒さずに済みそうだ。
しかし、昨日は咲恵が入浴のサポートもしたと言っていた。
『お風呂は?一人で?』
何かを思い出すように頬に手を当てた咲恵は
『お風呂は』
シャンプーとボディソープがわからなかったみたいね。
髪の毛が長いから自分では綺麗に洗えていなかったけど、体は背中以外の手の届く所は自分で洗えてたわよ。最終的には手伝ったけれど。
やはり、と思う。
咲恵は陽の裸を見ているのだ。
いや。陽が一人で入浴するのは難しいとは解っていた。だからこそ、生活のサポートを咲恵に依頼したのだ。
しかも蒴也とは違い、咲恵自身は爪の先ほども邪心など持たずに入浴のサポートをしたはずなのだ。
でも、と思ってしまうのは己の狭量さ故か、執着心の強さ故か。
いずれにしても、咲恵に感謝こそすれど責める理由など当然ない。ないのだが遣り場のない不快感をどう扱えばいいのか蒴也には検討も付かなかった。
如何せん30年生きてきた蒴也が初めて持った感情だったのだから。
『風呂はできる限り俺が入れます』
昨日は不在で手間を掛けたと咲恵に頭を下げれば、柔らかな視線を向けられる。純粋に咲恵への配慮だと受け取ったのだろう。
『そうね。その方が陽くんの為になると思うわ』
慣れれば一人で入れるようになるはずだし。でも、無理な時は言ってね。
とは言われても極力それは避けたいです。喉元まで出かかった言葉を飲み込み
『ありがとうございます』
再び頭を下げれば、咲恵は嬉しそうに笑っていた。
陽の健やかな成長だけではなく、蒴也が保護者として成長していくことにも、心を砕いてくれるのだろう。
蒴也本人は保護者失格どころか接見禁止命令が出されてもおかしくないほどの不純な想いを抱いていると言うのに。
己の汚れた思考に辟易としながらも、この先陽の素肌は誰にも見せまいと強く誓った蒴也だった。
陽のことを大切に思っているのは本当なのだからと、会ったこともない神様に懺悔した。
蒴也がどんな意図を持って聞いているのか、掴みかねているのだろう。
咲恵が何を答えていいのか戸惑っているのが見て取れる。
『あっ、いや』
陽は「おしっこ宣言」をすると蒴也と手を繋ぎトイレに向かう。昨日もそうだったのかと聞いてみれば
『あ、そう言うことね』
蒴也の変態臭い思考になど全く気付いていないのだろう。
「おしっこ宣言」の後は迷うことなく一人でトイレを済ませていたと言う。
それを聞いて大きく息を吐いた蒴也に、咲恵はトイレの失敗で陽がパニックを起こさなかったかを聞きたかったのだと優しい勘違いをしてくれたのだ。
『トイレの失敗はなかったわよ』
だから、パニックも起こしてはいないのだと。
『あ あぁ、それなら良かったです』
取り繕った笑顔に違和感はないはずだ。
大丈夫。陽のあられもない姿は誰にも晒さずに済みそうだ。
しかし、昨日は咲恵が入浴のサポートもしたと言っていた。
『お風呂は?一人で?』
何かを思い出すように頬に手を当てた咲恵は
『お風呂は』
シャンプーとボディソープがわからなかったみたいね。
髪の毛が長いから自分では綺麗に洗えていなかったけど、体は背中以外の手の届く所は自分で洗えてたわよ。最終的には手伝ったけれど。
やはり、と思う。
咲恵は陽の裸を見ているのだ。
いや。陽が一人で入浴するのは難しいとは解っていた。だからこそ、生活のサポートを咲恵に依頼したのだ。
しかも蒴也とは違い、咲恵自身は爪の先ほども邪心など持たずに入浴のサポートをしたはずなのだ。
でも、と思ってしまうのは己の狭量さ故か、執着心の強さ故か。
いずれにしても、咲恵に感謝こそすれど責める理由など当然ない。ないのだが遣り場のない不快感をどう扱えばいいのか蒴也には検討も付かなかった。
如何せん30年生きてきた蒴也が初めて持った感情だったのだから。
『風呂はできる限り俺が入れます』
昨日は不在で手間を掛けたと咲恵に頭を下げれば、柔らかな視線を向けられる。純粋に咲恵への配慮だと受け取ったのだろう。
『そうね。その方が陽くんの為になると思うわ』
慣れれば一人で入れるようになるはずだし。でも、無理な時は言ってね。
とは言われても極力それは避けたいです。喉元まで出かかった言葉を飲み込み
『ありがとうございます』
再び頭を下げれば、咲恵は嬉しそうに笑っていた。
陽の健やかな成長だけではなく、蒴也が保護者として成長していくことにも、心を砕いてくれるのだろう。
蒴也本人は保護者失格どころか接見禁止命令が出されてもおかしくないほどの不純な想いを抱いていると言うのに。
己の汚れた思考に辟易としながらも、この先陽の素肌は誰にも見せまいと強く誓った蒴也だった。
陽のことを大切に思っているのは本当なのだからと、会ったこともない神様に懺悔した。
10
あなたにおすすめの小説
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる