121 / 197
煌めく太陽 満ちる月
118
しおりを挟む
その後2週間程を工藤総合病院で過ごした朔也と陽は、陽だまりのような柔らかな時間を楽しんだ。
回復の兆しが見えてからは吾妻により仕事が持ち込まれたが、それでも最低限の決裁のみだ。吾妻も気を遣ってのことなのだろうが退院後、忙殺されることは容易に想像がついた。
また入院中、何回か組関係の見舞いがあり明星会会長の幸田や創世会の幹事長、土門が病室を訪れたが、その際、陽を病室から遠ざけるため、咲恵や楠瀬等と院内のカフェに何度か避難させた。
普段は鹿島の用意する手の込んだデザートばかりを口にしている陽が、カフェで味を覚えたクリームソーダの虜になってしまったようだ。
咲恵も鹿島も、そして朔也も陽には極力、添加物の少ない物をと考え実践していたが、ケミカルな味と見た目は陽の心を鷲掴みにしたのだろう。
見舞いの客が去り、病室に陽を呼び戻すとペーパーグラスに入ったクリームソーダを持っていたことがあった。
『さくや どうぞ』
鹿島が陽に料理を出す際の口調を真似たのだろうが、一同は苦笑するしかない。
『ありがとう』
と受けとる朔也を見つめる陽は、こんなに美味しい物を朔也にも味わって欲しいと純粋に思っているのだ。大人であれば独りよがりとも思われる行動だが、今の陽には十分過ぎるほどの成長だろう。実母である長谷美由紀に愛情を向けられずに生きてきた陽だが、今は周囲の愛情に包まれ大切な相手を気遣うことを覚えてくれた。
言い聞かせたことなど1度もないが、自身の周りを見て自然と身に付いたことなのだろう。
ほんの些細な出来事だが、陽のこう言った言動1つ1つが一同の心をほっこりとさせる。
朔也のために届けられたクリームソーダに手を付けてみれば、なるほど極々オーソドックスなそれが一味も二味も違って味わい深く感じられる…
わけもなく、やはりクリームソーダはクリームソーダだ。
しかも三十路を過ぎた男には甘過ぎるそれを完食するのは至難の技ではあったが、キラキラと煌めく瞳で見つめられれば、完食以外の選択肢など許されないだろう。
シャンパンにビール発泡性のアルコールを好んで口にする朔也だが、鮮やかなグリーンの甘いソーダ水は久々の強敵で打倒までにかなりの時間を要した。
この数分で30年分の甘味を食べさせられた気もするが
『クリームソーダ おいしい』
満足げに微笑む陽を相手に、本心は墓場まで持って行こうと不要なほどの大決心をした朔也だった。そんな思いは胸中にしまい
『あぁ、陽。美味しかった。ご馳走さま』
視線だけで周囲に口直しを所望する朔也だった。
回復の兆しが見えてからは吾妻により仕事が持ち込まれたが、それでも最低限の決裁のみだ。吾妻も気を遣ってのことなのだろうが退院後、忙殺されることは容易に想像がついた。
また入院中、何回か組関係の見舞いがあり明星会会長の幸田や創世会の幹事長、土門が病室を訪れたが、その際、陽を病室から遠ざけるため、咲恵や楠瀬等と院内のカフェに何度か避難させた。
普段は鹿島の用意する手の込んだデザートばかりを口にしている陽が、カフェで味を覚えたクリームソーダの虜になってしまったようだ。
咲恵も鹿島も、そして朔也も陽には極力、添加物の少ない物をと考え実践していたが、ケミカルな味と見た目は陽の心を鷲掴みにしたのだろう。
見舞いの客が去り、病室に陽を呼び戻すとペーパーグラスに入ったクリームソーダを持っていたことがあった。
『さくや どうぞ』
鹿島が陽に料理を出す際の口調を真似たのだろうが、一同は苦笑するしかない。
『ありがとう』
と受けとる朔也を見つめる陽は、こんなに美味しい物を朔也にも味わって欲しいと純粋に思っているのだ。大人であれば独りよがりとも思われる行動だが、今の陽には十分過ぎるほどの成長だろう。実母である長谷美由紀に愛情を向けられずに生きてきた陽だが、今は周囲の愛情に包まれ大切な相手を気遣うことを覚えてくれた。
言い聞かせたことなど1度もないが、自身の周りを見て自然と身に付いたことなのだろう。
ほんの些細な出来事だが、陽のこう言った言動1つ1つが一同の心をほっこりとさせる。
朔也のために届けられたクリームソーダに手を付けてみれば、なるほど極々オーソドックスなそれが一味も二味も違って味わい深く感じられる…
わけもなく、やはりクリームソーダはクリームソーダだ。
しかも三十路を過ぎた男には甘過ぎるそれを完食するのは至難の技ではあったが、キラキラと煌めく瞳で見つめられれば、完食以外の選択肢など許されないだろう。
シャンパンにビール発泡性のアルコールを好んで口にする朔也だが、鮮やかなグリーンの甘いソーダ水は久々の強敵で打倒までにかなりの時間を要した。
この数分で30年分の甘味を食べさせられた気もするが
『クリームソーダ おいしい』
満足げに微笑む陽を相手に、本心は墓場まで持って行こうと不要なほどの大決心をした朔也だった。そんな思いは胸中にしまい
『あぁ、陽。美味しかった。ご馳走さま』
視線だけで周囲に口直しを所望する朔也だった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
248
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる