太陽と月

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天岩戸

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心からの礼を尽くしているかと言えば、尽くしていない。
それは、通した店のことではなく朔也と吾妻の心積もりが、と言う意味でだ。

しかし、それを100%悟られるのも宜しくない。

『こちらのお店、隠れた名店なんです』

議員ほどのお方であれば、逆に足を踏み入れ難いのではないかと、お招きしたのです。

本当でもあり、嘘でもある吾妻の能書きは続く。

『土門も、この店の回鍋肉のファンなんですよ』

土門の名を出したところで、不知火の表情がようやく柔らかくなる。不知火とは違う種類の権力を手に入れている土門の名が出たことで気を良くしたのだろう。単純な狸オヤジだ。
しかし敵は狸オヤジだけではない。淫魔もねじ伏せなければならないのだ。

『亜美さんですね。初めまして』

ここで初めて朔也が口を開いたのだ。朔也にとってのビジネススーツに身を包み、いつもと変わらない仕事用の笑顔を浮かべる。

華やかな振り袖姿の亜美は、その振り袖を着るに相応しい相手に相応しい場所に招かれたとは思っていないのだろう。

個室の入り口に立ったまま動こうともしない。そのまま踵を返してもおかしくないほど立腹しているように見えたのだが、


その次の瞬間、朔也も吾妻も己等の作戦失敗を悟ったのだ。
亜美の表情は誰が見ても解りやすく恋する乙女のそれになっていた。

ロックオンされた朔也は、瞬時に次の作戦をと脳をフル回転させるが、恋する乙女の心理状態が全くもって解らない以上、すぐに打てる手などなかったのだ。

繊細さの一切感じられない豪快な大皿中華料理を囲みながら、恋する乙女は既に朔也に夢中だ。

『朔也さんは、私とのお見合いをどう考えていらっしゃるの?』

直球勝負だが、直球で返すわけにはいかない。

『大変いいお話をいただいたとは存じますが』

佐伯に用意させた診断書をを不知火議員の前に広げる。
不快感を露にした不知火に畳み掛けるように問う

『私では不知火先生や亜美さんの優秀な後継者を残すお手伝いができないかもしれません』

成功だ。

不知火議員は金脈と優秀な後継者、両方が欲しいのだ。不知火ほどの人物であれば、それも可能なはずだ。
しかし、目の前の朔也には1つが欠落している。すぐに他を探したいのだろう。
朔也も吾妻も不知火議員にそれを言わせるほど酷な人間ではない。まぁ、実際にはどちらから断ろうと話がなくなればそれでいいのだが。

『役立たずは、先生にも亜美さんにも近付くべきではないと考えております』

亜美が何かを喋る前に不知火議員と朔也の間で話を壊さなければならない。少々焦って壊そうとした結果、亜美に口を挟ませるタイミングを与えてしまったのが朔也の失敗だった。
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