太陽と月

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天岩戸

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『あら。不知火の家系など、それほど気にすることもなくってよ』

途絶えても大したことはないと言いきる亜美に慌てるのは不知火議員だ。

『亜美。愚かなことを言うものではない』

嗜められる亜美だが、普段から甘やかされている祖父相手に口を慎むわけなどない。

『あら、おじいちゃま』

跡継ぎを残すための結婚など、する気はない。不知火家は大奥を作り上げて残すほどの血筋があるわけではない、とバッサリと斬っている。

それほどまでに、この数秒で朔也に魅せられたのだろう。

『亜美さん』

それは違うと言いきる朔也は、あくまで紳士然としている。
こんなにも立派な家柄を途絶えさせるようなことがあってはいけない、と。
調査の結果、不知火議員に息子は2人いるが孫は亜美1人きりだ。あともう1人の息子は子宝に恵まれなかったようだ。
だからこそ、不知火議員も後継者に拘るのだろう。

『あら、おじいちゃまだって、私が幸せになれるなら、それが一番大切なことよね?』

ここで不知火議員に、孫への愛情よりも後継者への拘りを見せてもらわねばなるまい。

『亜美さん、そのような言い方では不知火先生もお困りになるのでは?』

満足げな不知火議員の顔を見れば、今の一言か正解だったことは間違いない。もう一押しだ。

『子を得ると言う未知の幸福を貴女から奪うことなど許されるわけがない』

あとは不知火議員が説き伏せてくれればいい。
そんな思いで不知火と視線を合わせれば、朔也の意図を読み取ったのだろう、不知火も亜美を説得にかかる。

しかし予想以上の、そして必要以上の亜美の抵抗に不知火議員も徐々に閉口していく。
これでは亜美の思うツボではないか。

『ねぇ朔也さん』

私達、お付き合いしてみませんこと?きっと相性がいいと思うわ。

根拠のないその自信はどこから来るのかと問いたいところだが、生憎そんな遣り取りさえ面倒だ。
話を終わらせ、早く陽の待つ場所へ帰りたいと思った。
だからだろう。朔也の言葉尻が少々キツくなる。

『私はとても古い結婚感を持った人間です』

女性には貞操観念と一生を掛けて私に傅くことを必要最低限の条件だと伝える。
そして亜美には、そのような結婚観が理解できるのかと尋ねる。

そして、そこでも亜美の答えは朔也の斜め上をいく。

『朔也さん、ごめんなさい』

初めて聞いた言葉が多すぎて全くわからない、と宣う。
だから、理解できるのかどうかも含めて少し時間が欲しいと言う。
良くも悪くも、もっと短絡的な答えを出すと思っていた亜美から時間が欲しいと言われるのは想定外だった。

亜美なりに真剣に考えようとしているのだろうが、亜美が何をどう思ったとしても朔也が出す答えは変わらないのだから時間など必要ないと思うのだが。
仮にも見合いの席で言うようなことではないだろう。

『そうですね』

難しいことを言ったつもりはないが、朔也の考えと亜美の考えが必ずしも合致するわけではないと伝え、今日はお引き取り願おうと思った瞬間

亜美の腕が朔也の首に回る。その勢いのまま口付けられ、朔也が固まっている。

『今のは貞操観念の欠片も見受けられない行動ですね』

冷たく言いはなったのは、隣で眉間に皺を寄せる吾妻だった。

『亜美さんの今の行動も含め、若も考えるでしょう』

今日はお引き取りくださいと伝えれば、不知火議員が亜美の腕を引っ張るようにして、その場を辞した。
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