太陽と月

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歪んだ愛情

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足を踏み入れた雑居ビルは、外見よりも屋内の方が清潔でテナントもネット通販の会社やコンテンツ制作の会社ばかりだ。
来客ありきの店舗と違い、事務仕事だけをこなせれば問題ないのだろう。華やかさはないがビル全体が落ち着いた雰囲気に包まれている。

つまりは犯罪の臭いはしない場所なのだ。あくまでも工藤の持つ情報と、そこから導き出された推察なのだ。100%の確率で、このビルにいるとは言いきれない。
わかってはいても一刻も早く陽を抱き締めたいのだ。

逸る気持ちを抑えきれず、1階の空室のドアノブを回す。
なんの抵抗もなく開いたドアには鍵をかけた様子などなかった。

ドアを開け目にした光景は朔也の理性を奪い去るには十分なものだった。

部屋の中央に置かれた簡素なパイプベッドの上で大の字に手足を固定された陽は下着すら纏ってはいない。
室内は然して温かくはないが、うっすらと汗をかき頬を紅潮させ、モゾモゾと動きながら、小さな小さな声で譫言のように朔也の名を呼んでいる。
そして相変わらず控えめな大きさではあるが、陽の中心はしっかりと立ち上がって雫を溢している。
媚薬を使われているであろうことは容易に想像がつく。

そして、あろうことか見ず知らずの男、南野であろう輩がスラックスを寛げて陽に馬乗りになっている。
無理やり挿入するつもりだったのだろう。右手にはローションのボトルが見える。
南野とて、この部屋のドアが開けられた時点で朔也に目を向けたのだ。その存在に気付いているのにも関わらず、特に動揺も見せず、行為を中断する様子もない。

朔也が生まれて初めて明確な殺意を覚えた瞬間だった。
つかつかとベッドに歩み寄り予備動作もなく南野の顎を蹴り上げた。

ベッドの下へと転げ落ちた南野は口元からは大量の血が流れている。舌を噛んだのかもしれないが知ったことではない。

騒ぎを聞き駆けつけた吾妻と工藤が瞬く間に南野を縛り上げる。
吾妻も工藤も『インテリヤクザ』枠に入る類いの人間のはずだ。
その割には荒事に動じることもなく、むしろ慣れた様子で『後片付け』を済ませていく。

朔也はその間に拘束された陽の手足を解放し漸く陽を腕の中に抱き締めた。

スーツのジャケットで陽を包み、横抱きで部屋を出ようとするが、媚薬のせいで過敏になった身体が辛いのだろう。
布が擦れるだけでも熱のある溜め息を溢している。

『朔也  麻生が外で控えている』

朔也の自動車には今も尚、亜美が乗っているはずだ。そこに陽を連れた朔也を行かせるわけにはいかない。

吾妻は自身が乗りつけた自動車に朔也と陽を乗せるつもりなのだ。
自宅マンションには、既に佐伯を待機させていると言う。
佐伯からの連絡で咲恵や風間、楠瀬と鹿島も然るべき処置の後、身の安全を確認できたのだと。
どこまでも聡い若頭補佐は、朔也の頭に血が上っている間にも、冷静に先の先まで考え段取りをしていたのだ。

そして

『後片付けはお任せください』

成り行きとは言え付き合わせてしまった工藤が、最後の片付けにまで手を貸すと言う。

後日、必ず礼をすると伝え、朔也は麻生の運転で自宅マンションを目指すのだった。

『それにしても』

この状態で陽を自宅マンションまで我慢させるのは、随分と酷なことなのかもしれない。
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