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沈黙の護衛騎士6
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説明を聞いた母親ははっとして口元に手を当てた。眉根を寄せながら、ユリアナにきつい口調で命じる。
「ユリアナ、このことを決して他の方に言ってはいけません。いいですか、後でお父様と相談するまで、決して漏らしてはいけませんよ」
「……はい」
母親は不安げな様子のまま、ユリアナの目をじっと見つめた。
「あなたは私たちの……、たったひとりの大切な娘なの。いいわね、そのことを覚えておくのよ」
「は、はい。お母様」
その夜、視察から戻ってきた父親は母親と共にユリアナの部屋へやってきた。人払いをしたところで、アーメント侯爵が重い口を開く。
「ユリアナ、お前の話を聞いた。その力は、先見の力と思われるが……、お前は神殿に行きたいか?」
「……神殿、ですか?」
「あぁ。神殿に行き聖女の力かどうか調べることもできる。だが万一、聖女と認定されてしまえば……そのまま神殿から出ることは叶わなくなる。お前にその覚悟があれば、連れて行くこともできるが」
「嫌です、私」
神殿に閉じ込められる生活なんて、我慢できる気がしない。さらに聖女となると、神に仕える為に結婚することは叶わなくなる。
——そんなの、嫌。私、レオナルド殿下のことが……、好きなのに。
まだ誰にも口にしたことのない想い。幼い頃からレオナルドは傍にいて、いつもユリアナと一緒に笑って過ごしていた。最近は素っ気ない態度をとられ、悲しくなることもあるけれどやはり、彼が婚約者を決めるまでは諦めたくない。
口をギュッと固く結んだ娘を見た侯爵は、ふうっと重い息を吐いた。
「わかった。私もお前を神殿などに奪われたくはない。お前はきっと、先見をした未来を変えると、身体の一部を代償としてとられるのだろう。……私の祖母の姉が、お前と同じ力を持っていた」
「それは」
「あぁ、彼女の力は神殿によって利用され尽くして、……短命だったと聞く。ユリアナ、この意味がわかるな?」
「はい、もし私の力が本当に聖女の力だったら、私の命を削ることになる」
「そうだ。そして神殿も王家も、お前を利用するだろう。今後、王宮に行くことは止めなさい。成人するまで、社交界に出ることもない。その後は……、だれかと結婚すればそれでいい」
考え込むように俯いた父親に、ユリアナは眉尻を下げて懇願した。
「お父様、お願いします。音楽会だけは……、それまでは王宮に行かせてください。それに今、急に私が抜けてしまうと、何事かと噂されてしまいます」
「音楽会か。……厄介だな。だが、確かに詮索されるよりは出ておく方がいいか。ユリアナ、音楽会に行くことは許すが、その後はもう王宮へ行く必要はない」
「お父様!」
「ユリアナ、お前の先見は何が条件なのかわからない上に、代償が何になるかもわからない。だから先見した内容を誰にも伝えてはいけない。将来が変わると、いいか。お前は何かを失うことになる。今日は足の爪だけで済んだが、次はどうなるか」
父の伯祖母の聖女は先見をする度に、身体の機能を犠牲とした。最後は声を出すこともできず、内臓を代償としたのか崩れ落ちるように亡くなったという。
「お父様、神殿はともかく、なぜ王家にも秘密にしなければいけないのですか?」
「当たり前だ。お前の力を知った途端、利用されるに決まっている。……お前を政治権力の道具にしたくはない。ユリアナを心から愛してくれる、信頼できる男を探すからその者のところに嫁げばいい」
「……わかりました」
侯爵令嬢だから、父の命じる相手と政略結婚しなければいけないことは覚悟している。その相手がレオナルドであればと願っていたけれど、父親の様子を見る限りではそれも難しいように見える。
——けれど、この力のことを秘密にしておけば、大丈夫よね。
音楽会までには、何かしらの答えがきっとでる。エドワードはひとつ年上の公爵令嬢と婚約するのではないかと噂されていた。そしてレオナルドの相手は——、ユリアナではないかと噂されていた。
「ユリアナ、このことを決して他の方に言ってはいけません。いいですか、後でお父様と相談するまで、決して漏らしてはいけませんよ」
「……はい」
母親は不安げな様子のまま、ユリアナの目をじっと見つめた。
「あなたは私たちの……、たったひとりの大切な娘なの。いいわね、そのことを覚えておくのよ」
「は、はい。お母様」
その夜、視察から戻ってきた父親は母親と共にユリアナの部屋へやってきた。人払いをしたところで、アーメント侯爵が重い口を開く。
「ユリアナ、お前の話を聞いた。その力は、先見の力と思われるが……、お前は神殿に行きたいか?」
「……神殿、ですか?」
「あぁ。神殿に行き聖女の力かどうか調べることもできる。だが万一、聖女と認定されてしまえば……そのまま神殿から出ることは叶わなくなる。お前にその覚悟があれば、連れて行くこともできるが」
「嫌です、私」
神殿に閉じ込められる生活なんて、我慢できる気がしない。さらに聖女となると、神に仕える為に結婚することは叶わなくなる。
——そんなの、嫌。私、レオナルド殿下のことが……、好きなのに。
まだ誰にも口にしたことのない想い。幼い頃からレオナルドは傍にいて、いつもユリアナと一緒に笑って過ごしていた。最近は素っ気ない態度をとられ、悲しくなることもあるけれどやはり、彼が婚約者を決めるまでは諦めたくない。
口をギュッと固く結んだ娘を見た侯爵は、ふうっと重い息を吐いた。
「わかった。私もお前を神殿などに奪われたくはない。お前はきっと、先見をした未来を変えると、身体の一部を代償としてとられるのだろう。……私の祖母の姉が、お前と同じ力を持っていた」
「それは」
「あぁ、彼女の力は神殿によって利用され尽くして、……短命だったと聞く。ユリアナ、この意味がわかるな?」
「はい、もし私の力が本当に聖女の力だったら、私の命を削ることになる」
「そうだ。そして神殿も王家も、お前を利用するだろう。今後、王宮に行くことは止めなさい。成人するまで、社交界に出ることもない。その後は……、だれかと結婚すればそれでいい」
考え込むように俯いた父親に、ユリアナは眉尻を下げて懇願した。
「お父様、お願いします。音楽会だけは……、それまでは王宮に行かせてください。それに今、急に私が抜けてしまうと、何事かと噂されてしまいます」
「音楽会か。……厄介だな。だが、確かに詮索されるよりは出ておく方がいいか。ユリアナ、音楽会に行くことは許すが、その後はもう王宮へ行く必要はない」
「お父様!」
「ユリアナ、お前の先見は何が条件なのかわからない上に、代償が何になるかもわからない。だから先見した内容を誰にも伝えてはいけない。将来が変わると、いいか。お前は何かを失うことになる。今日は足の爪だけで済んだが、次はどうなるか」
父の伯祖母の聖女は先見をする度に、身体の機能を犠牲とした。最後は声を出すこともできず、内臓を代償としたのか崩れ落ちるように亡くなったという。
「お父様、神殿はともかく、なぜ王家にも秘密にしなければいけないのですか?」
「当たり前だ。お前の力を知った途端、利用されるに決まっている。……お前を政治権力の道具にしたくはない。ユリアナを心から愛してくれる、信頼できる男を探すからその者のところに嫁げばいい」
「……わかりました」
侯爵令嬢だから、父の命じる相手と政略結婚しなければいけないことは覚悟している。その相手がレオナルドであればと願っていたけれど、父親の様子を見る限りではそれも難しいように見える。
——けれど、この力のことを秘密にしておけば、大丈夫よね。
音楽会までには、何かしらの答えがきっとでる。エドワードはひとつ年上の公爵令嬢と婚約するのではないかと噂されていた。そしてレオナルドの相手は——、ユリアナではないかと噂されていた。
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