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盲目の聖女18
しおりを挟むレオナルドを止めようと、ユリアナは必死になって腕を引いた。しかし、屈強な身体を持つ彼はびくともしない。喉がゴクリと動く音がする。彼は、小瓶の液体を飲んでしまったのだろうか。その瞬間にがくりとレオナルドが膝をついた。
「い、いやぁ――っ」
「はははははっ、飲んだか! それは薬でも何でもない、悪人を成敗するものじゃ!」
ごほっ、ごほっと喉の奥から吐き出すように咳をしたレオナルドは、喉のあたりを触っている。ユリアナは彼を失ってしまうのかと恐怖に襲われると、顔を青くしてふらりと倒れそうになった。
「ユリアナッ?」
慌ててレオナルドが抱き留める。そのまま彼女の肩を支えるようにして立ち上がらせると、レオナルドは硬い声を出した。
「やはり毒であったか。シャレール殿」
「な、なぜ立ち上がれるのじゃ! そなた、飲んだのではないのか?」
動揺するシャレールをレオナルドは怒気をはらんだ目で見つめた。
「シャレール殿、ここまでだ。この毒は……俺を狙った襲撃犯に使われた液体と同じ匂いがした。鑑識が調べればすぐにわかるだろう」
「なっ、何を言うか! 私を捕まえれば、聖女の薬は手に入らぬぞ!」
「そんなものが本当につくれるなら、なぜもっと早くユリアナに渡さなかった。薬があると言えば、苦労することなく彼女を手に入れることができただろう。それに……、ユリアナは俺が犠牲になってまで、自分の目を癒したいとは思わないはずだ」
「そんな、何を根拠にっ!」
レオナルドはスッと目を細めると、シャレールに言い放った。
「彼女は、俺を守るために目の光を失ったことが誇りなんだ。その誇りを、汚すことは俺であってもできない。神殿長なのに、そんなこともわからないのか?」
煽られた途端、ギリ、と奥歯を噛みしめたシャレールは声を張り上げて命令する。
「神殿兵! こやつを捕らえるんじゃ!」
シャレールが叫ぶと同時に、取り囲んでいた神殿兵たちがざっと足を踏み出してくる。
「お前たち……、この俺を捕らえるつもりか? 狂戦士と呼ばれた俺を相手にして、無傷でいられると思うなよ」
レオナルドはユリアナを後ろに庇い、剣を構えるとまとう空気を一気に変えた。殺気だった目をして目前の兵士たちを睨みつける。
「いいだろう、死にたい奴からかかって来い」
地を這うように昏く低い声を出しながら、腰を落とす。兵士たちが覚悟を決めるようにゴクリと喉を鳴らすが、レオナルドの覇気に恐れをなし、誰も先陣を切ることができない。
途端、正門の方で人の騒ぐ声がするのと同時に、どどどっと馬に乗った大勢の王宮騎士団が入り込んできた。一気に神殿兵たちを取り囲むと、馬のいななきがあちこちから聞こえてくる。
すると騎士団の先頭にいる男性の声が声を張り上げた。
「早まってないか! レオナルド!」
「兄上!」
騎士団を率いていたのは、エドワードであった。王太子権限を使って、宮廷騎士団を動かしたのだろう。周囲を見渡した彼は誰も倒れていないのを見ると「よかった、間に合ったか」と小さく呟いた。
神殿兵たちは、馬上にいる騎士団を見て戦意を喪失していた。馬に乗った騎士と戦う装備もなければ、警備中心の彼らは戦う方法を知らなかった。
宮廷騎士団がこの場を制圧したのを見て、エドワードは厳しい顔をして鋭い声をだした。
「神殿長殿。隣国の間者と通じていた疑義が生じている。貴族院の議長殿の立ち合いのもと、王宮で取り調べさせて頂こう」
「なにをっ!」
くしゃりと顔を歪めたシャレールは、馬上にいるエドワードを睨みつけた。するとユリアナを抱きかかえたレオナルドが冷たく言い放つ。
「証拠としてこの薬をいただいた。観念してもらおう」
「このっ、若造が! 私は……! 私は!」
レオナルドが冷たく言い放つと、シャレールはその場に項垂れた。この毒をつくれるのは自分だけだと証明したからには、もう言い逃れはできない。
彼女は騎士団に取り囲まれると、がくりと膝をついた。
「ユリアナ、もう大丈夫だ」
その声を聞くとユリアナはレオナルドの腕の中で、安堵すると同時にふらりと意識を手放した。
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