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森の奥の屋敷11
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「レオナルド、それにユリアナ嬢。本当に良かったな」
「はい、殿下。それに妃殿下も。このように美しい衣装を用意してくださり、ありがとうございます」
ユリアナはエドワードとセシリアを前にして、おじぎをした。左足は変わらず悪いため、レオナルドが隣に立ってそっと支えている。すると二人をほほえましく見ていたエドワードが、懐から一つの書類を取り出した。
「これは私からのお祝いだ。ほら、二人ともここに署名するんだ」
書類は『結婚証明書』だった。証人の欄にはユリアナの父である侯爵の署名があり、その下にはセイレーナ国王の署名と印が押してあった。
「兄上! 間に合ったか、ありがとう!」
「お前は呼んでも王宮に来ることはないからな。頼まれた通り、代わりに署名を貰っておいた。よし、丁度スカラ殿もいることだから、今ここで結婚式をしてしまえ」
「えっ」
ユリアナはいきなりのことに驚いて口を手で覆うと、レオナルドが頭を撫でた。
「この際だから、ユリアナ。ここで結婚式をしよう。君が納得できるように兄を通じて父上と侯爵に頼んでいた。それに実はこの衣装も、そのことも考えて用意したんだ」
「えっ、そ、そうなの?」
「以前、君は森の屋敷で結婚式をしたいと言っていたよな」
「そうだけど……、本当にここでするの?」
「あぁ、ここで。俺と、結婚しよう」
「ええ、ええ、レオナルド……!」
二人が見つめ合い、感極まっている間にエドワードの指示で執事たちがテキパキと動いていく。するとあっという間に、会場が整えられた。
「まさか、ここで結婚式の司式をすることになるとは思わなかった」
のんびりするつもりだったのに、と文句を言いながらもスカラは緑のローブを脱いだ。そして紫色の司祭服をはおり、金色の細長いストールを首にかける。レオナルドから事前に準備して欲しいと伝えられていたから、と苦笑いしている。
「スカラ様、ありがとうございます。あと、先ほどの約束はなかったことにしていただければ……、本当に申し訳ありません」
「大丈夫だ、最初からユリアナがレオナルド殿の束縛から逃れられるとは思っていないよ。さぁ、神殿長が直々に結婚式の司式をするなど、特別だよ。礼は後でたっぷりと返してもらおう」
「まぁ、スカラ様。私でできることでしたら、何でも」
「約束したからね」
新緑にあふれる森の奥から心地よい風が吹いてきて、森林の香りが広がっていく。レオナルドとユリアナは森を背景に立つスカラを目指して歩くように、離れたところに立った。
すると先ほど声をかけてきた子供たちが、ユリアナに何かを渡そうとして近づいて来る。
「どうした、ん? 何か持ってきたのか?」
「これ、雪の精のユリアナ様の冠をつくったの」
子どもたちが白く丸い花のついた茎を編み込んで、草冠をつくっていた。
「まぁ、可愛い! ティアラの代わりにどうかしら」
渡された草冠を手で触ると、ユリアナはそれを頭の上にのせた。緑の茎の間に白い花がぽつりぽつりと飾りのようについている。それは銀糸のようなユリアナの髪をより美しく彩らせた。
「似合っているよ。……本当に、素敵だ」
「そう? レオナルドがそういってくれると嬉しいわ。みんなもありがとう」
ユリアナがお礼を言うと、子供たちは顔いっぱいの笑顔になって親の元へ戻っていく。気がつくと音楽会で演奏したメンバーが、再び楽器を持って構えていた。
エドワードの指揮で『結婚行進曲』が演奏される。
「まぁ! この曲は!」
「兄上が準備していたのだろう」
レオナルドはいつものようにユリアナの隣に立つと、支えるように腕を回した。二人は曲に合わせてゆっくりとスカラの方へと歩いていく。
一歩、一歩。地面の硬さを踏みしめながら、ユリアナは前を向いて進んでいく。これからは、レオナルドと共に歩いていく。彼に支えられるだけでなく、これからは彼を支えていきたいと願いながら足を踏み出した。
「はい、殿下。それに妃殿下も。このように美しい衣装を用意してくださり、ありがとうございます」
ユリアナはエドワードとセシリアを前にして、おじぎをした。左足は変わらず悪いため、レオナルドが隣に立ってそっと支えている。すると二人をほほえましく見ていたエドワードが、懐から一つの書類を取り出した。
「これは私からのお祝いだ。ほら、二人ともここに署名するんだ」
書類は『結婚証明書』だった。証人の欄にはユリアナの父である侯爵の署名があり、その下にはセイレーナ国王の署名と印が押してあった。
「兄上! 間に合ったか、ありがとう!」
「お前は呼んでも王宮に来ることはないからな。頼まれた通り、代わりに署名を貰っておいた。よし、丁度スカラ殿もいることだから、今ここで結婚式をしてしまえ」
「えっ」
ユリアナはいきなりのことに驚いて口を手で覆うと、レオナルドが頭を撫でた。
「この際だから、ユリアナ。ここで結婚式をしよう。君が納得できるように兄を通じて父上と侯爵に頼んでいた。それに実はこの衣装も、そのことも考えて用意したんだ」
「えっ、そ、そうなの?」
「以前、君は森の屋敷で結婚式をしたいと言っていたよな」
「そうだけど……、本当にここでするの?」
「あぁ、ここで。俺と、結婚しよう」
「ええ、ええ、レオナルド……!」
二人が見つめ合い、感極まっている間にエドワードの指示で執事たちがテキパキと動いていく。するとあっという間に、会場が整えられた。
「まさか、ここで結婚式の司式をすることになるとは思わなかった」
のんびりするつもりだったのに、と文句を言いながらもスカラは緑のローブを脱いだ。そして紫色の司祭服をはおり、金色の細長いストールを首にかける。レオナルドから事前に準備して欲しいと伝えられていたから、と苦笑いしている。
「スカラ様、ありがとうございます。あと、先ほどの約束はなかったことにしていただければ……、本当に申し訳ありません」
「大丈夫だ、最初からユリアナがレオナルド殿の束縛から逃れられるとは思っていないよ。さぁ、神殿長が直々に結婚式の司式をするなど、特別だよ。礼は後でたっぷりと返してもらおう」
「まぁ、スカラ様。私でできることでしたら、何でも」
「約束したからね」
新緑にあふれる森の奥から心地よい風が吹いてきて、森林の香りが広がっていく。レオナルドとユリアナは森を背景に立つスカラを目指して歩くように、離れたところに立った。
すると先ほど声をかけてきた子供たちが、ユリアナに何かを渡そうとして近づいて来る。
「どうした、ん? 何か持ってきたのか?」
「これ、雪の精のユリアナ様の冠をつくったの」
子どもたちが白く丸い花のついた茎を編み込んで、草冠をつくっていた。
「まぁ、可愛い! ティアラの代わりにどうかしら」
渡された草冠を手で触ると、ユリアナはそれを頭の上にのせた。緑の茎の間に白い花がぽつりぽつりと飾りのようについている。それは銀糸のようなユリアナの髪をより美しく彩らせた。
「似合っているよ。……本当に、素敵だ」
「そう? レオナルドがそういってくれると嬉しいわ。みんなもありがとう」
ユリアナがお礼を言うと、子供たちは顔いっぱいの笑顔になって親の元へ戻っていく。気がつくと音楽会で演奏したメンバーが、再び楽器を持って構えていた。
エドワードの指揮で『結婚行進曲』が演奏される。
「まぁ! この曲は!」
「兄上が準備していたのだろう」
レオナルドはいつものようにユリアナの隣に立つと、支えるように腕を回した。二人は曲に合わせてゆっくりとスカラの方へと歩いていく。
一歩、一歩。地面の硬さを踏みしめながら、ユリアナは前を向いて進んでいく。これからは、レオナルドと共に歩いていく。彼に支えられるだけでなく、これからは彼を支えていきたいと願いながら足を踏み出した。
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